第11話:浮気
黒沢探偵事務所。
俺は椅子に座って新聞を読んでいた。
事務所のドアが開き、洋子が入ってくる。
「聡、事件よ」
「事件?」
「千代田区のマンションで殺人が遭ったの。で、部屋には鍵がかけられていたのよ」
「密室、という訳か」
「これから現場に行くから一緒に来て」
「分かった」
俺は新聞を置いて立ち上がり、洋子と共に事務所を出て殺人現場へと向かう。
殺人現場は千代田区の住宅街に立つマンション、ステイルメイト二階の一室。遺体は腹部に包丁が刺さっている状態でリビングで見つかった。
害者の名は森次 英人。職業は俺と同じ探偵。第一発見者は妻の法子だ。
法子の証言では、朝起きてゴミを出しに行き、戻ってきたら死んでいた、と言うことだ。
ゴミ出しから戻ってくるまで五分あり、その間に殺害されたのであろう。
「洋子、英人の職場行こう」
「オッケー」
俺と洋子は英人が勤める渋谷区の小柏探偵事務所に向かう。
小柏探偵事務所は事前に電話で予約を取り、後日、探偵相談員が依頼者と面談して依頼内容を聞き、探偵調査員が調査をするという調査会社である。
そこへ着いた俺たちは中に入った。
社員がやってくる。
「どちら様ですか?」
「探偵の黒沢です」
洋子は警察手帳を出す。
「警視庁の荒川です」
「警察が何のご用で?」
「森次 英人が何者かに殺害されました」
「何ですって!?」
「貴方、お名前は?」
「深山 義彦です」
「では深山さん、今朝八時頃、貴方はどちらにおられましたか?」
「出勤途中でした」
「森次さんに何か変わった所はありませんでしたか?」
「いいえ、特には……」
「そうですか」
「洋子、警視庁行こう」
俺と洋子は警視庁に向かい、捜査一課九係へと入った。
「捜査に進展はある?」
洋子の問いに部下の刑事が答える。
「森次 英人はどうやら女癖が悪かったようです。付き合っている女性が何人も居まして、それがバレて誰かに殺害されたのでしょう」
「何人の女性と付き合ってたの?」
「四人です。名前は、加藤 佐知子、山田 加代、黒川 優子、加山 靖子です」
「四人のアリバイは?」
「四人とも会社に出勤中とのことでした。アリバイはありません」
「その四人はどういった経緯で被害者と知り合ったんですか?」
「四人とも小柏探偵事務所の依頼者で、森次 英人とは面談で知り合ったと言っています」
「洋子、法子かも知れない」
「何が?」
「犯人。法子の所へ行こう」
「証拠が無いわ」
「鑑識行こう」
俺は洋子を連れて鑑識課へ移動した。
「黒沢さんに荒川警部、どんな用件で?」
「英人の殺害に使用された凶器から指紋は?」
「それが誰の指紋も出なかったんです」
「確定だな」
俺と洋子は森次家へ向かった。
インターホンを鳴らすと法子が出て来た。
「あ……刑事さん」
「法子さん、英人さんを殺したのは貴方ですね?」
「え、何を仰ってるんですか?」
「凶器に使われた包丁、この家の物ですよね。出なかったんですよ、指紋が」
「何が言いたいんですか?」
「貴方は致命的なミスを犯したんです。指紋をふき取ってしまった、というね」
眉を顰める法子。
「殺害の動機は?」
「ご主人の浮気……ですよね?」
はあ、と溜め息を吐く法子。
「やっぱり人殺しはするものじゃないですね」
「英人さんの殺害、認めるんですね?」
「ええ、私が殺りました。あいつの浮気を知って別れ話を持ち掛けたら、嫌だの一点張り。だから殺してやったの」
法子が両手を前に出す。
「逮捕、するんでしょ?」
洋子は懐から手錠を取り出した。そしてそれを法子にかけた。
「法子さん、鍵がかかってた、というのは嘘ですね?」
「いいえ、かかってたわ」
「そうですか。と言うことは、ご主人が最後の力を振り絞って鍵をかけたんでしょうな。貴方を庇う為に……」
「さあ、行きましょう」
洋子は法子を警視庁に連行した。