知らされる真実
地球と太陽の距離が近くなったのか俺の頭がおかしくなったかとしか思えないほど暑い。猛暑だ。そんな中俺は一人の男の後ろをつけて歩いている。先ほど起こった怪奇事件の取り調べを俺は受けることになるのだろう。
とくに会話することなく駅近くの古びた喫茶店に入った男二人は、警官誘導のもと店の端の席についた。
「なに飲む?」
奢ってくれるのか。気前がいいな。まあそりゃあそうか。などと考えつつ、アイスコーヒーを遠慮なくオーダーしてもらうことにした。
「あのー、それで話っていうのは」
俺が切り出してやった。大体は聞きたいことはわかる。多分あの突如として出現したコンクリートのことだろう。
「ああ、そうだったね。まずは自己紹介からだね。僕は警視庁捜査部の富谷坂慧。君は水間理萹さんだよね」
「そうですが、なぜそれを?」
「ここら辺では水間社は有名だからね。まあそれは置いといて、さっきの事件のことで、目撃者の方たちから変な証言を聞いたんだ」
やっぱりな。
「と言いますと?」
「うん。えーっとね…」
富谷さんはコートの胸ポケットからメモ帳を取り出して再び話出した。
「少年が赤信号で横断歩道を渡ってしまい、行き交う車にぶつかりそうになった時に車と少年との間に突如としてコンクリートの壁が姿を現して事故を防いだ。というのが証言をまとめたものになります。そして目撃者の方たちは口を揃えてこういっています。水間さんのとこの息子さんではないか、と」
余計な事を言ってくれるぜ。俺が少年に説教話をしている間にそんなことまでされていたのか。仕事が早すぎる。
「いえいえ、私はたまたま通りかかったのでいち早く事情を聞くことができたんですよ」
「で、証拠とかはないんですよね」
「ありません。ただ、そんな力が使えると噂されてる君がたまたま近くの公園にいて、そしてコンクリートが出現するという現象がおきた。となるとあなたに話を聞きたくなる、という経路になるのです。」
お前の経路なんか聞いてねぇ。
「じゃあ俺はこれで失礼します。俺はあの時は他の人と同様、ただの傍観者でしたからね」
と、少し皮肉の念をこめて俺は席を立ち上がり少し歩いたところで後ろから警視庁野郎が声をかけてきた。
「君は君の持っている能力の事実をここで知らされなくてはいけないんだ」
意味深。どういうことだ?
「俺の…能力ですか」
「今まで隠してたけど僕は君の能力を全てしっている。実は事情聴取なんかしていない。ただ君はここで知らされなくてはいけないんだ。それは規定事項なのだろう。きっと。」
さっきからこの阿呆はなにをぬかしてやがる。俺の能力をしってる?そりゃ巷では有名だろうよ。
俺はもう一度席に座り直した。
「よくわかりませんが、俺についてなんでそんなに知ってるんですか?」
「君は十九年間生きてきた君だけの人生というものがある。しかし実はそれは決められたレールにそって生きてきただけなんだよ」
俺は哲学的話を聞きたいんではない。もっと証拠を混えて会話をしたいのに。
「レールとは一体…」
「君は、自分の持っている能力は自分だけ、と思っていないか?」
思っているさ。だから俺は親族、学校で異端児扱いされてきたんだからな。
「そう思うのも無理はない。ただ、それはただの過信だ。君のような能力を持って生まれてきた人間なんて沢山いる。例えば火を扱う者、電気を扱う者、などと様々な多種の能力者たちがこの日本には存在しているんだ。」
冗談も休み休み言えよな。
「ハハっ。これは悪質な電波話ではないよ。僕たちはこの世界に生を受けた時に「無能力」か「能力者」に分類されるんだ。血液検査かなんかでね。それは国家によって圧力がかけられていて、その人にそった歳の時に能力の真実を言うことになってる。今僕が君に言っているようにね。大体の人は二十歳前に知らされてるよ。そして知らされた後はレールを無くして、なんの干渉も無く生きていくことになるんだ。まあ人によっては組織に入る人もいるよ。それはそのうちわかる。」
なんだなんだ。どういうことだよ。じゃあ俺はこの十九年間、国の指定されたマニュアルに沿って生きてきたってのか?ふざけんな。俺は家畜でもなんでもねぇぞ。
「すみませんが富谷さんの話は少し、いや全然信じることができません」
普通理解できるはずない。この状況で「はいそうですか」なんて言えるやつがいたらここにこい。一発殴ってやる。
「たしかに今は信じられないと思うよ。でも今この時点から君は第二の人生をスタートしたんだ。その人生はとてつもなくすごいものだと思うよ。そのうちわかる」
「だいいち、俺は他の人間が能力を使ってるところなんか見たことないですよ」
「それは能力者たちは違う空間で自分たちの力を発揮できるようにしているからだよ」
「違う…空間?」
はあ、悪質な電波話だ。決定。
「そう。そのうちわかるよ。で、もう一つ。能力者と無能力者はすごく仲が悪くてね。君もこれだけ公で能力を使ってるんだから学校とかであまりいい評判ではなかったんじゃないかい?」
「ええ、まあ。」
たしかに俺はクラスで友達が二〜三人しか………
!?
「まさか、それが……」
「そう。その子たちはきっと能力者だよ。んで君を嫌っていたのが無能力者。無能力者は生まれてすぐに話を聞かされている。なんでそんなにも仲が悪いのかは僕にもわからない。因みに僕は無能力者だよ。でも能力者を恨んだりはしてないから安心して」
そういって富谷さんはニコッと笑った。
「他に聞きたいことある?」
「おかしいと思うんです。俺はよく能力が無意識のうちに発動してしまったりしていました。その時に俺みたいに事実を聞かされていいない人は自分と同じ人がいるって気づくんじゃないんですか?」
「君の能力はきっと特別なんだよ。そんな軽い意識で能力が発動してしまうのは君くらいだよ。他の人はもっと頭の中に計算式みたいなのをたてて初めて発動することができるようになっているんだ。幸いなことに君の能力はいかにもな魔術的能力ではない。だから同類感を抱く人はいなかったんだと思うよ」
なるほどね。たしかに俺の能力は殴って壊して創造するという単純でよくある行為だ。創造の部分はおかしいと思う人がいるとおもうけど、よくよく考えると学校とか外ではあまり発動してないしな。
「なんか理解してきてしまいました」
「そっか、よかったよ。そうだ、これは頭の片隅にでも入れといてくれればいいけど、日本の今の人口は大体一億三千万人と言われてる。そのうち能力者は一億人、無能力者がその他、という比率になっている。能力者は最近になって出世率が上がってきている。理由は未だ不明だけどね。それとこの能力者の誕生は今から百年くらい前の2015年といわれている。一応覚えておいて損はないと思うよ」
「わかりました。ありがとうございます」
そういうと富谷さんはこんな暑いというのにコートを羽織り、レジに向かっていった。
富谷さんとは喫茶店をでてすぐに別れた。気がつけばもう夕方になっていて、太陽が地平線ギリギリを滞在しているのが見えた。
すごい話を聞いてしまった。これは事実なのか嘘なのか。まあすぐわかるだろう。俺は帰宅したらすぐ親父の書斎に行き、尋問をしてやろうと思っているからな。
二時間ほど歩いたと思う。俺は今、自分の家の門の前に立っている。それにしてもデカイ家だ。自分で言うのもなんだが。
俺はドアを勢いよく開いた。するとそこには一人の男がたっていた。執事だ。すごいだろ。執事がいるんだぜ。なんてのは今はどうでもいい。
「どうしたんですか?」
俺はちゃんと敬語を使ってるんだから偉いだろ?
「理篇さん、お父様がお呼びです」
そっちから仕掛けてくれるとは。これは好都合だね。
「わかった。すぐ行くね」
そう言って俺は親父のいる三階の書斎を目指した。