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セイネン

つきしまは人の手で作られた街だ。計画的に区画整理され、走る道路は限りなく直線に近い。



全国でも有数の敷地面積を誇る大学が一番北側にあり、大学から南に一本の大通りが延びていて、その両側に人々の生活する街がある。奈良時代の平城京が羅生門から平城宮まで朱雀大路が延びていて、左右に右京と左京があったのとよく似ている。そして大通りに近いほど地価や家賃が高い、というのも似ている。



そんな街の大動脈たる大通りを、1台の軽自動車が走っている。運転手は青年、槻島大学の4年生だ。早朝のためすいている大通りを抜け、大学の敷地内に入る。駐車場に車を停め、研究室に向かう途中に見た腕時計は、まだ6時を少し過ぎたばかりだった。



研究室に荷物を置き、ノートだけを持った青年はもう一度車に乗り込む。この大学は広い。歩いて移動するのは面倒だ。講義棟や研究棟のあるここから10分ほど走ったところで、目の前にひらけた景色が広がる。ここは青年の所属する農学部の管理する、農業技術センターである。ここだけで東京ドーム3つ分の広さがあり、その一画に目的地であるビニールハウス群がある。卒論の研究材料であるトマトの管理観察をするのが青年の日課だった。



自分専用のビニールハウスに入り、ミストを撒く。温度や湿度を記録し、ハウス内のトマトをチェックし終えたころには8時を少し過ぎていた。今日も生育にとくに異常はなく、順調だった。このままいけばいいデータがとれそうである。



来た道を戻り、研究室に戻ると、自分の名前のかかれたプレートをひっくり返し、「出勤済」であることを示す。口うるさい教授はまだ来ていないようで、青年は安堵した。朝から小言を聞くのはうんざりだ。遭遇する前に、講義棟に移動することにした。



「かずちゃん!」

聞こえたと同時に青年は背中に激痛を感じた。痛みを堪えながらゆっくりと振り返ると、満面の笑みを浮かべた女の子が立っていた。


「いちいちなぐるな」


「ねーかずちゃん今からご飯?」


「・・・スルーもするな」


「今からご飯なの?」


「・・・そうだけど。」


この女の子は水谷みどり。小柄でショートヘアの彼女は、女性というよりも少女といったほうがしっくりくる。いつも元気で表情の豊かなみどりは、動物でたとえるとリス。性格はとても強引でマイペース、青年はいつも振り回されている。ちなみに彼女は同じ学部の1学年下で、3年前彼女が入学してきたときに知り合った。ちゃん付けで呼ばれるのは納得していないが、いくら注意しても訂正しないためもうあきらめた。


「じゃ学食一緒してもいいよね?」


「いい?って聞けよそこは」


今は2限目が終わった直後で、青年も食堂に向かうところだ。


「お前いい加減彼氏作って彼氏と昼飯食えよ」


「彼氏?彼氏ならできたよ」


「・・・えぇぇ」


聞いてないとか、だったら彼氏と、などなど次々と湧いてくる文句を飲み込みながら、青年はあきらめる。こいつのことだから言っても無駄だ。彼氏さんも苦労することだろう。俺とこいつを見て変な勘違いをしない人だといいな。


「いい人か?」


「うんいい人」


「そうか、ならよかった。」


そのあとも、彼氏との馴れ初めなどを聞きながら昼食をとった。どうやらチャラい男ではなさそうで安心した。みどりは笑顔が可愛らしいからかモテる。だが感情の起伏が激しいため喧嘩をすることも多く、長続きしないようだ。うまくこいつを操縦できる相手が見つかればいいのだが。



「それじゃまたな」


昼食を終え、みどりと別れた青年は研究室に戻った。今日は午後に授業は入っていない。院生の研究の手伝いを頼まれたので、それを片付けたら帰る予定だ。




ディスプレイを見つめる目が霞み始めたころ、頼まれたデータ入力が完了した。院生にUSBを渡し、礼に夕食でもと言うのをやんわりと断り、帰る支度をする。予定より時間がかかったようで、19時を過ぎていた。



研究室をあとにし、急いで車に乗り込み、大学の敷地を出た。




青年の「昼の顔」はここまで。ここからはもうひとつの顔になる。この青年――内田一也は槻島の守り神と呼ばれる、国内最強の退魔士である。

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