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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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――残光――

作者: hikakiso
掲載日:2026/07/30

ある冬のこと。家の外は大吹雪。部屋には暖炉があり、とても暖かい。

脇には薪が高く積まれ、いつでも暖炉に薪をくべることができる。暖炉と家族がいるだけで、アリスは心が温まり幸せな気分になった。


暖炉の炎の色はルビー。

真っ赤で元気が出る色、ルビー色。


「誕生日おめでとう。」


父は娘にリボンの箱を渡した。

母も笑顔でその情景を見ている。


「お父様、お母様、ありがとう。」


アリスは飛び跳ねるほどうれしかった。


母は急かすように「開けてみなさい」と言った。


アリスは張り裂けそうなぐらいドキドキしていたが、さっと包装紙を取り、箱を開けてみた。


クマのぬいぐるみ、テディベアだ。


首には大きなネックレスがついていて、きらきらとしていた。


ありがとう。


アリスはそう思いながら、クマのぬいぐるみを抱きしめた。


父は言った。


「テディベアには昔話があるんだよ。」


「どんな昔話なの?」


父はロッキングチェアに腰掛け、パイプに火をつけた。


とおい遠い昔。まだ人間が生まれていない頃の話だ。


母ぐまとこぐまがいたのさ。


その年は例年に比べて木の実やどんぐりが取れなかった。


困り果てた母ぐまは、川で魚を取ることに決めた。


だが子ぐまを腹いっぱいにさせることはできない。


ついに母ぐまは湖に飛び込み、魚を捕まえだした。


それでも魚は取れない。


水に濡れて、母ぐまはぐったりしている。


子ぐまは心配そうに母の周りをウロウロしながら鳴いていたが、母ぐまの様子が戻ることはなかった。


次第に雪が降ってきたが、子ぐまもその場にうずくまり離れることはなかった。


彼らは星になった。


それが北極星であるポラリス。


北極星は揺るがない。


父と母はアリスにこの話をすると、吹雪いている外に出て、ポラリスのある方向を見つめ、静かに拝んだ。


数年後、世界は困窮していた。


各地で戦争が起こり、食糧難が何年も続いている。


それでもアリスと両親は何とか健康だったし、父の会社も何とかやれている様子だった。


我が家では、食料がどうにかこうにかやりくりできるぐらいだ。


具のないスープ。

硬いパン。

大好きな木の実のジャム。


これだけだったが、食べられない人達のいる中では贅沢だった。


木の実のジャムは、母が無理をして砂糖を手に入れて作っている物で、木の実を鍋で煮詰めている時のきらきらを、いろいろな人達に届けたいとすら思いを巡らせていた。


母のジャムは本当に美味しかった。


食料があった頃、家にはいろいろなジャムがあって、どれも瓶の中は宝石を詰めたような色で輝いていた。


忘れられない思い出だ。


その日の夕暮れは特に綺麗で、今日の日のキラキラを暗闇が食べてしまうようだった。


ブルーベリーのように蒼黒く染まった空には、星々が瞬いている。


蒼色暗闇サファイア。


私の暗闇を食べてくれるサファイア。


いつも世界が混沌とする時は急だ。


時として人間は愚かで、光の有難さや優しさなどとは無縁の生き物になる。


遠くで虫のような羽音が聞こえてくる。


ブーン。


ガラッ、ガラガラッ。


エンジンが今にも止まりそうな飛行機が上空を旋回して、湖の方向へ飛んで行った。


ドーン。


就寝中のアリスや両親たちも目を覚まし、父親が部屋に飛び込んできた。


「ケガはないか?」


そう尋ねると同時に、勢いよく玄関の戸を叩く音がする。


「旦那!旦那いますか!!工場が大変だ!!」


母が部屋に入ってきて、アリスの部屋の窓を大きく開けた。


丘を越えた林の向こうの空が赤い。


母は覚悟していたかのように言った。


「アリス。これがどういう状況かわかるね?約束していた通り、あなたは船に乗って叔父のところに行くのよ。いいわね?」


そう言うと、トランクケースの中にアリスの洋服を詰め込み始めた。


「お母様、まって!」


そう言ったが、母の手の止まる気配はない。


「いいから着替えるのよ!!」


虫の羽音のような音が、また聞こえる。


かなり近い。


母は部屋から飛び出し、急いでどこかへ行った。


まさにその時。


ドーンッ。


バァアアアン。


炸裂した音が耳をつんざく。


その衝撃でアリスは壁に吹き飛ばされ、しばらく動けなかった。


霞んだ眼の先に炎が見え、部屋が燃えている。


部屋に帰ってきた母は、腕をけがしていた。


パジャマが半分焦げていた。


「アリス!アリス!」


母の叫び声が聞こえる。


私は気を失った。


目を覚ました時には馬車に乗っていた。


運転しているのは工場の若者だった。


「止めて!!母達はどうなりましたか?」


若者は無言で馬に鞭を入れる。


「ハイヤァ!!ハイッ!!」


馬車はさらに加速していく。


そんな中、またあの羽音が聞こえてくる。


アリスは怖くなって馬車の中で身を屈める。


ヒューッ。


爆弾の音だ。


何個も落とされ炸裂する音がする。


馬車の小窓からふと外を見ると、真っ赤に燃えた建物が見える。


空の向こうには星が光っている。


足元を見ると自分のトランクがあった。


アリスは我に返り、自分のトランクを開けてみた。


中には洋服とテディベア。


それにジャムが入っている。


それを見て涙があふれた。


船の汽笛の音がする。


ヴォオオオオオ。

ボオオオオオ。


何度も鳴らしている。


これは港も無事ではないようだ。


若者の横顔は未だ眼光鋭く馬に鞭を入れている。


アリスは冷静になって考えた。


私が出来る事をしなくてはいけない。


泣いてる場合ではないし、戦わなくちゃいけない。


甘えてる自分自身に震えていた。


港につくと建物は焼け、未だに炎が煌々と立ち上り黒い煙を上げている。


「アリス様!!港についたら走りますよ!!」


ぶっきらぼうにそう言い放つと、馬車が止まり問答無用にドアが開いて手をグイと引っ張られた。


痛い。


そう思ったのもつかの間、民衆が暴徒化していく。


我先に食料や衣料品、それに薬局に押し込んでいる。


アリスが立ち尽くした瞬間、体が馬車に当たった。


恰幅のいい女性に突き飛ばされたのだ。


若者は構わず長鞭を女の顔めがけて振るう。


シュパッ。


恰幅のいい女は顔を埋めしゃがみ込んだ。


「さぁ!!」


また手を掴まれ走り出した。


ガレキを超えるのは容易ではなかった。


港につくその手前でまた鞄を掴まれた。


若者は拳で抵抗したがトランクは取られてしまった。


他の民衆に馬乗りになられ、何度も何度も殴られている。


「アリス様!船が出ます!構わず走って!!」


アリスは一旦躊躇したが走り出した。


無事だろうか。


振り向かず走り続けた。


ヴォオオオオオオオオオオ。


低い船の汽笛がまた響く。


兵士が何十人かいて、暴徒化する民衆から船を守っていた。


銃口は向かってくる民衆に向かっている。


ポンッ。


一人の兵士が照明弾を上げ、閃光が夜空に灯る。


「止まれ!!」


アリスはいった。


「この船に乗船するものです!!」


兵士は続けて言った。


「乗船切符はあるのか!!」


「それが……」


その時だった。


「おーい待ってくれ。」


眼光鋭い若者だ。


ベストは破けていて、シャツも顔も血だらけだ。


アリスは言った。


「よく来てくれたわ!」


そう言うと若者はチケットを兵士に渡した。


アリスと若者は無言で船に乗り込んだ。


船に乗ると飛行機は船には攻撃してこない。


この気を逃すまいと、船は全速力で港を離れる。


するとその時、誰かが叫んだ。


「おい!教会の塔が崩れるぞ!」


爆撃され、教会の塔の片側には大きな穴が開いていて、その穴からは黙々と煙が噴き出していた。


ズシャー。


ガラ―――ンガラ―ン。


という音とともに教会は崩れ去った。


アリス達はどうする事も出来ず、離れていく景色に呆然としているほかない。


溢れそうになる涙をぐっと堪えて、アリスはハンカチを出し聞いた。


「あなたお名前は?」


「ハリーです。」


ハンカチを手渡すと、スカートを破いて包帯代わりにハリーの腕に強く巻き付けた。


同時にアリスは涙があふれ泣き崩れた。


海は真っ黒い絨毯のようにすべてを受け入れていた。











暗い場所にいた。


黒い。


手が見えない。


寒い。


落ちている。




何でこんなことになっちゃったんだっけ。

みんなどこ行っちゃったんだっけ。


お父さんお母さん…。


ハリーさん恰好よかった…。









光だ。


眩しい。

赤い。


真っ赤だ。


暖炉。

ああ、暖炉だ。


何かが静かに花を咲かせた








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