純都フェルノア-3
――魔工兵器
顔のない頭部がおもむろに路地の一角へ振り向く。
「まずい!! レニー、避けっ――!!」
声が上がるとほぼ同時、魔工兵器のワイヤーが束となり腕のような突起を作る。その先端のまるで銃口のような空洞は、間髪いれずにテロリストが隠れる一角へと向けられた。
そして、移動を許す隙も与えず、そこから大木の太さとなった光の束が槍のように放たれる。息を短く吐く様な小さな音に反して、その衝撃は遠くまで響いた。
数百メートル先まで届く射程の長さ。
煉瓦造りの建物までもを抉り取る破壊力。
そして、無数のワイヤーによって形成される銃身は三六〇度の可動域を有している。
光が収まった後に残るものはなにもなかった。三人はいたはずの路地には血の一滴さえ残ってはいない。
史上最悪の兵器にテロリストは仲間の死を嘆く暇もなく恐れ、脚を止め、戦う意志を少しでも削がれてしまった。
「一旦退くぞ! レニー達がやられた!」
「ちっ、彼女達がやられたらこの作戦は、オルハがやるしか――!」
「いいから退け! あいつらがいなくともやるしかないんだ! まだオルハがいる!」
混乱は次々に伝播していき、退却にも後れを取ってしまう。今、生きていた証を欠片も残さず消し去られてしまったのは作戦の要だった人物なのだ。集団は散り散りになって路地を駆けていく。
しかし。
「止まれ!」
しかし、すでに広場から周辺一帯を包囲していたクアドハイト軍。統率の取れた動きで魔工兵器の出動と同時に包囲を開始していたのだ。
銃口を突きつけられ、彼らにはもはやなす術はない。構えられた後ではいかに詠唱を必要としないエルフドラードといえど、銃弾より魔法を放つ方が遅い。また、魔法的耐性も備えている種族は多くとも金属製の弾丸を跳ね返すような鱗を備えた種族は少ない。
仮に少数が助かろうとも大多数は捕らえられるか、良くても殺されるだけだ。この戦いに彼らの勝ちはなくなった。
明らかな力不足だった。人員も、作戦も、戦力も、全てが足りなかった。