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『 ウルクアレク 』  作者: かえる
【 ライフ・イズ・マネー、「手招きドラゴン」のお話 】
13/14

13 ハナコとハナゾー

 ぷかりと綿のような雲が浮かぶ晴れやかな空の下、軽快に水しぶきを上げる噴水のある広場では、一見すれば使用人が仕える屋敷の幼い令嬢に許しを請うているのだろう、さほど珍しくもない光景があった。


「本当にごめんね……」


「どうしてエリのお姉ちゃんはココアに謝るの? ココア、お金の使い方よくわからないから、エリのお姉ちゃんのお陰で、美味しいご飯いっぱい食べられよ」


「だってだって、私子供から、ココアちゃんからお金借りたんだよ。しかも十万ルネの大金だよ。うう、情けないし、もう申し訳なさでいっぱいです……」


 側に石椅子があるのにも関わらず、エリは石畳の上へ座り込みうなだれていた。

 飲食街での騒ぎがアレクの逃亡により収束した後、事の発端となった酒場の店主から損害を含めた代金を請求されたエリであったが、無一ルネの少女にはどうしようもなく、ただひたすらに頭を下げた。

 しかしながら、少女の頭が何十回と上下しようとも、店主の納得させることは叶わなかった。

 分かってはいるが謝ることしかできないエリと、分かってはいるが幾らかのルネは支払って貰わないといけない店主。

 求めるものが平行線を辿り、お互いが困り果てた。

 そんなおり、銀貨が詰まる巾着袋が銀髪の幼女から差し出されたのであった。


「エリのお姉ちゃん申し訳なくなくない。ぽんぽん」


 ココアの小さな手の平が、茶色の頭を優しく撫でる。


「うう、ありがとう。すぐには無理だけど必ず返すからね。お姉ちゃん絶対ココアちゃんにお金返すからね。約束します」


「あーなんだ……。そっちはそっちで事情があるだろうから口出ししづらいが、別にエリの嬢ちゃんが肩代わりすることもないんじゃねーのか。ちっこい嬢ちゃんが立て替えた金は、あの野郎が払うのが筋ってもんだろ。嬢ちゃんも十分子供なんだしよ」


 幾分声量が抑えられた野太い声による進言に、エリの顔が天候とは真逆に曇る。


「その……多分アレクからは無理かな、です」


「余計なお節介かも知れねえが、こうして嬢ちゃん達と会ったのもアマンテラスのご縁ってやつだ。俺があの野郎をガツンと」


「あっ、あっ。そこまでして頂けなくても、大丈夫ですっ。たたでさえノブナガさんには自衛団さんに口利きしてもらったりして迷惑を掛けたし、ノブナガさんがまたアレクに、えっと、とにかく大丈夫です、そう大丈夫ですっ。お気持ちだけありがたく頂きます。ココアちゃんのお金は私がなんとかします」


「お、おう、嬢ちゃんがそこまで言うなら、これ以上は野暮だな。けど、さっき自衛団の邪魔が入ってうやむやになっちまった野郎とのケジメだけは、取らせてもらうつもりだからよ。そこんとこはよろしくな」


 立ち上がるエリの傍らで、グローブをハメる拳同士がごつんとぶつけられた。

 そしてそれをじー、と見つめる碧い瞳があり、


「ねえ、ムキムキおじさんは勇者の仲間なの?」


 エリのスカートをきゅっと握りしめるココアが見上げながらにノブナガへ尋ねる。


「や、やっぱ、そっちの嬢ちゃんからしたら、おじさんかあ……。ちとヘコむが、仕方ねえかあ」


「あはは、なんかすみません」


 エリが一緒になって苦い笑いすると、ノブナガがその顔をきゅっと引き締め隣へ。


「ああ、お嬢ちゃんが言うように、このノブナガのお兄さんは勇者を支える仲間の一人だ。アーサーよりは小さ目だが、魔晶石板をよく見りゃ俺が写ってる絵があるぜ。もう少しだけ待ってろ。ここに居座ってるドラゴン野郎の件が片付いたら、俺達がぱぱっと魔王を倒してくっからよ……と、あれま」


「ココアちゃん、どうかした?」


 ノブナガから顔を隠すように自分のスカートへ顔を埋めるココアにエリが問うも、ぺたっとくっつく幼き少女は『むう』とこもる声を発しただけであった。


「ええとお……度々なんかすみません。あはは」


「ま、子供の行動ってもんは突拍子もないものが多いからよ、気にはしねえさ」


 がはははと豪快に笑って見せたノブナガは、ココアの銀髪に大きな手の平を乗せガシガシと撫でた。


「んじゃよ、俺は去るが『太陽の日』までは確実にこの街にいるから、何か困ったことがありゃ遠慮なく訪ねてきな。ああそれと、嬢ちゃん達の馬車は街の入口にある馬車置き場に預けてある。暇を見て確かめておいてくれ」


「ああっ、ハナコとハナゾーっ。ありがとうございます! あと遅くなっちゃいましたけれど、魔物から助けてくれてありがとうございます。いろいろお世話になりました」


「魔物は取り逃がしちまったけどな」


 そう言葉を残し、筋骨隆々とした大きな背中はお辞儀をするエリの前から遠ざかって行った。


「よし。ハナコとハナゾーの無事は聞けたし、気持ちを切り替えてココアちゃんのおうちを探そうかな」


「ふわ……ココアのお家?」


「うん。大きな街だけど案内板もあるし、日が暮れる前までにはココアちゃんを帰せると思うよ」


 やる気を見せるエリが、ココアの小さな手を取って繋ぐ。


「エリのお姉ちゃん、ココアのお家遠い……ずっとずっと向こう……ふわあ」


 エリがあくびをされながらに指を指された方を向けば、そこにあるのは山々を眼下に置く西の空であった。


「ううんとお、場所の方はよくわからなかったけれど、ココアちゃんってクリスタの子じゃないってことなのかな?」


「うん。ココア、ボルザックと一緒に旅をしてたの……それで、ドラゴンの話を聞いたからやって来て……お腹空いてバタンで……でも今はお腹いっぱいで、ふわあ……眠たくなっちゃったからバタンなの……」


「コ、ココアちゃん!?」


 エリは、糸が切れた操り人形のようにくたっとなるココアを引き上げるようにして抱き寄せた。

 よいしょと折る腰を伸ばし抱え直す胸の中では、目を閉じるココアがすぴーと寝息を立てている。


「すごい……完全にお眠だ」


 小さく揺すられるココアに反応はない。


「うーん、どうしよう。てっきり街の子だと思ってたけれど、ココアちゃんって旅行者だったんだ……。上品な服装だし、もしかして貴族様のご令嬢さんだったりするのかなあ。きっとボルザックさんって人がココアちゃんの、はっ、もしかしてボルザックさん、あの魔物に食べられちゃった!? ああん待って、待って、そんなことはないよきっと。多分はぐれちゃったただけで」


 ぶつぶつ言いながら、エリは広場にあった魔晶石板の前まで足を運ぶ。

 大きな平面の板に映し出される文字や絵。

 そこからエリはお目当ての物を確認したようで、


「露店広場を真っ直ぐ行って突き当りを……右と。やっぱりここは教会だよね。うんうん」


 頷きを最後に独り言を終えれば、てくてく歩き出した。







 石を建材にした荘厳な佇まい。

 高い天井には七色に輝く硝子が埋め込まれ、そこから射し込む光は神秘の色となりて祭壇へと降り注ぐ。

 世界を創造したとされる神アマンテラスを祀る大広間。

 教会へ訪れる者は決して少なくないのであるが、エリが足を踏み入れた時に神官や参拝者の姿もなく、とりわけて物静かであった。

 並ぶ長椅子にはこてりと横になって休むココアの姿があり、花々が飾られる祭壇の前では、膝をつき手を組むエリが神妙な顔つきでまぶたを下ろす。


「どうかココアちゃんにアマンテラス様のお導きを。それから、ノブナガさんが痔になりませんように御加護を」

 

 静かな祈りが捧げられる。

 神への祈りは心の声へと移り変わったのか。口をつぐんだ後も頭を垂れるエリは静寂と伴にあった。

 それからささやかな時間が流れ、ふ、と息を漏らす頃になってから、ようやくエリは気づく。

 少女の隣にもまた、神への祈りを捧げる者が座していた。

 熱心に祈る少女への気遣いからなのだろう。その青年は気配を断つようにして祭壇へと歩んでいた。


「はぴ!? え、へ!?」


「その様子だと、邪魔になってはいけないとそっと忍び寄ったことが、かえって君を驚かせる結果になってしまったようですね」


 冷静さを欠く挙動のエリに、優雅に立ち佇む青年はにこやかに言う。

 気品と高潔さを表わすような純白のマントを羽織る青年は、金色こんじきの髪に、柔らかな線を持つ男性の無骨さを取り除いたかのような美しいとさえ形容できる面立ちで、大陸の誰もが知り、エリも魔晶石板で幾度となく見た顔でもある。


「ゆゆゆ勇者様ですよね!? その勇者アーサー様ですよね!?」


「はい。僕はアーサー・エルブルグです」


「うわあ、うわあ、本物だあ……」


 腰を抜かしたようにぺたりと座り、胸の膨らみを押し潰すようにして両手を抱くエリ。立ち上がってからも相手を舐めるように見る瞳は、輝きを増すばかりである。

 

「教会でもありますし、これも創造神アマンテラスのお導きなのでしょうか。アーサー様。奇遇なことに、そちらの方はこちらへの道中の際遭遇した、カエルの魔物の時にいらっしゃった方ですことよ」


 その声音(こわね)はエリのものでもなく、まして勇者アーサーのものでもないが、エリも一度は耳にしているものであった。

 祭壇の後ろにある長椅子の方から、エリとアーサーから迎えられるようにして、長い黒髪を片方にまとめ束ね尾を垂らす若い女性が、さらりと周りをうかがいながらに近づいた。

 彼女を飾るドレスは、襟元にリボンを着け袖などにレースをあしらい、スカートを傘のように膨らませ大部分を黒色が占める。

 ゆえに白い肌はより際立ち、薄い唇の艷やかなべにもまた際立つ。


「どうやら、お連れの方はいらっしゃらないようですわね」


「――はっ。あのあの、お礼が遅くなりましたが、その節はありがとうございました。アーサー様に、ええと」


「彼女はラティ。僕と一緒に旅をしている仲間で、あの時魔物へ炎の矢を放ったのが彼女です」


「これは失礼しました。ご紹介に預かりましたわたくし、ラティス・ロイヤードは、魔法士としてアーサー様のお供をさせて頂いています。ふふ。以後お見知りおきを」


 妖美な乙女は、左右の手でスカートをつまみ上げ軽く腰を落とす。

 上品な挨拶と笑みを贈られた健気な乙女の方は、手早く着衣を整えている様子から見よう見まねで自分の紹介を試みるようであった。



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