純都フェルノア-2
「非人が! 純都を汚しやがって!」
兵士達はテロリストの正体を知るなり、俄然勢いづいて剣を振り上げる。その様相はテロリストに対するというより、畑を荒らす動物や、あるいは不逞を起こした奴隷にでも対するようだった。彼らはもとより人外の生物を魔を持ちし生き物として見なしてはいないのだ。
「死ね、非人!」
兵士の一人が最も近くにいた女のエルフドラードに向かって剣突を繰り出す。ただの一般兵士といえども他国に比べれば優秀な兵士だ。速度と精密さを兼ね備えたそれは確実にエルフドラードの首に突き刺さった。
――かのように見えた。しかし、実際は首の皮にさえ触れることなく避けられてしまっていた。
全力の一撃を振りかぶってしまった彼には、次にエルフドラードの繰り出す攻撃を避ける術はない。エルフドラードの彼女は紫に光る魔法の弾丸を二発、正確に兵士の眉間と心臓に撃ち込んだ。一般兵士の薄鉄板で作られた装備程度では防御しきれない威力である。
言葉を発する間もなく崩れ落ちた同僚に兵士達は駆ける速度を落とした。不用意に近づくことなく、様子を見ようというのだろう。けれどそれも意味はない。むしろ魔法を使えるエルフドラードなどにとっては好都合。
最前にいた数人に追いついた、魔法を使える種族達が次々に詠唱を口にする。
この世に存在する〝魔法〟という力。それは生物の体内に流れる〝アルマイト〟という物質が源となっている。それを様々な形で体外に放出する方法は種族によって異なるが、発声器官を有する種は言を発することによってそれを行う。人もそうだ。
だが、発声器官を持たない種族や、発声器官を持っていながらも声ではない方法で魔法を発現させられる種族もいる。エルフドラードなどがそこに類される。
様々な方法で放たれた攻撃系の魔法。刃や矢の形をしたそれらは非人として虐げられてきたことへの怒りを表すかのように次々と人間の兵士達を襲った。人間がどれほどの銃器を生み出そうとも、個体では人間の能力に勝る種族などいくらでもいるのだ。
「魔工兵器だ! 全隊に告ぐ! 歩兵は全員退却! 敵の主要戦力を駆逐するまでは魔工兵器に任せることとする!」
と、大きな地響きが聞こえた直後、逃げ惑う兵士が声を上げた。エルフドラード達によって傷ついているというのに、その瞳には希望の色が濃く映っていた。
同時に、急襲をかけたテロリスト達も目の色を変える。ここからが本当の戦だとでもいうかのように。
「来るぞ! 全員散れ!」
ホーンドラードの一人が声を張り上げ、皆がそれぞれ建物の陰に走り散った。つい数分前までパレードが行われていた大通りや広場は一斉に閑散とし、ただ遠くから聞こえるのは巨岩でも落ちたかのような音と振動。
テロリスト達は狭い道を通って〝それ〟が発する音の方へと向かっていく。やがて、気を抜けば身体が浮いてしまうような尋常でない振動を感じた頃、皆がその姿を確認した。
鋼鉄で造られている全身。下半分は一二の車輪がついた横に長い長方形、上半身に当たる上半分は円柱型。元は人の形を模すはずだったのだが、鋼鉄の造物に二足歩行をさせるというのは非常に不安定らしく、安定するよう再設計されたスタイル。
上半身に当たる部分も、頭部は内側からだけ外が見える仕様になっている操縦席があるが、腕という概念はない。細かな作業も可能にするため一〇〇を超えるワイヤーが胴体部の至る所から発射される仕組みだ。
本来ならば困難だった鋼鉄の加工を、いくつもの革新的な技術によって容易にしたため量産が可能になった兵器。大陸の戦を終わらせる際に最も多くの場面で活躍した人間の英知。