第2話 vsヴァンパイア④ もうひとりのユーリア?
チヒロは放課後、神社へと向かった。苦しい時に頼れるのは神様しかいない。
「神様、いらっしゃいますか?」
と本殿に向かって話しかけた。
すると本殿の扉が開き、神様が現れた。
そしてチヒロに、
「そのたい焼きをください」
とお願いをした。
そのたい焼きはチヒロが神社に向かう途中に偶然買ったものだった。
神様の意外なお願いにチヒロは呆気に取られ、
「はあ」
という中途半端な返事をしつつ本殿の中に入った。
本殿の中では、神様がたい焼きを食べていた。
「人間と同様に神様も食事をするのですか?」
チヒロは素朴な疑問をした。
「お腹は減らないので食事の必要はありません。
ですが味覚はあるので、こういった甘い物は食べたくなります。
ところで何の用ですか?」
と言われ、チヒロはようやく本題を切り出す。
「僕の正体がばれそうなんです。助けてください」
すると神様からは意外な答えが返ってきた。
「別にばれても良いと思いますよ。秘密を知っている協力者も必要だと思いますよ」
「このまま別人だと証明できないと皆の前でメイド女装することになっちゃうんです。この通りです。頼みます」
とチヒロは土下座して、懇願した。
「わかりました。何とかしましょう。その代わり私からのお願いを受けてもらうのが条件ですが」
チヒロは過去の神様の行動から、めちゃくちゃなお願いをされることを想像していた。
だが、それ以上に自分が公衆の面前で女装させられることを阻止しなければならない。
「お願いします」
とチヒロはやや不安な気持ちで了承した。
翌水曜日、チヒロは神様から今すぐ学校に来るようにという指示を受けて、自転車で急いで向かった。
学校に到着しようとしたその時、校門の前に二人の人影が見えた。
だが学校に近づくにつれて、異変に気付く。
それは背の高い痩せぎすの男が、手で女性の口を手で塞いで襲っているというものだった。
しかも襲われている女性の方は遠藤ユカである。
「助けなきゃ」
チヒロはこの状況を見て、自転車のスピードを上げた。
特に考えは無いが、自転車ごと暴漢に突っ込むつもりだった。
すると、さらにもう一つの黒い人影がチヒロの横を追い抜いた。
その人影はユーリアだった。
「マジ?」
あまりに突然の出来事に自転車を漕ぐ脚が止まる。
ユーリアは右腕から剣を伸ばし、暴漢の左胸を一突きすると、暴漢は断末魔の雄叫びを上げて消滅した。
そしてチヒロが駆けつけたのを見て、ユカは地面に座ったまま呆然とした表情としていた。
メイド姿の美少女とチヒロがこの場にいることで、チヒロがその美少女であるというユカの仮定は脆くも崩れた。
「大丈夫?」
とユーリアはユカに右手を差し出す。
ユカは右手を掴んで立ち上がると、
「じゃあ」
と言ってユーリアは立ち去った。
そしてチヒロはというと自分の前にユーリアが現れるという信じられない光景に驚いていたが、我に返って
「これで先生の言っていた美少女と僕は別人だって証明できたでしょ」
とユカに向かって言った。
これで完全にピンチを脱した。
だが、ここで疑問が残る。あのユーリアは誰だったのか。
チヒロは神様に確認をするために神社へと向かった。
階段を駆け上がると、本殿の前にはユーリアが立っていた。
「君は誰?」
と尋ねると、
「私ですよお。チヒロ君」
と聞き覚えのある声が返ってきた。
「も、もしかして神様ですか?」
「はい」
と応えつつ、首を覆っている衣装の中に右手を潜り込ませた。
そして怪盗が変装を解くかのように顔の皮をめくりあげてウイッグを外すと、
髪こそ縛っていないがチヒロが良く知っている神様の顔が現れた。
「思ったよりも到着が早くて驚きました。何とか仕込みが間に合って良かったです」
「あの男も神様の仕込だったんですか?」
「はい。あれは私が創った擬似悪魔で、私の意のままに操れるのですよお。」
チヒロの質問に、神様は自慢げに答えた。
「さて、交換条件のお願いの件ですけど」
この神様の言葉にチヒロの顔がひきつる。
一方の神様は相変わらずの屈託のない笑顔だった。
「今後も悪魔退治をお願いしたいのですよお。この格好で。」
チヒロにとっては絶対避けたいことが交換条件だ。
「悪魔退治はいいですけど、その格好だけは勘弁してもらえませんか?」
と懇願してみたが、
「ダーメ。チヒロ君に拒否権はありません」
チヒロは改めて、神様の方が魔物よりも恐ろしいと感じたのだった。




