第2話 vsヴァンパイア② 毒牙
ヴァンパイアがひそんでいる場所は、先ほど神様と会ったレンタル倉庫とは目と鼻の先にあるため、ユーリアはすぐに到着した。
もともとは居酒屋だったが、ここ最近で空きテナントになっていた。
入口の向こうに感じられる強大な反応に気を引き締めながら、ドアを開けた。
ドアを開けた瞬間にユーリアは異様な光景を目の当たりにした。
ヴァンパイアと見られる初老の男が女性に噛み付いている姿だった。
噛み付かれている女性は生気が無く、肌が青白くなっている。
おそらくは相当量の血を吸われたのだろう。
「何をしている!」
とユーリアが問いただすとヴァンパイアは首筋から口を離して、
「食事ですよ。あなたの血も吸ってさしあげましょう」
ヴァンパイアは女性を乱暴に手放すと、ユーリアに一直線に向かってきた。
「遅い!」
ヴァンパイアが突っ込んでくるタイミングを見計らって、左胸めがけて左手を突き出した。
後は光の剣が出てきて左胸に突き刺さって退治できるはずだった。
が、ヴァンパイアの目が発光したことにより、左手の軌道が大幅にずれてしまった。
「くっ」
左手に手応えがないばかりか、発光により居場所を見失ってしまった。
「いない。どこだ」
気配を探っていると、ヴァンパイアは後ろから羽交い絞めをして、ユーリアの身動きを封じた。
そしてヴァンパイアは左手でユーリアの首を強引に左に傾けつつ長い髪を固定、
右手で首を覆っている衣装から肌を露出させた。
「放せ」
ユーリアは目一杯抵抗したが、腕はおろか首さえ動かすことはできなかった。
そしてヴァンパイアは右手の人差し指で首筋を上から下へとなぞりながら、
「すばらしい。極上の血が味わえそうだ」
という言葉にユーリアはゾクッとした。
そして、
「では、いただくとしますか」
という声とともにヴァンパイアは二本の牙をユーリアの首筋に立てた。
「ああっ」
首筋への太い痛みは、脱出しようと力を込めていた腕と首の緊張は解けてしまい、意識を失ってしまった。
だが、その時、
「ぐわぁぁぁぁぁ」
という絶叫とともにヴァンパイアの方が牙を放し、苦しみだした。
その絶叫にユーリアは意識を取り戻した。
「喉が・・・熱い・・・焼ける。貴様・・・もしや・・・おと」
ヴァンパイアが言い終わる前にユーリアは体を反転させ、
「今だ」
と左手を突き出し、光の剣をヴァンパイアの左胸に突き刺した。
するとヴァンパイアは消滅して、地面には大量の血痕が残された。
「はあ、はあ」
ユーリアは少量ではあるものの血を吸われたダメージにより両膝を付いた。
だがユーリアにはまだやることがあった。
「彼女を助けなきゃ」
その時、背後の扉が開いて
「ここは私に任せてください」
という声とともに神様はユーリアのそばに歩み寄った。
「彼女は大丈夫なの?」
というユーリアの問いかけに対し、
「大丈夫です」
と神様は言いながら血痕の所で手をかざした。
そして手を女性の方に向けて一振りした。
すると血痕は無くなり、女性の肌に血色が戻った。
「これで、もう大丈夫です。戻りましょう」
と言って神様は空きテナントを後にした。
「待ってよ」
ユーリアも神様についていった。
戻る途中で、
「神様って凄えな。吸われた血も元に戻せるのかよ」
とユーリアは感嘆した。
「あれは血を吸われてすぐだったからです。チヒロ君のおかげですよ」
と神様は感謝した。
そんな会話をしていると、二人が待ち合わせをした貸し倉庫に戻った。そこで
「ご協力ありがとうございました」
と神様が改めて感謝すると辺りが光に包まれ、変身の解除が始まる。
「あの、一つ質問だけど」
とヴァンパイアとの闘いで疑問に思ったことを尋ねてみる。
「もしかしてヴァンパイアに『わざと』血を吸わせるために、この格好をさせたんですか?」
「そんなことないですよお」
と神様はやんわりと否定した。
「ヴァンパイアにとって同性の血は毒なので、そのままの姿で行くと全身八つ裂きにされるだけです。だから女の子の格好をしてもらいました」
と理由を説明した。
続けて、
「そうすればヴァンパイアは血を吸いに行くでしょうし、万が一吸われても逆にダメージを与えられます。どうですか?完璧な作戦でしょう?」
と自身の思惑通りに事が運んだことに対して、悦に入っていた。
そして光が収束すると、やはり神様はいなくなっていた。
今回の一件で魔物よりも一番恐ろしいのは、あの神様かもしれないとチヒロは思った。
次回予告
ヴァンパイアを何とか倒したユーリア
だが、その激闘により正体につながる手がかりが残ってしまう
次回「第2話 vsヴァンパイア③ 尋問」
お楽しみ