愚かで優しく偉大な勇者
異世界召喚もので高圧的な王様が多いなと思ってこんな話があってもいいんじゃないかなと思って書いてみました。
勇者召喚と言われてどんなものを想像するだろうか?
最近のラノベとかだと集団召喚が多いかな?集団召喚で一人だけ落ちこぼれ、だけど最終的にそいつがチートで最強になっていくみたいな話。
しかも、序盤の扱いがあまりに悪くて勇者は外道で、召喚者側の人間たちは総じてクズばかり。それも首脳陣には例外なくクズがいるという状況が多いよな。
とまあ、いきなりこんな話から入って何のことだと思う奴もいるだろうから現状を説明しよう。
俺こと十束俊樹は異世界に召喚されたようだ。
いやぁ~、いくらラノベとかが好きでよく読んでるとは言え自分が実際に召喚されるとは思わなかったわ。
つっても、やっぱり現実と仮想は違うみたいで俺は単独で召喚されている。
つまりは間違いようがなく、俺を召喚したということでいいだろう。もしかすると俺には特別な力があったのかもしれないな。
さて、そんなことを考えていたこともあったが、現状俺はかなり困惑している。
いや、異世界に突然呼び出されれば誰だって困惑するんだが…。それにしてもこれは…。
「突然、見知らぬ土地に呼び出され、困惑していると思うが我々の話を聞いてほしい」
そう言って目の前で頭を下げるのはこの国?の国王だと思われる人。国王でないにしろ、この場で一番偉いんだろうなって感じの人。
ただ、着ている服はボロで(これは王様に限った話ではないが)、しかも明らかに重傷だと思われる怪我をしている(これもまた王様以外もほぼ全員がどこかしら怪我をしているわけだが)。
この世界はお偉方が襲われるほどに追い詰められているということか。だとしたら、俺の役割とかも結構重要だろうな。
大体、話の流れは定番だと――
「実は、この世界は今未曾有の脅威にさらされているのです」
――まあ、そんなところか。
そんで、次は俺にその脅威の元凶を倒してきてほしいって頼んで、しかも倒したら元の世界に帰れるとか都合のいい展開が待ってるってわけか。
そう簡単に俺が話に乗ると思うなよ?
「そのため、勇者殿には我が民を救っていただきたい」
そら来た。
ここはビシッと断って――
だが、俺が断るよりも前に発せられた王の言葉に俺は固まってしまった。
「つきましては、勇者殿には元の世界に帰っていただきたいのです」
……………はっ?
えっ?どういうこと?元の世界に帰れ?じゃあ、なんで呼び出したんだよ!
「陛下、それでは勇者殿もわけがわからず困惑なさるでしょう。順を追って説明すべきです」
「…ああ、そうだな。すまない勇者殿。あまりにも事態が切迫しているゆえに順序を省いてしまった」
「お気になさらず。ただ、勇者殿と言うのはおやめください」
まだ勇者になるなんて決めてないんだから。
「私のことはどうぞ、俊樹とお呼びください」
「うむ、トシキ殿だな。では、順を追って説明していこう」
それから王様はこの世界に起きている危機について説明してくれた。
「始まりは、三百年ほど前――」
その時代、魔物の動きが活発になることがしばしばあった。だが、これまでも数年周期でそういうことがあったので当時の人々は気にすることもなかった。ただ一人を除いては。
その一人こそが、この国の初代国王ドゥラキン・ヴィ・ヨルムント一世だという。
「彼は、周辺諸国からは愚かで優しい王と謗られていた」
「……それは、王としては致命的ですね」
思ったことを素直に口にし過ぎてしまった。
「貴様っ!!」
俺の言葉に控えていた兵士たちは殺気立ち、剣に手をかける。
「やめんか!」
王の一声で収まるものの、その瞳には険悪さが宿っていた。
「トシキ殿、すまない。だが、いくら愚かと言われようとも、我々にとっては偉大な王なのだ。それに気付くのがあまりにも遅かった我々こそが愚かだった」
初代国王は元々平民で、それから成り上がった王だったという。
平の兵士時代から周囲の人々の和を取り持っていた彼は、かつての赴任先の村人から寄せられた報告にもきちんと耳を傾けた。
当時はもう引退して息子に王位を譲ってはいたものの、彼はその内容を重視し、息子に警戒するように訴えた。だが、息子は村人の恐怖なんて捨て置いてくださいと父王に言うだけで話を信じることはしなかった。
元々、優秀な兵士として頭角を見せた初代国王は嫌な予感がして、単身赴いた。
「そして、彼は目にしたのです。国境沿いに広がる魔物の海を」
そこには数十万の魔物が国に向けて進軍しているという地獄絵図が広がっていた。
彼は急ぎ村人たちを避難させた後、その場に残った。
「なんでそんな真似を?」
自殺行為に等しいと思うが…。
「彼は、民を見捨てることができなかったのです。民のための国を。それが彼の口癖だったと伝えられています」
そして、初代国王は一騎当千の戦いを昼夜問わず繰り広げた。
王が軍を率いて魔物の討伐に赴いた時には既に五日が経過しており、そこで見たのは万を超える魔物の死体の上で剣を突き刺したまま死んでいる父王の姿だった。
「当時、魔物は同時に複数の国を襲っており、我が国以外は甚大な被害を被りました」
そして、唯一被害を最小限に抑えた国は希望の国と言われるようになった。
「以来、我々は戦い続けてまいりました」
各国は希望と言う名の責任を押し付け、彼らに戦いを強いていた。
「ですが、もうそれも限界です。我々では太刀打ちできないところまで来てしまいました」
なるほど。だから、皆こんなに満身創痍なのか。
「トシキ殿には民をあなた方の世界へ連れて行って欲しいのです」
そこで俺が召喚された理由に繋がるってか。
「…なんで、わざわざ俺を呼んだんだ?」
別にそのまま送ればいいじゃないか。
「それは、この世界内でない限り、我々は送ることはできません。つまり、送るためにはその世界の人間が必要になるのです」
「……ああ、そういうこと。ですが、あなた方はどうするのです?」
「我々は民を送り届けた後、最後まで戦い抜きます。それこそが初代国王陛下の時代から受け継がれた我々の誇りですから」
そう言って王様は立てかけてあった剣を手に取った。
その後ろでは女性も、子供も同じように剣を取っている。
おそらくはこの国の王族である彼らは最後まで戦おうとしている。
では、それで救われた民はどうなる?
犠牲の上に生きる人生で満足なのか?
そもそも、この世界はどうかは知らないが、俺たちの世界は他所者には厳しい。向こうの世界に渡ったとしてもほぼ全員が満足な生活はできないだろう。
ホームレスになったり、実験動物のように扱われる可能性もある。
この人たちの覚悟に対する答えがそれか?
そんなことのために呼ばれたのか?
違うだろう!
「……王様、そのことは納得できません」
「何じゃとっ!?」
「そもそも、王様が守りたいのは民ですか?それとも、国ですか?」
何故死を選ぶ必要があるんだ。こんなにいい人たちなら、死を選ぶ以外にも道はあるはずだ!
「初代国王は命を粗末にしたんじゃない。必ずやって来ると信じた友のために時間を稼いだんです。だったら、あなた達は民を逃がした後でも生きる道を探すべきです。
いや、民と共に生きる道を探すべきです!」
「だ、だが…」
「そもそも、自ら命を捨てるような真似は命に対する最大限の侮辱ですよ。
生きたくても生きられなかった命。
生まれたくても生まれられなかった命。
そして、周りから生きていて欲しいと願われた命。
すべてに対する侮辱です。だから、あなた達は生きなければならない。初代国王を信じなかった負い目などもう捨ててしまいなさい。初代国王は決してそんなことを望んではいないはずです。彼は家族を信じ、そして自分の命の使い道を知っていたそうじゃありませんか?」
偉そうなことを言ってるけど、それでも俺はこの人たちを死なせたくない。
だから、戦おう。
巻き込まれたわけでもない。高圧的にやれと言われてわけでも、脅されたわけでもない。
それでも見捨てることはできない。
この後、勇者トシキは召喚された国で民たちを守りつつ驚異の元凶を倒すための準備を整え、召喚されてから十年の歳月を経てようやく成し遂げた。
その傍らには初代国王と親交があった国々の猛者たちが初代国王の時代のように彼と肩を並べて戦い抜いていた。彼らの国には偉大な王の伝説が伝えられていた。
常に諦めることを知らず、疑うことを知らず、王としては愚かだったが友としては最も頼もしい。
そして何よりも偉大な王の伝説が。
彼らはその王を彷彿とさせる異世界の勇者と共に戦えることを誇りに思い戦い続けた。
時に押されながらも勝利を収めたその場所は、かつて初代国王が戦死した場所であり、現在もその威光を称えるように彼の最期を模した銅像が建てられている場所だった。
戦いが終わっても、元の世界に帰ることを拒んだ彼は後に国王となった。
そして、彼は周辺諸国からこう呼ばれることになる。
『愚かで優しく何よりも偉大な勇者』、と。
彼の死後、かつて防衛最前線と呼ばれた土地には初代国王と並び、勇者トシキの像が建てられ、その二体の像を支えるように後ろには戦士たちの像が並び立っていた。




