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最後の記憶

新作です。最後までお付き合いしていただければ光栄です。

見慣れた街並みは地獄と化していた。

あちこちで燃えているのは見慣れた建物、あるいはそこで生活を営んでいた人間自身。最早悲鳴さえも聞こえないこの街には、火事による建物の倒壊音と、死に行く者たちの怨嗟の呻きだけが木霊する。


「……ッぐぅ」


そんな地獄のような街で、涼馬は刀を男の身体からゆっくりと引き抜く。刀身に張り付いた血を一振りで払い落す。

涼馬の周りには今、刀を引き抜いた男の他にも、同じ服装の男たちが何人か斃れていた。全員涼馬に襲い掛かり、そして返り討ちにあった者たちだ。

彼らは躊躇なく街の人々を持っていた銃で殺して回った。その中には涼馬の長年の友人であった人達も例外なく蜂の巣にされてしまっている。


「……一体、どうなっちまったんだよ」


涼馬の呟きは、昨日までとはまるで変わってしまった世界への問い。

ここは東京の一都市。太陽の元を歩るのを止め、夜の闇に身を落とす事を選んだ外道たちが集う日本一のギャングの街だった。しかしそれも昨日ほどまでの話。

 

イスカン帝国と名乗る未知の国家から、突然地球の各国家に宣戦布告が為されてから世界中に戦火が広がるまでさほど時間はかからなかった。全世界数百ヶ所に及ぶポイントから次元の歪み――ワームホールが発生、そこから奴らは武器を手に持ち、この世界にやってきた。


異世界から来た敵。


まだテレビが映っていた頃、ニュースキャスターが神妙な面持ちで伝えたその言葉を思い出す。

物語のような話だが、現実にこのような事態に陥れば信じざるを得ない。唯一おとぎ話と違うのは、この街に侵攻してきた敵は、化け物なんかでも魔法使いなんかでもない、ただ圧倒的に近未来的な兵器で身を覆う兵隊達だった。


そこで涼馬は、こちらへと近づく巨大な駆動音を耳で拾う。今日だけで散々耳にした死神の足音。

涼馬は自分の体を見下ろす。今の戦闘で全身のいたるところが血に染まり、もう満足に走ることも出来そうにない。逃げる事は不可能のようだ。

 

巨大な駆動音がやがて地響きに似た振動を伴い始めたとき、手前のビルの角から遂にそれは姿を現した。ちょうど信号機と同じくらい、三メートル程度の身長を持つ二足歩行のロボットだった。薄い灰色の無機質なカラーリングに、ずんぐりとした手足、頭にはセンサーでも付いているのか、ぼうっと発光する大きな一つ目がぐわんぐわんと動き、やがてこちらを捉える。


このロボットこそ、涼馬が所属していた星白組だけでなく、この街に蔓延っていた悪党たちを殺虫でもするかのように躊躇なく殺した怪物兵器。二足歩行するこのロボットは、見た目に反する高い駆動性に加え、生身の人間が使うような重火器は勿論、戦車の砲弾すらもかすり傷程度のダメージしか負わない堅牢さを持つ。生身で出くわせば勝てる道理はない。

 

ロボットが涼馬に向けて、手に持ったサブマシンガンと思しき銃の銃口をこちらに向ける。自衛隊の一○式戦車すら一瞬で鉄屑に変える代物だ。涼馬のような人間一人を殺すには十分過ぎるほどの威力だ。


「……チッ」


次の瞬間には肉塊に成り果てるかもしれないというこの状況においても、涼馬の心の内を占めるのは、今も銃を向けてきている連中への、圧倒的な怒り。

 

確かに涼馬もこれまでの人生が、決して褒められたものでないことは自覚している。しかし、それでもたった一夜にして、友を一片に失い、今もこうしてまるで蟲か何かのようにあっさりと殺されることの理不尽さに憤りを感じていた。


「糞野郎、化けて出てやる」


涼馬がロボットに向かってそう吐き捨てた直後、巨大な短機関銃から無数の弾丸が、涼馬に向かって殺到した。


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