9月20日のストレスを解消。
肩が凝った、俺はマッサージに行くことにした。
「いらっしゃいませ」
受付で、整体師と思われる人が、対応した。
「あのう。初めてなんですけど」
「あら、そうですか。では、初めての方はここへ、記入をお願いしますね」
その人は、そう言って、受付の下にある棚から白い用紙を取り出した。
その白い用紙をひっくり返してみると、質問事項がいくつも書かれていた。
年齢、痛い所、直したい所、どなたの紹介できたのか、鼻糞は週に何回ほじるか、など真面目な質問、そうでない、わけの分からない質問がずらっと並んでいた。
「あのう、鼻糞をほじる回数なんて数えていないんですけど……」
俺が言うと、その整体師男は、目を大きく見開いた。
「あらっ、悪い子! 誰しも、自分の鼻糞について、ほじった回数を数えているわ。それを怠るとは人間として失格ね」
その整体師は男だと思っていたけど、口調は女だったので、俺は聞いてみた。
「あの、失礼ですが、先生は女の方でしょうか」
「私? 私はハーフよ。男と女のね」
「ああ、そうですか」
想像通りだったので、少し安心した。先生が自分でくちに出して、カミングアウトしたという点においても、好印象な感じだった。
「で、どんなマッサージを受けたいの?」
「えっ? それを決めるのは先生なのではないのですか?」
「私は決めないわよ。だって、お金を払うのはあなたですもの。あなたが払えるコースを私はするつもりよ」
「そうですか。じゃあ、5千円ぐらいのコースでお願いします」
「分かったわ。では寝なさい」
「えっ、どこにですか?」
「あら、決まっているじゃないの、あなたが今座っているソファーによ」
「えっ、どこか別の部屋でマッサージをするんじゃないのですか?」
「あいにく、節約の為に、私はこの部屋しか借りていないのよ。だから、ここでマッサージをすることになるわ」
「でも、ここ受付ですよね」
「そうね」
「窓ガラスがたくさんあるから外から丸見えですよね」
「それは安心して! 通行人が通ったら、上手く私の神技術で咄嗟に隠すから」
「いやあ、何か安心出来ないなあ」
「あなた、私の腕を疑う気なの?」
「いや、疑うとか以前の問題な気がしますよ」
「しょうがないわねえ。じゃあ、こうしましょう。あなた、初回だし、私の腕を疑っているみたいだから、特別にワンコインで施術をしてあげるわよ」
「ワンコインで? 嘘っ。激安じゃないですか。5百円ですよね」
「いいえ、一円よ」
「一円!? 電気代とか入れたら、マイナスじゃないですか」
「大丈夫よ。電気は消すから」
「不安だなあ」
「いくじなし。そんなんだから、こんなお店に来るのよ」
「うわっ、自虐的だ!」
「私はМなのよ。そして悲劇のヒロインを演じているのよ」
「じゃあ、いいか」
「ええ、いいのよ」
「じゃあ、お願いします」
俺は整体師に一円玉を渡した。
整体師は一円を受け取ると、俺をソファに寝かせた。
そして、マッサージを開始した。
流石に男も女も知り尽くしているだけあって、とても満足のいくマッサージだった。