純都フェルノア-7
「あ、あれはっ――!?」
建物の周囲にいた兵士の一人が声を上げる。周りで起こる驚きのざわめきとは違う様子で。
「あの剣の紋様は〝力の化身〟!? ……シルバード!! シルバード・アルケィニアですっ!!」
ただ一振りの剣技に、その瞬間を見た者全てが絶対的な力を感じていた。
大層な二つ名を轟かせるような傑物にはとても見えないが、その能力は確かだった。
シルバード・アルケィニア。
彼の二つ名はその剣に由来している。剣に刻まれた言葉が広まり、いつしか彼自身の二つ名となったのだ。
刻まれている言葉は――Avatar of Might
つまり〝力の化身〟をそのまま意味する彼は、世界最高戦力の一つに数えられていた。
「力の……化身……?」
訊ねるオルハに青年――シルバードは頷く。
「死んだ名だ。知ってる奴がいるとは」
その言葉にとんでもない、という顔をするオルハ。彼の二つ名はおそらく世界中に知れ渡っている。どこかの小国の子供達にも、スラム街でその日暮らしをしている浮浪者にも。
ドラードの争いの歴史では、たった一人の強者がそのまま勝敗を決したということも少なくない。彼らは圧倒的な力をもってしてたびたび戦の歴史を動かしてきた。
世界最高戦力。
その言葉はまさにそのような人物のことを指している。そして、この場にいるシルバードもその一人だという事実。どちらの敵でどちらの味方かということはさておき、この事実はクアドハイトにとってもテロリスト達にとっても大きな衝撃を与えた。
シルバードは辺りを見渡す。クアドハイト兵は、テロリスト達の動きを止めている者以外はこの周囲に集まってきていた。魔工兵器も今は動作を止めている。
(このテロリスト達も戦力になるか? いや、どちらにしろ魔工兵器をどうにかしないとだな)
どうすればここから逃げられるか、考えを巡らせるがその隙もなく魔工兵器は二つの砲身を生み、彼に照準を合わせていた。
「ちっ」
舌打ちをしたシルバードは依然オルハを抱えたまま建物から飛び下りる。次の瞬間には放たれた光の束が当然のように街の建物を易々と溶解した。
そして、彼が地に着くとほぼ同時。二つ目の光の束が完璧なタイミングでシルバードに襲いかかった。
彼は再び剣を唸らせ、圧倒的な光量を纏った白銀の刃が魔工兵器から放たれた光の束を相殺させた。
辺りに響き渡る強烈な破砕音。他のどんな実力者が魔法合戦を繰り広げたとしてもこのような爆発音は生まれないだろう。
地面さえ揺るがせそうな威力に、その場の大多数が身を震わせた。
そして、こう思っただろう。――この戦いには踏み込めない、と。
なればこそ、シルバードの敵はただ一人。否。ただ一体。魔工兵器のみだった。
小回りが利くか、という意味では機動力に難点があるものの、それを補って余りあるほどの攻撃力を持っている。そして、その難点は周りに数人の兵士を置くことでほぼ解消できる。