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力の化身  作者: 風屋
1/8

純都フェルノア-1

はじめまして。処女作ですが、御目通しいただけたら嬉しいです。

「皇帝殿下の御通りである!!」


 力強く野太い男の声が、喧騒な広場に轟いた。同時に、集まった二〇万人の群衆がより一層興奮の渦を広げていく。一つ一つ丁寧に造り上げられた煉瓦が道となるこの大通り。世界有数の大都市フェルノアを象徴する名所の一つだ。

 しかし、今は観光客どころの騒ぎではない。数十年に一度、という規模の大パレードが行われているのだから。

 四足歩行をしながら、成人男性の倍は高さを有すデュオムという陸上生物が籠を牽く。個体によって毛並みにいくつかの種類があるデュオムだが、パレードの中央を歩くのは白銀の体毛。構造的には馬と変わらない身体で牽く籠には皇帝アレハム・クアドハイトその者が乗っていた。

 自らを乗せるデュオムと同様、背中まで垂れる長髪は銀色。赤を基調とした式典衣装には豪奢な刺繍が施されていた。初老と呼べる年だが、あまりしわのない顔はまだ壮年のようでもある。

 彼は道を取り囲む形で群がっている民衆に手を振り続ける。二〇万の人間を集められる人気は為政者というより偶像アイドルのようでさえあった。だが、その人気は為政者としての能力によって作られたものだ。

 ここ数年の間に激化してきたこの大陸の戦争に終止符を打ったのがクアドハイト帝国なのだ。終戦はこの国だけでなく、大陸の人間全てを救ったと言っていい。

 その英雄が間近で見られるというのだから人が集まらないわけがない。また、クアドハイト国民だけでなく他国からも多くの人がやって来ていることだろう。

 管楽器を吹き鳴らし、打楽器を打ち鳴らす真っ赤な服を着た演奏隊。

 全て鉄で造られた鎧と剣、中には銃器を持つ者もいる軍隊。

 演奏隊の奏でる音楽がより華美に、前後を固める兵士達がより荘厳にパレードを盛り上げている。天までもが祝福するかのように真っ青な明るい空を映しだし、パレードは成功と呼べるものになっただろう。

 もし、彼らが現れなかったのなら――



 演奏隊の演奏が途切れてしまうほどの爆砕音が広場の一角から放たれた。

 突然の出来事によって群衆は途端にパニックに陥る。なにが起こったかわからない、しかし明らかに悪意を持って行われたであろうその爆破に人々は過敏に反応した。ところどころから聞こえてきた叫び声はすぐに伝播し、大群衆のうねりとなって更なる混乱を引き起こす。


「落ち着いて下さい! 皆さん、落ち着いて行動を!」


 あちこちで兵士達が対処に当たるが、しかし、二〇万という数はたった一万の兵士達に止められるものではない。

 爆発自体は大きかったものの、煙は上がっていない。不思議なほどに静まり返っている爆発地点にただ一つ言えることは、そこに人は残っていないということだけだ。


「今だ! 行くぞ!」


 と、群衆に紛れて交わされた合図。兵士の僅かはそれを確かに聞き取り、すぐに最悪の想定に辿り着く。


「テロリストだ!」


 否。

 すでにわかりきっていた想定が確証に変わったというところか。首謀者の素性も目的もなに一つわかりはしないが、それでも彼らは大陸規模の大戦を終結させた国の兵士だ。それだけの訓練を受けている。

 彼らはテロリストを捕まえようと群衆の波に紛れていく。もちろんこの人の波の中、一人で突き進むようなことなしない。二人一組になり、背中を守り合うように周囲を警戒しながら一人一人の様子をうかがっていく。

 しかし、その警戒はまるで無駄のものとなった。


「うおおおおぉ!!」


 皇帝を乗せたデュオムを挟んで、爆破の起きた場所とは真反対から幾人かの集団が大声を上げて突き進んできたからである。真っ直ぐに皇帝に向かっていくのは五、六人ほど。他にも群衆とは明らかに異なる走り方をしている者が二〇人ほど。そのどれもが人とは異なる形の者だった。

 ある者は頭に角を生やしたホーンドラード。ある者は耳の尖ったエルフドラード。ある者は背に翼を持ったウイングドラードで、他にも多くの人外の種族がこのパレードに紛れ込んでいたのだ。

 大都市フェルノアはこうも呼ばれている。

〝純都・フェルノア〟と。

 それは人間ヒュムドラードだけが住むこと、そもそも立ち入ることを許可された都市ということだ。人に近いとはいえ、人外の種族がここにいることは違法以外のなにものでもない。

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