表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレーム・エンド  作者: だいなま
学園編 一章
4/5

四話 “弱食”

「うわぁ! そういえば鳥に攫われてぇぇ……」

 着地の衝撃で目を覚ましたルーシーは、顔を引きつらせ身震いした。

 彼女に目立った外傷はない。


 旋鷲(ゲイルイーグル)に向き直る。


「今すぐ森を出ろ」

 背中越しに声をかける。

 すぐ後ろで、落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。


「やーだよっ」


「怖がってたんじゃないのか」

「そりゃ怖いけど……」

 隣に歩み寄ってきたルーシーは、以外にも笑顔だった。

 一人でも仲間がいてくれるのは心強い。


「転移は合わせてくれ」

「あ、ちょっと……」


 大地を蹴り、大きく前に出る。


 属性は“風”――。


空裂(エアロリフト)


 空気がいくつもの薄い刃を形成すると、目に見えない斬撃はそれぞれ周囲へ飛散し、周囲の木々を斬りつけていく。

 幹の半ばに白い断ち目が走る。

 重さに耐えられなくなったのかゆっくりと傾き、連鎖するように倒れていった。


 僕は荒い息を飲み込みながら、目だけは旋鷲を捉えて離さない。


 二択だ。次の羽休め、地面まで下りるか、遠くの木まで飛ぶか。

 前者なら物理攻撃が通る。後者なら、反対方向に走れば逃げ切れる。

 必ずしも倒す必要はない。


 旋鷲の翼が、ふっと鈍った。目に見えて遅くなっている。

 心なしか、高度も少し落ちているように見える。


 休みたくとも、近場には何もない。

 直後、旋鷲の姿勢が崩れた。


 ――勝った。


 確信に近いものが、胸の奥でかちりと噛み合う。

 僕は半歩だけ前に出て、全身に強化(バフ)をかける。


 来る、と心臓が早鐘を打った。


「――――!?」


 旋鷲の翼は、完全に静止した。

 だというのに――。


 落ちない。


「ロイ!」


 視界が切り替わった。

 直前まで僕がいた場所に、嵐弾(ガスト)が撃ち込まれていた。


「……助かった」

「アレ、魔術で浮いてるの?」


 降り注ぐ土砂の中、ルーシーは尋ねた。


 “空踏(スカイウォーク)”。

 飛行種が使えるなんて、普通思わねぇよ。


「ああ。いよいよ打つ手がない」


 旋鷲が嵐弾を放つ。

 ルーシーを抱えて回避を試みるが、着弾の風圧から逃れられず、吹き飛ばされた。

 木の根に背中からぶつかり、その勢いは止まった。


 向き直ると、また嵐弾を撃ち込もうとしていた。


「あっちへ! 分散する!」

 指示を出すと、すぐにルーシーは動いた。

 僕は逆方向へと身を乗り出す。

 旋鷲は僕を狙った。地形なんて考えずぶっ放してくる。


 空踏まで対策するにはどうすればいい。

 サイラスが使っていたような結界があれば無効化できるか?

 あとは――()()()()()、だ。


 つべこべ考えていると、踏んづけた地面が淡く発光しているのが見えた。


「――っ!!」

 気づいた時にはもう遅い。輪のように浮かび上がった光が土の表面を走り、突風を噴き上げる。


 重心を乗せていた足ごと、身体の芯を下からぶち抜かれる。

 地面から引き剥がされ、全身が無防備に空中を舞った。

 空と森が、ぐるりと入れ替わる。


 旋鷲はそれを見逃さない。

 金色の目が、最高にギラついていた。


 防御態勢に入る間もなく、嵐弾は放たれた――。



「――ん?」

 目を開けると、そこは旋鷲の背後。


「えぇ、罠魔術、こんな時に……?」

 彼女の声で、ようやく繋がった。罠って、旋鷲が仕掛けてたものだったのか。


 再び旋鷲は動き出す。威圧するみたいに、翼を広げた。


「援護は頼んだ」

 短く告げた僕は、人差し指の先を噛んだ。

 手の甲に、ピアスにはない魔法陣を描く。


 属性は“風”――。


空踏(スカイウォーク)


 バフの乗った体は軽く、一直線に旋鷲へ飛び込んだ。

 削られるように魔力がじわじわ減っていく。

 決着は一瞬だ。


 虚空を連続で駆け上がっていく。

 旋鷲は翼をひるがえし、横へ滑るように逃げ込んだ。

 直後、嵐弾が立て続けに二発眼前に迫る。


 足場から飛び降り、冷静に避ける。


 見えている。

 動きは確かに速い。だが、見失う程じゃない。


 無数の嵐弾をかわし続けながら、人差し指に魔力を集める。

 指先が熱を帯びていくが、まだ足りない。


 旋鷲は、その身を弾丸のようにして飛び込んできた。

 細い影が三本、胸元を裂きに来る。


 避けないどころか、僕は間合いを詰めて拳を繰り出す。

 鋭いかぎづめが食い込む。激痛を伴う代わりに旋鷲の体がぐらついた。


 なんとか旋鷲は体勢を立て直し、一時的に距離を取ろうとするが、その一瞬だけは僕の方が速かった。

 その前三趾を掴みあげ、真下へ振り下ろした。


 旋鷲は翼を広げ、叩きつけられるギリギリで踏みとどまる。

「今だ――!」


 下で待ち構えていたルーシーは地面に両手をつき、魔術を発動した。


土棘(アーススピア)!』


 地面からいくつもの細い棘が形成され、縫い針のように旋鷲を貫く。

 旋鷲は啼いた。肺がひしゃげるほどの大声で。

 森全体を震わせ、腹の奥まで響き渡った。


 土棘は確かに旋鷲を捉えている。けど、翼だけだ。

 胴体には一本も届いていない。


「……まずい」

 その瞬間、森に影が落ちた。

 魔獣は夜行性。活性化する――。


「早く止めを!!」

 ルーシーが声を荒げる。


 息を整え、指の先で旋鷲に照準を合わせた。


 風魔術は万能だ。あらゆる属性――炎も、水も土も、もちろん風だってレジストできる。

 旋鷲ほどの火力なら“嵐弾”だけでもほとんどの魔術の対策になる。


「離れてろよルーシー」


 属性は“雷”――。


電撃(サンダーボルト)


 指先に貯め込んだ魔力を一度に放出した。

 魔力がずるずると引き抜かれていく不快感を覚えながらも、その魔術を打ち切った。


 白い閃光は蛇行しながら旋鷲の胸元を貫く。

 その金色の目が一瞬だけ見開かれた。


 遅れて、雷鳴が響き渡った。


 焦げたようなにおいが鼻を刺す。

 土煙がやむと、灰になった旋鷲が見えた。


「……終わった」

 ルーシーの声と同時に、僕も肩から力が抜けた。

 魔力はほとんど底をつき、固めていた空気が解けると同時に、僕の体は空中へと放り出された。


 地面とすれ違う瞬間、ルーシーが無茶な体勢で飛び込んできた。


「うわぁっ!」


 二人まとめて落ちる。

 ルーシーが角度を変えてくれたおかげで地面にぶつかったあと、ごろごろと転がれた。


「無茶するなよ」


「ロイに言われたくない」

 その声はへろへろだった。


「……おなかすいた」

 ルーシーの声は薄暗い夜の森にぽつりと浮かぶ。

 初めての実戦演習が、終わりを告げた。




◇◆◇




「遅いんですけど」


 激しい戦闘を終えた僕たちは、レオンの車に乗せられて帰路についていた。

 旋鷲を倒したあと、枯渇した魔力で夜の森を抜けられるはずもなく、かれこれ二時間はあの場所で待機していた。

 時刻はもう八時を回っている。


 運転手はレオン。助手席にアイシャが座っており、後部座席には僕と眠りこけたルーシーが居た。


「いや、すまん。少し調べものをだな――」

「そういうのいいです」

「う……」


 詰めると、あっさりと引き下がった。


「何が“少し”よ」

「体感では三十分くらいだった」

 アイシャが舌打ちする。

 レオンは少し肩をすくめたものの、反省しているようには感じない。。


「最低ね」

「最低だな」

 二人の声がそろうと、車がぐいんとブレた。


「……まあ、なんだ」

 声を震わせたよそよそしい声。いかにも話題を変えたいって時のやつだ。


「昼間だったとはいえ、旋鷲を二人で仕留めたってのは大したもんだ」


 状況が状況なだけに、あまりうれしくない褒められ方。


「誰かさんが早く来てれば楽に倒せたんだけどな……」

 ボソッとそう口にすると、またもや車体が揺れた。


「あ、そうだ。地形ぶっ壊したんだって? 多分地主に怒られるぞ」

「え?」


 レオンの発言は、僕の中のいら立ちを全て焦りに変えた。


「地盤から落ちてるなら旋鷲のせいってことにも出来ないぞ」


 用意しかけた言い訳を先回りされた挙句、封じられてしまった。


「具体的にはどういったペナルティが……?」

「知らん。想像を絶するものかもしれん」


 反省文百枚を音読で提出とか、被害額請求されて足りない分×一時間土下座とか……。

 考えただけで恐ろしい。


「うわ、顔真っ青」


 ルームミラー越しにレオンが言う。

 つられてアイシャが笑う。


「もう着くぞ」

 レオンの言葉で窓の外を見る。

 照明に照らされた学生寮があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ