第1話 vsリリス② 変身後のチカラ
夜になり、チヒロは公園の中を歩いていた。
さすがに夜遅い時間なので人はいない。
少し歩くと「チヒロくーん」と呼ばれ、声のする方向を向くと、ブラウスにパンツ姿の少女いや神様がいた。
昼間の巫女姿とは異なり、洋服を着た彼女はチヒロにとって同級生のように思えた。
チヒロが神様に近づくと開口一番で
「準備はいいですか?」と聞かれ、
「ああ」と緊張の面持ちで答えた。
チヒロは光に包まれながら昼間の出来事を思い浮かべた。
「凄く可愛いですよ」
と神様は鏡を差し出す。
たしかに鏡には男だと言われなければわからないくらいの美少女が映っている。
チヒロはふと我に返り、
「でも何でこんな格好をさせるんですか?」
と怒りながら問いかけた。
「コータロー君は悪魔リリスに誘拐されています。リリスは男性とわかると誘惑をしてきて、自分の意のままに操ることができるので女の子の格好にしました」
「悪魔だってー?」
またしても悪魔という現実離れした言葉にチヒロは絶句した。
「でも安心してください。その衣装には私の力を宿しています。悪魔の攻撃は受け付けませんし、悪魔に対抗できるだけの力を身に付いています」
神様の落ち着いた口調に、チヒロも落ち着きを取り戻した。
「それと、その衣装を着ることにより体型も女の子になるから安心してください」
言われてみれば、胸が膨らんでいるので両手で揉んでみる。
手には弾力が伝わるが、自分の胸には感触が伝わらない。
そしてスカートをたくし上げて確認すると、脚が細くなっているような気がする。
そして股間には膨らみが見当たらない。
男性器は股の後ろに押し付けられている感覚はあるので、手で触ってみる。
チヒロ自身は男性器を触られている感触はあるが、自分の手には触っている感触は無い。
まるで誰か他人に触られているかのようだった。
摩訶不思議な衣装にチヒロは我を忘れて体をまさぐった。
「それと、お楽しみのところ申し訳ありませんが」
という神様の声に気付き、夢中になっていたことに恥ずかしさを感じた。
「そのかつらは悪魔の気配を感知できます。それに激しく動いても外れないようにはなっています」
チヒロは両手で頭を触ってみて、ウイッグがずれないことを確認した。
「なので服を脱がされるか、かつらを強く引っ張られて外されない限りは男の子とは絶対にばれません」
今までの落ち着いた口調とは違い、神様は強調して言っているようだった。
「それと悪魔の倒し方ですが、左右どちらの手でもいいので強く念じてみてください」
すると左手のチェーン状ブレスレットのアクセサリ部から光状の剣が出てきた。
「これで悪魔の左胸を一突きすれば倒せます。そして・・・」
と神様が続けると、チヒロは再び光に包まれ元の姿に戻った。
「私がチヒロ君を変身させたり解除させたりします」
チヒロはいきなり元の姿に戻って戸惑っていた。
「以上が説明ですけど何か質問はありますか?」
チヒロは我に返って、
「あのー。相手が悪魔だったら神様が退治した方がいいんじゃないですか?」
と聞いてみた。
「え?チヒロ君が助けに行くと思ったから、ここはおまかせしようかなと思って」
と神様は屈託の無い笑顔を浮かべて言った。
あまりにも素敵な笑顔にチヒロは反論するのをあきらめて立ち上がった。
「それでは本日午後11時に洋館隣の公園にて、お会いしましょう」
最後にそう言われてチヒロは神社を後にした。
光が収束するとチヒロは変身していた。
「くれぐれも男の子とばれないよう注意してくださいね」と神様が言うと、
変身したチヒロは大きくうなずいて洋館へと駆け出した。
チヒロは変身した後から明らかな身体の軽さを感じていた。
公園の出口が見えてきた道路をはさんですぐ隣に洋館の高い塀が見える。
自分の身長の倍はあろうかという高い塀だが、今の状態なら乗り越えられそうな気がした。
塀に向かって一直線に走り、左足で塀を蹴る。
一蹴りで塀の上に上半身が出たので、そのまま塀の上に両掌を付いた。
そして脚をかけて塀の上に立ってから、すぐに飛び降りた。
飛び降りるにも普通の人間にとっては難しい高さだが、難なく着地した。
「凄え」
チヒロは変身後の能力に驚き、そのまま館の方へと歩を進めた。