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力の化身  作者: 風屋
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純都フェルノア-4

 テロリストの中に一人の少女がいた。

 桃色の髪は色に合った甘い匂いを漂わせ、大人になりきっていない顔立ちはおよそ戦場には似つかわしくない。

 ただ、どういうわけか彼女は他の者とは違い、銃口を付きつけられてはいない。そもそもまだ路地に隠れたまま誰の目にも触れていないのだ。

 オルハ・クリンスタム――そう呼ばれる彼女は外見は人間となんら変わらない種族である。

 耳が尖っているわけでも、身長が三メートルを超すわけでもなく、本当にハイティーンの少女と同じ。少々背が低くはあるが。

 ただ一点、他の種と異なるのは心臓だけ。彼女の心臓はアルマイトの結晶で出来ており、個体差が激しい種族ではあるが平均してアルマイトの体内量が人間の一〇〇倍を越す。

 見つかっておらず、自由に動けるというこの状況でその能力を充分に発揮できるのならば、あるいはこの状況を打破出来たかもしれない。

 しかし、彼女は俯いたまま動こうとしない。

 否。

 動けないのだ。

 彼女は類まれなる才能を持ちながらにして仲間にさえまともな戦力には数えられていなかった。

 彼女にとって戦闘は怖れであり、正面から誰かと対峙するなど出来るようなものではないのだ。

 ゆえにオルハはこれまでも戦闘を避け、仲間から罵られようと自身の力を行使することを避け続けてきた。それが多くの犠牲を生み、皆を苦しませていると知っていながら。もしくは知っているからこそ、戦えないのかもしれない。


「だから、だから……止めようって言ったのに…………」


 目を閉じ、耳を塞ぎ、地べたに座り込んでしまってなお、彼女は近くで起こっている戦いのことを思うと身体の震えを抑えることが出来なかった。

 と、突如響いた銃声。単発ではない連射音が静かになった通りによく響く。

 おそらく誰かが抵抗を試みたのだろう。だが、その後に銃声が止んでしまったところをみると失敗に終わってしまったのだろう。

 今のでより一層怖れを強くしてしまったオルハは立てた両膝の間に顔を埋めてしまった。がたがたと揺れる身体を抑えることなどもはや奇跡でも起きなければありえない。

 そんな状況だったから、彼女は路地の向こうから静かに歩いてくる者にもすぐ気付けなかった。


「そこの貴様! なにをしている!?」


 オルハはとっさに立ち上がろうとしたが、顔すら上げられない。自分で死ぬ勇気さえないことを自覚しながら、殺されるなら一瞬で痛みのないようにして欲しい、などとありえるはずのない願望を心の中で必死に唱えつつ流れに身を任せた。


「ゆっくりと立て! さもなくば撃つ!」


 機関銃を構える音が届き、更に身が硬直してしまう。これではもう助かる道はないと、そう思いつつ歯をガチガチと震わせた。

 そして。


「いいだろう! 子供とて容赦はしない!」

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