第20話:妻の不倫
黒沢探偵事務所。
端正な顔立ちをした女性が入ってくる。
「黒沢探偵事務所にようこそ。どういったご用件でしょう?」
女性は机の前に来ると、履歴書を置いた。
「ハロー○ーク見て来ました。ここで働かせてもらえませんか?」
履歴書の名前欄には、倉田 聡美と書かれている。歳は俺と同じ三十五のようだ。
「車かバイクの免許は持ってますか?」
「はい」
聡美が車の免許証を俺に見せる。
「それじゃあ採用」
「え、本当ですか!?」
「うん」
その時、事務所の扉が開いて洋子が入ってきた。
「あら、お客さん?」
「いや、就職希望者」
聡美が洋子の方を向く。
「初めまして、倉田 聡美です。助手の方ですか?」
「いや、そいつは刑事だよ。名前は荒川 洋子。警察庁刑事局長の娘さ」
「そうなんですか」
「で、何の用だ?」
「別に用はないよ。近くを通りかかったから来てみただけ」
「そうか」
プルルルルル──事務所の固定電話が鳴った。
俺は受話器を取ると耳に当てた。
「はい、黒沢探偵事務所です」
「妻の不倫調査をお願いしたいんですが?」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「深山 学です」
俺はメモ帳にその名を書いた。
「住所は?」
深山の住所をメモ帳に記載する。
「分かりました。詳しい話を聞きたいので、今からお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、お待ちしてます」
俺は受話器を置いた。
「洋子、事務所空けるから帰ってくれ」
「うん、分かった」
洋子は事務所を出て行った。
「倉田さん、行くよ」
「どちらへ?」
「深山家」
「事件ですか?」
「うん」
俺と聡美は事務所を出て深山家へ向かった。
ピンポン──俺は深山家のインターホンを鳴らした。
中から若い男性が出て来る。
「探偵さんですか?」
「はい」
「お待ちしておりました。さ、中へどうぞ」
深山の家に入った俺と聡美はリビングへ通された。
ソファに腰掛ける俺と聡美。向かい側に深山が座る。
「奥さんが不倫をなさっているとのことですが、詳しい話をお願い出来ますか?」
深山は話した。最近、妻の様子がおかしい、と。毎晩、どこかへ出掛けて朝まで戻らないらしい。
「成る程……、不倫かも知れない、そう思ってるんですね?」
「探偵さん、調べていただけないでしょうか?」
「お任せ下さい。必ずや証拠を押さえてみせます。ところで、奥さんは今どちらに?」
「買い物です。もうすぐ帰ってくると思いますが……」
「そうですか。では表に張り込みます」
俺と聡美は深山の家を出た。
入れ替わりに深山の妻が帰宅する。
俺と聡美はそのまま夜まで張り込み、妻が出掛けたところで尾行を開始した。
尾行すること十分、妻は喫茶店へと入店した。
俺と聡美は店に入り、妻の様子を窺う。
やがて男が店に入ってきて、妻の下へ向かった。
「待たせたね」
俺はインスタントカメラを取り出して二人を撮影した。
その後、二人は店を出ると少し歩き、ラブホテルの前で立ち止まった。
「入るんでしょうか……」
二人はそのホテルに入ろうとする。
俺はカメラでその様子を撮影する。
そして二人はホテルに完全に入った。
「調査はこんなところか。戻るぞ」
俺と聡美は深山の家に戻った。妻は当分帰ってこないだろう。
「探偵さん、どうでした?」
俺は深山に写真を渡す。
「そ、そんな!? 妻が本当に不倫してたなんて!」
「残念ながら事実です。では」
俺と聡美は深山の家を後にした。
「学さん、どうするんでしょうか?」
「離婚するんじゃないかな、たぶんね」
「離婚……ね……」
「それより、倉田さん、腹減ってない?」
「そう言えば張り込んでから何も食べてませんね」
「じゃあ近くにラーメン屋があるから行く?」
「ラーメン!? 私、ラーメン大好物なんですよ! 行きましょう!」
こうして民事事件を解決した俺たちはラーメン屋に向かうのだった。