第8話:誘拐された刑事
黒沢探偵事務所。
プルルルルル、と鳴り響く電話の呼び出し。
俺は受話器を取った。
「はい、黒沢探偵事務所です」
『荒川 洋子は預かった。返してほしくば一千万用意しろ。また連絡する』
俺は受話器をいったん置くと、再び手に取った。そして百十番通報をした。
それから数分後、部屋のドアが外側からノックされ、俺は開けた。
数人の男が同時に警察手帳を見せる。
「練馬署の赤羽です。誘拐の件で来ました」
「あ、どうぞ、お上がり下さい」
刑事たちが中に入ってくる。
一人の刑事が持ち込んだ機材を電話に繋ぐ。きっと逆探知用の機材だろう。
「では黒沢さん、犯人から電話が来ましたら、落ち着いて話を引き延ばして下さい、その間に我々が逆探知で犯人の居所を特定します」
プルルルルル、と電話が鳴る。
俺は受話器を取って応答した。
「はい、もしもし」
『警察が来てるな』
俺は窓の外を見た。
『今、窓から外を見てるだろ。まあ、それはいいとして、一千万は用意出来たか?』
「その前に洋子の声を聞かせろ」
『いいだろう』
電話の向こうで物音がする。
『聡、助け……っ!?』
洋子は無事だった。
「一千万だな?」
『ああ、そうだ』
「直ぐに用意する。連絡先を教えてくれないか?」
『080……だ』
俺は犯人の連絡先をメモした。
ブツ、ツーツー──電話が切れる。
「逆探知は出来ましたか?」
「残念ながら……」
「そうですか。身代金はどうすれば?」
「犯人の要求通り用意して下さい」
「分かりました」
俺は机の引き出しから封筒を取り出した。中にはちょうど一千万が。
「その中に一千万が?」
「はい。それより、トイレに行かせてもらってもいいでしょうか?」
「ああ、どうぞ」
俺はトイレに入り、携帯電話を取り出した。
電波はおかしなことに圏外。
俺はメール作成画面を開き、義兄さん宛てのメールを作り、水を流してトイレを出た。
「刑事さん、ビデオカメラをお持ちですか?」
「持ってますが、何に使うんですか?」
「紙幣の通し番号を控えておこうと」
「成る程。では、外の車から持ってきます」
刑事はそう言うと事務所を出て行った。
俺は携帯を取り出し、電波状況を見た。
圏外だったのが、棒が三本立っている。
俺は先程作ったメールを送信した。
ドアが開き、カメラを手に刑事が入ってきた。
俺はカメラを受け取り、録画モードにして机に置き、録画ボタンを押し、一千万を封筒から取り出し、通し番号をパラパラとめくりながら撮影する。
「これでよし」
俺はカメラを止めた。
プルルルルル、と電話が鳴る。
俺は受話器を取った。
『一千万用意出来たみたいだな。それを持って練馬児童公園まで来い』
電話が切れる。
俺は受話器を置いた。
「では、我々は先に行って待機していますね」
刑事たちが事務所を出て行く。
「赤羽さん」
俺は赤羽という刑事を引き止めた。
「何です?」
立ち止まって振り返る赤羽。
俺は机に置いてある新聞を取った。
「一連の誘拐事件の犯人は貴方ですね?」
俺は赤羽に誘拐事件の記事を見せる。
「何を仰っているんですか、僕は警察ですよ? 大体、何を理由にそんな?」
「逆探知用の機材を持ってるなんて、可笑しいと思ったんですよ。そもそも、映画などにある逆探知装置などというものは現実には存在せず、逆探知は捜査機関の要請により通信事業者が交換機の記録を調べるだけなのです」
「……………………」
言葉を失う赤羽。
「赤羽さん、警察庁刑事局長の名前、言えますか?」
赤羽はその場に膝をついた。
「言えませんよ。何で分かっちゃったのかな……?」
「犯行を認めるんですね?」
「一連の誘拐犯は僕たちです」
「洋子はどこに居るんですか?」
「練馬児童公園で解放する手筈になってます」
「そうですか」
コンコン、とドアが叩かれる。
「黒沢さん、警察です!」
俺はドアを開けた。
「誘拐犯はどこです?」
「彼です」
俺は赤羽を示した。
「赤羽と言います」
「赤羽、誘拐の現行犯で逮捕する。他の仲間も捕まえたからな」
「すみませんでした……」
「刑事さん、練馬児童公園に行って下さい。誘拐犯の仲間がいます」
「分かりました。手配しておきます」
こうして誘拐事件は解決した。




