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絶対に明日は二度来ない  作者: 結城蒼生
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逃走の最中で

プロットに大まかな文章を付け足しました。

推敲はまだまだですが、大まかな修正は施し済みです。

推敲予定はもう少し先になりそうです。

 まだ夕方だというのに俺の周辺は薄暗い。辺りには不法投棄された残飯が当たり前のように散乱している。それが放つ異臭といったら、鼻を過剰に刺激するひどい臭いだ。さらに上乗せするように冷たい雨が俺を容赦なく打ちつける。

しかし、それらすべてが今の俺にとっては心地良いものだった。

 俺が今いる路地は天然のマイホームと呼んでもいいほどに設備が整っている。残飯の詰まったゴミ袋がクッションになってくれるし、喉が渇けば雨水が空から降り注ぐ。

そういえばそろそろ日が暮れる。夜は危険だ。警官が活発に動き出す。呼び止められて職務質問されようものなら今の立場上大変困る。でも、俺はそんな夜の暗闇が好きだった。俺の存在を音もなく包み隠してくれる。人目を避けたい俺にとって好都合だった。

一つ問題があるとするならば、これからのことだ。

上着の一枚でも持ってくればよかったと、ぼんやりとした頭で反省する。今はまだ春で暖かいが、あと数カ月もすれば秋、そして冬がやってくる。学生服で過ごすには心細い。

 現時点では空腹が最大の難関だが、時間が経つにつれてそんなことも忘れてしまう。時々、ダクトから溢れ出てくる焼肉の香ばしい香りのせいで、腹が思い出したように鳴り出すのは勘弁して欲しい。

 こんなボロボロになった学生服姿で無一文の俺だが、つい数日前までは両親のおかげで何一つ不自由なく暮らしていた普通の高校生だったのだ。

しかし、今では学校に通うこともままならない。それどころか、仲の良かった友人、噂話には敏感だった女子生徒、俺を気に入ってくれていた教師。全てを同時に失ったのだ。

 戻れるならば戻りたい。あの平凡だけど楽しかった日常が無性に恋しくなる。

だがそれも叶うことはない。今も、昔も、これからも……。

 頭にもやがかかったみたいにぼんやりしてきた。

 薄れゆく意識の中、一台のトラックが道路脇で止まり、人が降りて路地に入ってくる。

 逃げなくては……。

だが体は思ったように動かない。もはや顔を上げるどころか、指を動かす気力さえ残っていない。俺は静かに目を閉じ、流れに身を任せることにした。

「おーい! いたぞ! こっちだ!」

「――さんに連絡するんだ!」

「衛生状態が最悪だ。いますぐにでも清潔にして腹を満たしてやる必要があるな」

 話し声は聞こえるが内容までは分からない。でも多くの人間が近くにいるのが分かる。徐々に足音が遠ざかっていく気がする。これは俺の意識が落ちかけている証拠だろう。それでも最後の一言だけは鮮明に覚えてる。


「探したわ、城勇人しろはやと。私達はあなたの味方、あなたを信じる。だから今はゆっくり休んで」


 眠りに落ちるわずかな瞬間、確かに聞いた。鈴の音のように綺麗で、とても澄んだ声。しかし、どこか力強く、俺はその声を聞いて不思議にも安心してしまった。やっと眠れるのだと。

きっと、俺はこの声を一生忘れないだろう。

 そして、目を覚ましたら聞きたいことがある。

「なぜ俺の名前を?」

シンプルだが、今の俺にはとても重要な意味のある一言。

でも知ってて当たり前か……。

なぜだって?


 なぜなら俺は――



 漆原うるしはら高校、全生徒・職員殺人犯として全国指名手配されているからだ。



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