第23話:鉄の鳥殺人事件(前編)
黒沢探偵事務所。
俺が新聞を読んでいると聡美が出勤してきた。
「所長、おはようございます」
「ああ、おはよう。待ってたよ、倉田さん」
俺は読んでいた新聞を畳んで机に置いた。
「これから二人で沖縄に行こう」
「沖縄ですか? どうして?」
「実は調査の依頼があってね」
「どんな依頼内容なんですか?」
「依頼者は小島 哲郎、四十歳。自宅に届いた脅迫状の送り主を見つけて欲しいとのことだ」
「警察には届けたんでしょうか?」
「届けたけど、犯人は見つからなかったらしい」
「そうですか」
「兎に角、現地へ飛ぼう」
俺と聡美は旅支度をして事務所を後に、羽田空港へ向かい、那覇空港行の飛行機便に搭乗して席に着いた。
それから暫くして、飛行機は離陸した。
フライト中のことだ。
俺が居眠りをしていると、血相を変えた聡美に揺さぶり起こされた。
「所長、大変です! トイレで人が死んでるんです!」
「何だって!?」
驚いて眠気が吹っ飛んだ俺は、聡美と共にトイレへ向かった。洋式の便器に座った状態で男が息絶えている。
「所長、どうします?」
「取り敢えず、医者を捜そう」
そこへやってくる小太りの男性。
「どうかなさいましたか?」
「貴方は?」
小太りの男性が警察手帳を出した。名は山田 茂という。
「大田署の者です」
「ちょうどよかった。人が死んでるんです」
「何?」
山田が遺体を確認する。
「確かに死んでますな」
「死因は判りますか?」
「頸髄に損傷が見られます。恐らく窒息死でしょうな」
遺体を調べていた山田がこちらへ振り返る。
「山田さんは刑事さんなんですか?」
「いや、私は鑑識です」
「刑事さんは乗ってないんですか?」
「すみません。プライベートなもんで……」
「そうですか」
「ところで、第一発見者はあなた方ですか?」
「はい、そうです」
と、聡美。
「お名前は?」
「倉田 聡美です」
「ご職業は?」
「探偵です」
「貴方は?」
と、俺を見る大田署の鑑識課員、山田。
「黒沢 聡。同じく探偵です」
「探偵ですか。那覇へはお仕事で?」
「ええ、まあ」
「あ、私CAに伝えてきます」
聡美はそう言ってCAの下へ向かった。
「山田さん、携帯のカメラで遺体の写真を撮影して下さい」
「ああ、そうですね」
山田は携帯を取り出して遺体を撮影した。
「山田さん、所持品の確認もしましょう」
山田が遺体の所持品を調べた。
出て来たのは、携帯電話、財布、自動車運転免許証の三つだ。
免許証には篠田 小五郎と書いてある。住所は東京だ。
「所長、CAに伝えてきました」
と、聡美が戻ってきた。
「ありがとう」
「それで、これからどうするんですか?」
あら?──と、疑問符を浮かべる聡美。
「どうした?」
「微かに甘い香りが……何かしら?」
「言われてみればするね。これは……クロロホルム?」
「クロロホルムというと睡眠薬ですな」
「なるほど。犯人は被害者を眠らせて頸椎を損傷させたんだ。山田さん、被害者の知人を捜しましょう。この鉄の鳥に乗っているかも知れません」
「言われなくても調べますよ。それからね、民間人は刑事事件に首を突っ込まないで下さい」
「僕の義兄は警察庁刑事局長の荒川 和夫です」
「あ、荒川刑事局長の義弟さん!? 失礼致しました!」
頭を下げる山田。
「では被害者の知人を捜してきますです!」
山田はそう言うと足早に去っていった。