第9話:誕生会殺人事件
ユーリさんの「名探偵・スゥと篤子の事件簿」とコラボしました。
どうぞお楽しみ下さい。
俺と洋子は大阪の小宮山邸へと来ていた。
こうなったのには訳がある。
先日、事務所のポストに友人の誕生会の招待状が入っていた。
友人の名は、小宮山 清司郎。俺と洋子の高校時代のクラスメイトだ。
「忙しい中、来てくれて有り難う」
玄関先で清司郎と面会する。
「いや、こちらこそ、招待してくれて嬉しいよ」
「まあ、兎に角上がってくれ。パーティは今夜だから、それまでゆっくりしてるといい」
俺と洋子は清司郎に大広間へ案内された。
大広間には大勢の参加者が集まっていた。
「これ、みんなお前の友人?」
「そうだよ」
「すげえな、おい」
「どうしたらこんなにいっぱい作れるのかしら?」
「それじゃあ俺はパーティが始まるまで部屋に居るよ。俺の部屋は二階だから、何か遭ったら来てくれ」
清司郎はそう言うと大広間を出て行った。
俺は辺りを見渡す。
高校生が居る。
俺はその高校生に近寄った。
「君、清司郎とはどういう関係?」
振り返る少年。
「あ、貴方は探偵の黒沢 聡さん!?」
「お、俺のことを知ってるのか?」
「当然ですよ、有名ですから」
大阪にまで俺の噂が広がってるのか。
「あ、申し遅れました。明日岡 スゥと申します。以後、お見知り置きを」
「明日岡くんか。清司郎とはどういう関係なんだい?」
「仕事で知り合ったんです」
「成る程。仕事ってのは、バイトか何か?」
「いえ、公務員です」
「高校生なのに公務員?」
スゥは懐から警察手帳を出す。
「警視庁捜査秘密課の警視正です」
「捜査秘密課って実在するんだ」
「ここ、大阪に本部があります」
「そうか。ところで、君一人?」
「いえ、もう一人連れが」
噂をすると少女が現れた。
「スゥ、この人は?」
「探偵の黒沢 聡さん」
「え、あの有名な?」
少女が俺の顔を見つめる。
「何かついてる?」
「いえ。あ……私、浜谷 篤子と言います」
「浜谷さんね。君も捜秘課なの?」
「警視です」
「あ、洋子の一つ上だ」
「洋子さんって?」
俺は部屋の入り口付近に立っている洋子を示した。
「荒川 洋子。警視庁捜査一課の警部」
「可愛い。彼女ですか?」
「姪だよ」
「姪……ですか」
「姪じゃつまらないか?」
「篤子、やめとけ」
スゥが篤子を窘める。
「いや、いいんだよ、別に」
俺はそう言いながらその場を離れ、洋子の下へ移動した。
「洋子、捜査秘密課の連中が居るよ」
「へえ。あの二人がそうなの?」
洋子がスゥと篤子を差す。
「しかし現役の高校生だとは思わなかったわ」
と、その時。
「うわああああ!」
二階から清司郎の悲鳴。
「行ってみよう」
俺と洋子は階段で二階に上がり、清司郎の部屋に行き、ドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていたのでノックをした。
「清司郎、何が遭った!? 開けてくれ!」
しかし反応がない。
「何が遭ったんですか?」
そこに現れたのは、スゥと篤子だった。
「清司郎が出て来ないんだ」
「蹴り破りましょう」
スゥがそう言ってドアを蹴り破った。
中に入る俺たち四人。
「清司郎!」
床に倒れている清司郎。胸部にはナイフが刺さっていた。
俺は清司郎に駆け寄り、脈を確認した。
「聡」
俺は首を横に振るう。
「そんな、清司郎が!?」
「明日岡くんと浜谷さんは玄関の封鎖! 洋子は大阪府警に通報してくれ!」
スゥと篤子が駆け足で部屋を離れ、洋子が携帯で府警に通報して捜査員を呼ぶ。
「あの、何の騒ぎですか?」
そこへやってきたのは、清司郎の妻、冴子だった。
「冴子さん……清司郎が殺されました」
「何ですって!?」
冴子は清司郎の遺体に駆け寄った。
「あなた! あなた!」
しかし清司郎は動かない。
「冴子さん、取り敢えず出ましょう。警察が来るまで現場を保存しておかないと……」
冴子は無言で泣きながら部屋を出た。
さて、調べるか。
俺は現場を調べた。
窓には鍵が掛けられているため、犯人がここから逃げたとは考えにくい。とすれば、後はドアだが、内側から鍵が掛かっていた。と言うことは、これは密室殺人だ。
一体犯人はどうやって密室を作り上げたんだ?
警察が到着し、捜査が始まった。
第一発見者である俺たち四人が最初に事情聴取をされた。
「では、発見当時の状況をお聞かせ下さい」
刑事が訊く。
俺は発見当時の状況を話した。
「成る程……。あなた方が悲鳴を聞き、駆けつけたら鍵が掛かっていたので、ドアを蹴破ったら中で小宮山さんが亡くなっていた、と」
「はい。それから、現場を調べてみたんですが、窓にも鍵が施錠されていたので、そこから犯人が逃げたとは考えにくいかと」
「そうですか……」
刑事は眉を顰めた。
「今回の事件、我々には解決出来ないかも知れないな。なあ、ヤマさん?」
「警部補、諦めるんですか?」
ヤマさんと呼ばれた刑事が返答する。
「ヤマさんには解けるのかね?」
「いや、まだ何とも……」
「あの……僕たちはどうすればよろしいでしょうか?」
「ああ、もういいですよ」
俺たち四人は部屋を出た。
「明日岡くん、今回の事件どう思う?」
「僕はもう分かりましたよ」
「何ですと!?」
「スゥ、本当?」
「犯人は内側から鍵を掛けたんですよ」
「と言うことは、俺たちが部屋に入った時、犯人はまだ中に居たってことか?」
「そう言うことになりますね」
「しかし、犯人は一体誰なんだ?」
「我々も近親者から話を聞いた方がよさそうですね」
「じゃあ冴子さんの話を聞こうか」
俺たち四人は冴子の下へ向かった。
冴子の部屋。
「冴子さん、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう?」
「清司郎の悲鳴が聞こえた時、冴子さんはどちらに居られましたか?」
「キッチンでパーティの準備をしていましたわ」
「それを証明出来る方は?」
「残念ながら居ません」
「そうですか。どうも有り難う」
俺たちは冴子の部屋を出た。
「三人とも、いったん応接室行こう。捜査に進展があるかもしれない」
俺たちは警察が事情聴取に使っている応接室に移動した。
ドアを開けて中に入る。
「おや? どうしました?」
洋子が懐から警察手帳を取り出した。
「捜査状況を提供していただけますか?」
「あなた方、警察の方だったんですか?」
俺を除いてな。
「捜査状況を……」
「ああ、そうでした」
刑事の話では、アリバイのない人物が冴子を含め四人居るとのことだ。
冴子を除く三人の名は朝風 勤、木下 幸夫、そして中山 末次だ。この三人は清司郎の大学時代の友人である。
「では、朝風さんから話を聞きたいので呼んでいただけますか?」
ヤマさんという刑事が朝風を連れてくる。
「話って何でしょう」
「清司郎のことなんですが、何か変わったところはありませんでしたか?」
「そう言えば、近々大金が手に入る、とか言ってましたね」
「それは誰かを脅していたってことですか?」
「さあ? そこまでは分かりませんよ」
「そうですか。どうも有り難う御座いました」
部屋を出て行く朝風。
「では、木下さんを呼んで下さい」
ヤマさんが木下を連れてくる。
「木下さん、清司郎は誰かに怨まれていたってことはないですか?」
「さあ? 分かりません」
「では、誰かを脅していたということは?」
「僕は知りませんけど、末次なら何か知ってるんじゃないでしょうか」
「そうですか」
木下が部屋を出て行き、ヤマさんが中山を連れてくる。
「中山さん、清司郎が誰かを脅してたということは?」
「誰かは知りませんが、そんなことを言ってましたね。彼はそれで殺されたんですか?」
「ええ、恐らく」
「そうですか……。あの、早く犯人を見つけて下さいね」
中山はそう言うと部屋を出て行った。
「さて、どうしよう?」
「上松警部!」
若い刑事が部屋に入ってきた。
「どうした?」
「害者の妻の冴子なんですが、前の夫が変死をしてるんです」
「前、と言うと清司郎の前の旦那のことか?」
「はい。しかも変死をしたことで多額の保険金が冴子に下りてるんです」
保険金殺人か?
「成る程な。しかし密室の件はどうなるんだね?」
「それは何らかのトリックで……」
俺とスゥは顔を見合わせると頷いた。
「洋子」
「篤子」
俺たち四人は部屋を出ると、冴子の下へ移動した。
「貴方たち、今度は何です?」
「清司郎さんを殺したのは、冴子さん、貴方ですね?」
「な、何を仰ってるんですか!? 何で私が犯人なんですか!? 第一、部屋には内側から鍵が掛かっていたんですよね? 一体どうやって鍵を掛けたんですか?」
「貴方は清司郎を殺害後、内側から鍵を掛けたんですよ。つまり、我々が中に入った時、貴方はまだ部屋の中に居たんです」
「面白い推理ですね。証拠はあるんですか?」
「証拠ならありますよ。凶器のナイフについた貴方の指紋です」
「鑑定の結果、ナイフからは貴方の指紋が検出されています」
「それは当然ですよ。あの時に見たナイフは私がキッチンで使うナイフなんですから」
ダメか。
「大体、何で私が主人を殺さなきゃいけないんですか?」
「貴方、清司郎の前の夫を亡くしていますよね?」
「ええ。でもそれが今回の事件と何か関係が?」
「前の夫が亡くなったことで多額の保険金が下りていることも調べがついています。前の夫、貴方が殺したんじゃないですか?」
「なっ……」
「そして、そのことが清司郎にバレて脅されていたから、口封じに彼を殺した。違いますか?」
冴子はその場に崩れた。
「上手くいくと思ったのに……」
「冴子さん、認めるんですね?」
「はい、私が殺りました」
そこへ上松がやってくる。
「話は全部聞かせていただきました。冴子さん、詳しい事情は署の方で」
上松は冴子に手錠をかけて連行した。
こうして今回の事件は解決した。




