第28話:真理野 走也の殺人
エメラルドブルーさんの作品「水原さんと僕」とクロスさせていただきました。但し、水僕の本編とは関係ありません。パラレルワールドとお考え下さい。
東京都は白川町にある第七真菜森高校。
今日はこの学校で文化祭をやっており、俺と聡美は暇を持て余そうと遊びに来ていた。
洋子も誘ったのだが、仕事のため無理とのことだ。
「さて、どこから回ろうか」
聡美はパンフレットを見た。
「これから体育館で劇を演るみたいですよ。推理ものですって。行きませんか?」
「じゃあ行くか」
俺と聡美は体育館へ移動した。
館内には椅子が並べられている。俺と聡美はその中の一角に着いた。
ビー──ブザーが鳴り、幕が上がって劇が始まる。
五分ほどして、劇中で毒殺事件が起こる。
刑事が現れ、捜査を開始するのだが、一分もしない内に、刑事役がそわそわし始めた。
「どうしたんでしょうね」
俺は遺体役の男子生徒を凝視した。呼吸をしていないのが見て取れる。俺はその男子生徒に駆け寄る。
「倉田さん、警察に通報してくれ!」
「あの、貴方は?」
その声に振り返り様に応える。
「探偵の黒沢 聡だ。君は?」
「真理野 走也です。その方、本当に亡くなってるんですか?」
「ああ、間違いなく死んでるよ」
「そんな!? 太一が!」
「太一? 被害者の名前か!?」
「大空 太一。僕の親友です。それより、今、被害者と仰りましたよね? てことは、これは殺人……?」
俺は被害者の口元に鼻を近付けた。
アーモンド臭……。
ステージに置かれたテーブルの上には一つのコップ。その中には少量の水が入っていた。俺がその中に酸化した十円玉を入れてみると、十円玉はみるみる奇麗になっていく。青酸系の毒物か。
「この水は誰が用意したんだ?」
「あ、それ私です」
と、女子生徒が寄ってくる。
「名前は?」
「風間 幸恵です」
風間 幸恵、重要参考人か。
と、その時、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
サイレンはだんだんと近付いてきて、やがて止まった。
所轄である白川署の捜査員たちがやってくる。
「そこのあんた、遺体から離れて!」
俺は刑事の指示通り遺体から離れた。
「あの水の中に青酸系の毒物が入ってます。用意したのはあの子です」
俺は刑事に風間を示した。
「あんたは?」
「俺は私立探偵の黒沢 聡です」
「おお! 貴方があの有名な!? それで、犯人はあの風間って少女なんですか?」
「刑事さん、それは早計じゃないですか?」
「では黒沢先生は犯人が他に居ると?」
「いや、それは調べてみないと何とも……」
「小杉、黒沢先生の捜査を手伝って差し上げなさい」
「え? 何で──」
「つべこべ言わない」
「分かりましたよ。警部はどうするんですか?」
「俺は学校の封鎖に回る」
そう言って警部と呼ばれる中年の男性刑事は去っていった。
ただの面倒くさがり?
「と言うことになりました。小杉 博典です」
「刑事さん、風間さん逮捕されちゃうんですか?」
そう訊いてきたのは、真理野 走也だった。
「心配するな。風間さんは犯人と決まったわけじゃない」
ホッとした真理野 走也は胸をなで下ろした。
「黒沢さん、どうします?」
「取り敢えず、被害者の持ち物検査でもしてみようかと」
「それがいいですね」
「真理野くん、亡くなった大空くんと同じクラスだよね?」
「そうですけど?」
「教室まで案内してもらっていいかな?」
「分かりました。僕について来て下さい」
俺たちは真理野 走也の案内で大空 太一の教室にやってきた。
「大空くんの荷物は?」
「これです」
真理野 走也が大空 太一の席の机のフックに引っ掛けてある鞄を取った。
俺は鞄を受け取り、中身を出した。
入っていたのは、カプセル状の薬、学生証、カード入れ、教科書、ノート、筆記用具の六点。毒物の持参はしていなかった。
「大空くんは体が悪いのかな?」
「はい。彼、心臓が悪いので薬を毎日」
「そうか。因に、風間さんの荷物は?」
「これです」
真理野 走也が風間 幸恵の鞄を持って来た。
風間 幸恵の鞄には、青酸カリが入っていた。
「これは!」
「そんな……、風間さんが犯人だなんて!」
「いや、これだけでは犯人だとは断定出来ないな。誰かが罪をなすり付けるために入れたのかも知れないし……」
真理野 走也が眉を顰めた。
「刑事さん、取り敢えずこれを鑑識に回しといて下さい」
「分かりました」
手袋をはめた小杉刑事が青酸カリの入った瓶を懐にしまった。
「真理野くん、指紋採らせてくれる?」
「え? もしかして疑われてます?」
「いや」
「じゃあ何で?」
「俺はこのクラス全員の指紋を採るつもりだよ」
「それって僕のクラスメイト全員が容疑者という?」
「小杉刑事、鑑識さんを呼んでくれませんか?」
「はい」
小杉刑事は携帯電話を取り出して鑑識を呼んだ。
鑑識がやってきて、真理野 走也の指紋を採取した。
「鑑識さん、これも調べて下さい」
小杉刑事が青酸カリの瓶を鑑識に渡した。
「さて、それじゃ風間さんのところへ行こうか。あ、真理野くん、君はもういいよ」
「そうですか」
俺と小杉刑事は廊下に出た。
「小杉刑事、瓶が見つかった時の真理野くんの反応見ました?」
「ええ。彼が犯人なんですかね……?」
「鎌掛けてみましょうか?」
「どうするんです?」
「瓶から真理野くんの指紋が出たって言うんですよ」
「引っかかりますかね?」
「取り敢えずやってみよう」
俺と小杉刑事は教室に入った。
まだ何か?──と、真理野 走也。
「真理野くん、青酸カリの瓶から君の指紋が出た」
「そんなバカな! 僕はちゃんと指紋がつかないように手袋をはめて!……あ!」
「やはり君が入れたんだね?」
「すみませんでした……」
「大空くんを殺したのも君かい?」
「はい……」
真理野 走也はその場に膝を着いた。
「動機は?」
「殺された水原さんの復讐です」
「水原さん?」
「一ヶ月前、水原さんが太一に殺されました。僕は水原さんを殺した犯人に復讐をしようと、事件を調べました。そして二週間前、太一が水原さんを殺害したことが分かりました。僕は青酸カリをネットで買って、太一の薬の中に入れました」
「その水原さんのこと、警察には?」
「言いましたよ。でも、警察は自殺だって……。だから僕は自分で調べて太一を裁いたんです」
「真相が分かった時点でどうして警察に通報しなかったの?」
「通報しましたよ! でも警察は自殺だって再捜査してくれなかったじゃないですか!」
「だからって人殺しするなんて言語道断。君は大空くんと一緒だ」
小杉刑事が真理野 走也に手錠をかけた。
「後は署の方で」
小杉刑事が真理野 走也を白川署へ連行していった。ご協力感謝します、と俺に残して。




