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第22話:ブアメードの血

 五年前、都内の廃墟ビルの二階で男性の遺体が発見された。

 通報者はこのビルに霊が出るという噂を聞いて見に来た男女四人だ。

 この四人は男性と面識はなく、殺害する動機もない。

 その後の捜査で男性の死因は心臓発作で事件性は無いと判断され、捜査本部は設置されなかった。



 黒沢探偵事務所。

「所長、コーヒーが入りました」

 聡美がコーヒーの入ったカップを机に置く。

「ありがとう」

 新聞を読んでいた俺はコーヒーを一口。

「ぶぶー!」

 吹いてしまった。

「所長!?」

「砂糖と塩間違ってる……」

「本当ですか?」

 聡美もコーヒーを一口。

「あ、本当ですね。どうしてなんでしょう?」

 聡美がキッチンへ入っていく。

「所長、砂糖と塩の入れ物が違いますよ」

「嘘?」

 俺はキッチンへ移動して入れ物を確かめる。

 砂糖と塩の入れ物は確かに違っていた。

「何でこんなことに?」

「さあ、どうしてでしょうか」

「取り敢えず、中身を戻しとこう」

 俺は中の砂糖と塩を本来の容器に戻した。

 その時、扉が開いて洋子が入ってきた。

「聡、事件よ」

「事件?」

「ついてきて」

「私も行っていいですか?」

「捜査の邪魔にならなければ」

 俺たち三人は事務所を後にしてある廃墟ビルへとやってきた。

「ここって確か……」

「五年前の遺体発見現場よ」

「ああ、あの心臓発作の……」

「それはそうと、現場を調べましょう」

「ああ」

 俺たちは洋子の警察手帳で現場に入り、遺体を調べた。

 襟元が濡れている……。

「鑑識さん、死因は何ですか?」

「詳しいことは解剖してみなくては分かりませんが、恐らく心臓発作でしょう。死亡推定時刻は昨日の午後三時です」

「身元は?」

白沢しらさわ 一樹かずき、二十六歳。フリーターです」

「洋子、五年前の遺体も心臓発作だったよね?」

「聡はこれが五年前と関係があるというの?」

「同じ現場でって、ちょっと変じゃないかな」

「偶然でしょ」

「そうか。で、警察としての見解はどうなんだ?」

「見たところ、事件性は無さそうね」

「同感だ。取り敢えず、交友関係洗って死亡したことを伝えておこう」

「そうね」

「ちょっと待って下さい」

 と、聡美。

「何?」

「その襟元、濡れてますよね?」

「それがどうかしたの?」

「ブアメードの血ってご存知ですか?」

「ブアメードの血?」

「十九世紀のオランダです。ある三人の医師がブアメード死刑囚に目隠しをし、『人間は血が三分の一抜けたら死ぬ』と教えた後、尖った物で刺激を与え、水滴が落ちる音を聞かせ、『もう三分の一出たんじゃないか』と言うと、ブアメード死刑囚は息を引き取った、と言う話です」

「それが行われたってこと?」

「暗示で人が死ぬなんてそんなまさか」

「調べてみる必要はあるな」

「聡、本気?」

「いや、半信半疑。だから調べるんだよ。取り敢えず、交友関係の洗い出し」

「分かったわ」

 俺たち三人は白沢の交友関係の洗い出しを始めた。



 俺たち三人は白沢の友人である小林こばやし 香奈子かなこの家にやってきた。

 リビングで白沢が亡くなったことを告げる。

「そんな、一樹が殺されただなんて……!」

「殺された? どうしてそう思うんですか?」

「え、違うんですか?」

「白沢さんの死因は心臓発作です。事件性はありません」

「そうなんですか? でも事件性が無いのにどうして?」

「それはお答え出来ません。それと、昨日の午後三時頃、どちらに居ましたか?」

「家に居ました」

「そうですか。白沢さんを恨んでる人物に心当たりは?」

「一樹が人に恨まれる訳ありません。むしろ好かれるタイプです。ていうか、事件性はないんじゃ……?」

「念のためです。では」

 俺たち三人は席を立ち、小林家を後にした。

「二人とも、本棚見た?」

「暗示や催眠術に関する本がいっぱいあったわね」

「倉田さんの推理が正しければ、彼女が犯人かも知れないね」

「でもどうやって立件するんです? 証拠は無いですよね」

「そうなんだよなあ……」

プルルルルル──と、携帯電話が鳴る。

 洋子が携帯電話を取り出して応答した。

「はい、荒川です。……はい、分かりました」

「どうした?」

「白沢の件なんだけど、捜査終了になったわ。解剖の結果、何も検出出来なかったそうよ。事件性無しってのが警察の見解みたい」

「そうか……」

「じゃ、私は警視庁に戻るけど、貴方たちはどうするの?」

「俺たちは……」

「もう少し調査してみようと思います!」

「そう。危ないことはしないでね」

 洋子はそう言って去っていった。

「倉田さん、マジで調査続けるの?」

「私、白沢さんの件は殺しだと思うんです。所長もそう思ってるんじゃありません?」

九分九厘くぶくりん、事件性はないと思ってるけど?」

「残りの一厘いちりんは殺人ということですね?」

「そういうことだ。で、何する?」

「さっき言ってた五年前の遺体って何です?」

「ああ、俺が刑事だったころな、白沢が発見された現場で遺体が発見されたんだよ。でも事件性は無く、捜査本部は設置されなかったんだ」

「遺体の名は?」

浅輪あさわ 大輔だいすけ銀龍会ぎんりゅうかいの構成員だった男だ」

「だった?」

「ああ、婚約して足を洗ったみたいだよ。そしてその婚約者が、今の小林 香奈子」

「きっと白沢が浅輪を殺害したんでしょうね」

「五年前にも暗示が使われたというつもりかい?」

「そうです、暗示が使われたんです」

「小林家に戻って君の推理をぶつけてみるかい?」

「勿論です」

「戻ろう」

 俺と聡美は小林家に戻った。

「今度は何です?」

「浅輪 大輔、ご存知ですよね? 貴方の婚約者だった」

「今度は何を調べてるんですか?」

「浅輪 大輔の死の真相です。ここからは私の推測になるんですが、浅輪さんは白沢さんに殺害されたのではないですか?」

「な、何を仰ってるんですか? 大輔の死に事件性はありませんよ」

「殺害方法はブアメードの血です。暗示や催眠術の本を読んでいる貴方なら、ご存知ですよね」

「ええ、知ってますけど、だから何なんです? まさか一樹に大輔を殺されたから、私が一樹を殺した、と?」

「違いますか?」

「証拠はあるんですか?」

「ありません。ですから、貴方に真実を語ってもらいたいんです!」

「……やりましたよ。でも暗示による殺人なんて立件出来ませんよね?」

「何でそんなことしたんです?」

「一樹が大輔を殺害したからよ。で、私を逮捕する?」

「残念ながら我々に逮捕権はありません。我々は民間人ですから」

「刑事さんじゃないんですか?」

「我々は探偵です」

「そうですか」

「小林さん、自首していただけませんか?」

「自首しても罪には問えないのでは? 暗示で人が死ぬなんて、そんなバカげたこと誰が信じるんです? 分かったらお帰り下さい」

 俺たちは席を立ち、小林家を出た。

「所長、どうします?」

「どうするったって、彼女の言うとおり立件出来ないからなあ……」

「一応、荒川さんに報告しておきませんか?」

「そうだな」

 俺は携帯で小林のことを洋子に報告した。

「さあ、帰ろう」

 俺と聡美は帰路に就いた。


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