純都フェルノア-6
その言に今度こそ青年の動きが完全に止まる。
そして、ひたすら驚愕を表情に浮かべ、息を飲んだ。
彼が今なにを考えているのか。
自分を助けてくれたとはいえ、それはクアドハイト兵が暴走していたからだ。テロリストの味方をしてくれるわけはない。
そもそも彼は剣を背に負っている。
軍服でないところをみれば正規軍の兵士ではなく、おそらくは傭兵か自治組織の一員かなのだろうとわかる。
そんな彼がテロリストの味方をすることも、力になってくれることも、許容してくれることもあるはずはない。
彼の明確な立場はわからないけれど、もしかしたら自分を捕らえなければいけない立場の兵士なのかもしれない。
否。
今この場にいる兵士、というだけでどちら側の人間かは明らかだ。たとえ雇われた傭兵だとしても。
「わたしを捕まえるなら――」
捕まえて下さい。そう言おうとした瞬間、二人の横に建っていた建物が爆発した。
「っ!」
「きゃああぁっ!?」
突然のことに二人は身構える。
もくもくと立ち上がる爆煙の向こうには一つのシルエット。
一〇メートルを超す高さのそれは、人をベースに造られはしたものの結局人と呼べる形を成さなかった機械の胴体を持つ。
ドラム缶のような円柱型の胴から突き出すワイヤーはそれぞれが結合し、砲身を模っている。
クアドハイト最高の技術力をもってして造られた魔工兵器はすでにオルハと青年に照準を合わせていた。
「おい」
「えっ、な、なに――」
「じっとしてろ」
「きゃっ!?」
言うなりオルハを抱え、彼女の返答も聞かず彼は大通りに向けて駆け出す。
そして、ひと一人を抱えているとは思えない速度で魔工兵器から次々放たれる魔法弾をかわしていく。
他のクアドハイト兵が驚きで固まっている間に大通りまで飛び出てしまった彼は、あろうことかそのまま魔工兵器に進路を向ける。
抱えられているがために自分の進む方向さえ決められないオルハにも身を強張らせることくらいしか出来ることがない。
ここまできたら止めることなど無意味だし、そもそも彼は止まらないだろう。
「ちょ、ちょっとなにを――」
「黙ってろ!」
声を発すると同時、さらに二つのことが行われた。
一つは魔工兵器が幾十ものワイヤーで作り上げた砲身から強力な魔法を撃ち放ったこと。
一つは青年が跳び上がったこと。
一瞬にして光の束は二人の元へ届き、その直線上数百メートルのなにもかもを消滅させ。
一瞬にして青年は数メートル離れた建物の屋上へ。
だが、息を吐く間もなく、今度は兵士達からの追撃が始まる。
今の一撃ほどではないが、小さな魔法弾や銃弾が一つの壁を成すように飛んできた。瞬間、目を閉じてしまったオルハだったが、青年の方は違う。
背から引き抜いた巨剣を一閃――
白銀の装飾剣は稲光をも上回る光量をその身に纏わせ、その一振りで全てを薙ぎ払った。
「えっ――――」
あまりの眩しさに目を開けたオルハにはなにが起きたのか全くわからなかった。ただその結果だけが、数えきれないような弾全てが薙ぎ払われたという事実だけが、そこにはあった。