ヘルパー
既出しているアニメ、ライトノベル、コミックなどなどの設定というのは大抵ありきたりだ。そういうのを人々は王道などと謳うのだろう。別にそう言う人達を恨んだりバカにしたりしているわけではない。ただ、俺の生活環境、要するに俺上の設定は王道といえなくもないものなのだ。偏見だがな。
俺はバカみたいにデカイ屋敷の家のお坊ちゃま産まれなのだ。これだけでは王道とはいえない。しかしそれを証拠付けることがまだある。俺は水間家というなんかよくわかんない物の特許を所得して、それだけでボロボロ稼いでるという家の長男だ。下には弟がいる。この弟がよく出来た弟で、無能な俺といったら、水間家の恥だのなんだのと言われて育ってきた。とにかく俺の弟は、なにに関しても俺より頭二つ分くらい出てた気がする。だからといって弟を恨んでるわけではない。出来の良い弟は、俺の分も勉学に励み、よくわからん、うんちゃら式とかいう武術の稽古もし、その他もろもろの作法なども子供の頃親に教わられていた。そんな中俺は、なんの悪魔の施しも得ることはなく、伸び伸びと遊びに時間を費やすことができたのだからな。
ありがとよ、我が弟よ。
しかし、親族で集まる時なんかは胸が痛くなるくらい苦しいものだった。
いつも決まってチヤホヤされるのは弟のほうで、俺は父親に喋る権限すら与えてもらえなかった。いいさ、別に。
今いったように、特に俺に対しての態度が厳しかったのが、父である。
親父とはまともに会話した記憶がない。きっとガキの頃はそれなりの家庭並みの会話はしていたと思うが、覚えはない。何度も家を出たりした。でも、俺にはどうしようも出来ない。金はない。家もない。頼れる親族もいない。だから家へリターンする。情けないよ。
さて、ここまでが王道あるあるストーリーだが、これから話す内容はとびっきりファンタジーなものである。
なぜそんなに嫌われるのか。たしかに無能ってのもある。だがその無能は弟と比べてに対して初めて発動できる無能だ。簡単にいうと、俺は一般的同年代の人間よりは勉学も運動も優れている。さあ、さっきの話に戻る。
なぜそんなに嫌われるのか。
俺には異能の力があるからだ。
やばい、こいつ頭イカれてる。その気持ちわかるぜ。俺だって唐突にそんなこと言われたらそう思うよ。だけどこれが嘘じゃないってのはそのうちわかる。だから今は「へぇ」と聞き流してくれ。
俺が授かった能力は、「破壊」したいと思えばそれを破壊することができ、その破壊の残骸からはダイヤモンドのような鉱石が浮かび上がり、そのダイヤモンドもどきは「創造」したいと思ったものを実現化する。
という一連の動きを行うことができる。尚、破壊したいと思ったものには左右どちらかの手が触れてなければならない。
これが俺の十九年間生きてきて実際に能力を扱ってきての研究功績だ。
俺ももう十九歳だ。
一応不自由なく高校までを無事卒業することはできた俺だが、高校三年の夏に自分がなにをしたいのかを思い起こした結果、「何もしたくない」という極論に達して、現在俺は「ザ甘やかされて生きてきた御曹司」と近所で評判になっているだろう。
正直、学校にも行きたくなかった。義務教育九年間と高校三年間はなにがなんでも行けと親父に言われたので渋々行ったのだ。
学校でも俺は変人という肩書きをかつがされていた。誰にだろうね。
俺の破壊創造能力、略して破創は想像しただけで実現化してしまうものであって、イライラして学校の壁とかを殴った時に見事に破壊してしまい、そこからナイフを創造してしまうという奇行を大衆の前で披露してしまったりしていた。すると、なぜか皆俺を後ろ指で指していくようになった。たしかに学校の壁を一殴りで破壊してしまうような奴なんかいるわけないから近寄り難いのもわかるが、陰口とかまでは言うことはないだろ。
でも、中学の頃も高校の頃も少しだけ友達はいた。毎年クラスに二〜三人くらいだな。
だからあんまり学校というものに俺は良い印象はない。
さてさて、俺は今散歩をしている。
今日もすることがないので、フラフラと街を気の行くままに歩いていた。
それは俺が公園のベンチでコーヒーを飲んでいる時に起こった。
俺はふと、何かに呼ばれた時のように国道沿いの歩道に目を向けると男の子がいた。多分横断歩道を渡ろうとしているのだろう。
しかし次の瞬間、彼は馬鹿げてるにも程があるだろ、と言いたくなるような行動をとった。彼はまだ歩行者専用信号機が赤く「止まれ」と忠告してくれているにもかかわらず、車が通り交う車道へと足を踏み入れた。
「バカやろう!」
脊髄反射的に声が出た。それも今世紀最大くらいの。だってアホすぎるだろ。
俺は全速で彼に向かって走った。だが最初から分かっていたが、間に合うわけがない。ベンチから彼までの距離を半分走った頃にはもう完全に車道に入っていた。
その時、大きなクラクションの音がした。
ブゥゥゥゥゥ!
俺は何も考えずに地面に手をついていた。顔を隠したのでもギブアップの意思表示でもない。
俺は自分自身を傷付けてきた悪魔的能力に全てを託していた。
地面には隕石墜落現場のような大きな穴が空いたかと思うと、残骸に混じってダイヤモンドもどきが姿を現した。
車道では少年が座り込んでいて、今にも彼を轢き殺しそうな車が全速力で前進しているという光景がひろがっている。
するとその少年と車の間に白いコンクリート壁が突如姿を現した。車はもちろんそのコンクリート壁に体当たりしてエアバッグが開いている。少年はというと鼻水と涙を垂れ流しながらポワーンとした顔で自分が置かれた立場を理解しようとしているようだった。
そのコンクリート壁は俺が開けた穴から少年や車がいるところまで伸びていた。
間に合った。
俺はホットして少年のもとに向かった。周りでは「だれか救急車呼んで」とか「なにがあったんだろ」とか言っている。
そんな中で俺は彼を思いっきりビンタした。
彼は一瞬ビックリして目を見開いた後にぶわーんと泣き出した。
「お前アホか!?お前の親はお前にどんな教育してんだよ!赤信号で発進、青信号で止まれとか意味のわからないことを教えられたのか!?」
彼はまだ泣いていた。そりゃあそうか。結構本気でビンタしちまったしな。
「殴ったのは悪かったよ。だがな、お前はそれ程悪いことをしたんだ。車の運転手だってもしお前の命を奪っていたらそのあとどれだけ胸を痛めて生きていかなければならないか。お前何歳だ」
泣き崩れながら彼は言った。
「じょうがぐ…ぐすっ……ざんねんぜい」
小学三年生か。俺は歳を聞いたのにな。
「兄弟は?」
「おとうどが……ぐすっ…ふだり」
弟が二人か。
「ならお前お兄ちゃんじゃねぇか。俺もな弟が一人いるけど悲しいことにそいつより頭も悪いし、運動もできない。だけどな、これだけは誇れるんだ。俺はあいつの兄であり、それは弟にもできない特権なんだよ」
少年は落ち着いたのか俺の話を聞いたからかわからないけどいつの間にか泣き止んでいた。
「だからといって適当なことばっかしてたらそれは兄貴として失格だ。どう抗おうと、お前の弟たちはお前の弟たちなんだ。だからお前も兄貴として君臨してないといけないんだよ。だけど突如としてその関係を引き裂く出来事が起こっちまうんだよ。今のお前みたいなバカげた行動とかな。だからお前は強く、律儀に生きていなきゃいけないの、因みにな…」
初夏、夏の厳しい日差しと耳障りな種類不明のセミがジージーと鳴いていた。
「俺は強いぜ、最強にな。律儀かどうかはわかんねぇけど」
恥ずかしいことを言った気がする。いや、言った。特に最後の俺最強発言とかもう意味がわからない。
少年は駆けつけた警察官に事情を受けにいった。俺は厄介なことにならないうちに姿をくらまそうとした時に後ろに人が立っていることに気づいた。
「な、なんでしょうか?」
「いやね、目撃者の方から変な話を聞きましてね。少しお付き合いしてもらってもよろしいかな?」
くそ、遅かったか。
「え、ええ構いませんよ。それで変な話とはなんでしょうか?」
わかっていたが一応聞いた。
「ここではなんなので近くに喫茶店があるのでそこでお話ししましょう」
警察官らしき若い男はそのまま歩き始めた。まるで背中で「ついてこい」と言わんばかりに。
仕方なく俺は倦怠感マックスで猛暑日のなか警察官もどき男の背中を追いかけた。