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3.聖女様らしいドレス

 わたくしは一人でこっそり屋敷を出た。


 街を自分の足で歩くなんて、すごく聖女様っぽいわ。


 民がどんな暮らしをしているのか、困っていることはないか、聖女様として知っておかないといけないわよね。


 屋敷の敷地から出るだけでも、だいぶ疲れたわ。


 王都の屋敷は、領地の屋敷ほど敷地が広くないんだけど……。


 それでも、ちょっと庭が広すぎると思うの……。


 屋敷の前の通りを歩いて、街があるはずの方向に歩いていく。


 石畳って硬いのね……。


 すぐに足が痛くなってきちゃったわ……。


 民は、いつもこんな硬い道を歩いているのね……。


 民の足は大丈夫なのかしら……。心配だわ……。


 仕立て屋がある通りはどこなのかしら……?


 いつもは馬車ですぐに着くんですもの、屋敷からそんなに遠くないはずよ。


 綿の服を着た平民の男女が、わたくしをチラチラ見てくる。


 やっぱりこの派手なドレスが聖女様っぽくないのよ。


 誰も「聖女様、こんにちは」なんて気さくに挨拶してくれないの。


 早くこの見た目をなんとかしないといけないわ……。


 わたくしがすごくがんばって歩いていったら、厳つい男たちがわたくしを取り囲んだ。


 男たちは、上は黒い袖なしの下着みたいなのを着て、下は茶色のトラウザーズをはいている。


 ニヤニヤ笑っていて、なんだか感じの悪い人たちだわ。


「お嬢様、家出かい?」


「駆け落ちか?」


「男とはどこで待ち合わせだよ?」


「俺らが連れていってやるぜ?」


 この男たちときたら、「ゲッヘッヘ」なんて笑うのよ!


 いかにも悪人って感じじゃない!


 わたくし……、たまに『頭が悪い』って言われるの。


 たしかにちょっと頭が悪いのかも……。


 いくら聖女様っぽいからって、お供の一人も連れないで出歩いたらいけなかったのよ。


 お姉様も「心配だわ。気を付けて」と何度も言いながら出かけていったじゃない。


 もっと気を付けないといけなかったのよ。


 まだ聖女様として、なんの使命も果たせていないわ!


 なにもしていないうちから、こんな危機に陥るなんて!


 わたくしには、まだ聖女様としての知名度がまったくない。


 しかも、お姉様みたいに、ピカッと光るタイプの聖女様でもない。


 剣を持って民衆を導くタイプの聖女様でもない。


 わたくしはピカッと光ったり、剣をふり回したりして、悪人たちを倒すことができない。


 だけど、自分にできることをするわ!


 わたくしは聖女様ですもの!


「誰か、助けて! 助けてー!」


 わたくしは力の限りに叫んだ。


 男たちが慌ててわたくしの口を手で塞ぎ、わたくしを引きずっていこうとした。


「なにをしている!」


 大きな声がして、男が一人、吹っ飛んでいった。


 人間って、あんなに飛んでいくのね! 初めて見たわ!


 男たちは次々に倒されていった。


 わたくしを捕まえていた男は、わたくしを突き飛ばして逃げていった。


 わたくしは青い騎士服を着た、逞しい男性に抱きとめられていた。


 男性を見上げると、とってもかっこいい方だった。あんまり素敵な方だから、しばらくぼうっと見つめてしまったわ。きらきらとした金髪に、アイスブルーの瞳。お顔がとっても整っていて、レオニード殿下よりずっとずっと王子様みたいよ!


「お怪我はありませんか、お嬢様」


「助けていただいて、ありがとうございます。どうかお名前をお教えくださいませ。改めてお礼に伺います」


 わたくしはドレスをつまんで、カーテシーというお辞儀をした。ちょっとグラグラしてしまったわ。カーテシーの練習なんて、つまらないから真面目にやってこなかったのよ。


 お姉様はカーテシーがとっても上手だって、王立学院で言われているわ。お姉様にお願いして、カーテシーを教えてもらわないと!


 カーテシーも上手にできない聖女様なんて、格好悪いわ!


「私は騎士団長です。この国と民を守るのが務め。お礼には及びません」


「まあ、ヴィクトル騎士団長ですの!」


「はい、ヴィクトル・キートパーです」


 王立学院にファンクラブなるものがある、大人気のお方だわ!


 ヴィクトル騎士団長は、お父様も、お祖父様も、騎士団長だったの。三人とも同じキートパー騎士団長になってしまうから、区別するためにお名前でヴィクトル騎士団長と呼ばれているのよ。


 ヴィクトル騎士団長のお母様は、国王陛下の病弱な妹だったはずよ! 王女殿下が筆頭公爵家に降嫁されたのよ!


 ヴィクトル騎士団長は二十代半ばなのに、剣の腕が凄いのよ。うんと年上の前の騎士団長や副団長より、ずーっと強いの。


 だから、国王陛下から頼まれて、ヴィクトル騎士団長は筆頭公爵家の嫡男なのに、騎士団長をやっているのよ。


 とーってもすごいお方なの!


 こんなに素敵で強いお方なのに、元婚約者から婚約破棄されたのよね。信じられないわ!


 元婚約者の侯爵令嬢は、王立学院で知り合った男爵令息と他国に逃げたのよ。


 元婚約者の方は、ヴィクトル騎士団長が素敵すぎて、一緒にいて落ち着かないと言っていたらしいわ。


 みんな元婚約者の方のお考えが、わからなくもないって言っていた。


 素敵すぎるというのも、いろいろ大変なのね……。


「どちらのお嬢様でしょうか?」


「わたくしはカーネリア侯爵家のニーナです」


「ああ、カーネリア侯爵家の……。お姉様はレオニード殿下の婚約者でしたよね。ニーナ嬢は、なぜこのようなところを、お一人で歩いておられるのですか?」


 ヴィクトル騎士団長は厳しいお顔をされた。


 わたくし、たしかに叱られるようなことをしでかしているわ……。


 こんなだから、『頭が悪い』って言われちゃうのよ……。


「わたくし、聖女様だったんです。だから、聖女様らしいドレスが欲しくて……。聖女様らしく歩いて買いに来たんです」


「は……? 今、なんて……?」


 ヴィクトル騎士団長は目をまん丸にしている。


 最近の聖女様は、歩いてお買い物には来ないのかしら……?


 わたくし、最近の聖女様事情には詳しくないのよね……。


「聖女様らしいドレスが欲しくて……。買いに来たんです」


「あ、ああ、わかりました。王立学院で劇をなさる、と……。そういうお話ですね」


 ヴィクトル騎士団長は、すごく納得したという空気を出してきた。


 たしかに『聖女様っぽい服がほしい』なんて、劇の衣装を買いに来たみたいな感じよね。


「いえ、あの……。わたくし、占い師から聖女様だと言われて……。だから、聖女様らしい服がほしいんです」


 わたくしはうつむいて、小さな声で言った。


 こんなに考えなしで、頭の悪いことをしている聖女様なんていないわよ……。


 きっと笑われちゃうわ……。


「占い師とは……、あの平民が話題にしている占い師ですか?」


「はい、そうです!」


 ヴィクトル騎士団長も、あの占い師を知っていたのね! あの占い師は、わたくしを聖女様だと見抜くだけあって、やっぱりすごく知名度が高いんだわ!


「ニーナ嬢……。今お召しになっているドレスも、とても素敵ですよ」


 ヴィクトル騎士団長は心配そうに褒めてくださった。


 どうしてそんなに心配そうなのかしら……?


「ニーナ嬢、なにかお悩みでもあるのですか?」


「えっ、お悩み? お悩みですか……?」


 あんまり頭が良くないことを相談したら、ヴィクトル騎士団長ならなんとかしてくれるかしら?


 騎士団長様で、筆頭公爵家の嫡男で、王女殿下の子供なら、わたくしの頭も良くしてくれる?


 ……そんなの無理よね。


 聖女様は、まわりを困らせるようなことは言わないわ。


「聖女様らしいドレスを買いたいんです」


 お買い物がしたいと言うくらいなら、ヴィクトル騎士団長だって、きっと困らないわよね。


「占い師に相談するような、お心を悩ませる事柄があるのかと思いましたが……」


「えっ、占い師って、お悩みを相談したりするんですか? わたくし、占い師の前に座ったら、『おお、これはすごい運命を背負っておられますね!』って褒められたんですけど……」


「占い師には、なにを訊きに行かれたのですか?」


 なんとなくヴィクトル騎士団長のお顔が引きつっている。


 どうなさったのかしら?


「なにを訊きにって……。平民の間ですごく話題になっている、とっても良く当たる占い師がいるって、王立学院で噂になっていたんです。だから、どんな人か見てみたくて」


「それで、占い師のところに行ったら、聖女様だと言われたと……?」


「そうなんです! わかってくださったんですね!」


 ヴィクトル騎士団長は頭も良いみたいだわ!


 わたくし、説明も要領を得ないと言われたりするんだけど……。


 こんなにすぐ理解してもらえるなんて、ヴィクトル騎士団長ってやっぱりすごいわ!


「それで、その気になって、形から入りたいと……?」


「聖女様は、こんなドレスは着ていないと思うんです……」


 形から入るって、どういう意味かしら? 武術では『基本の形』とかいうのがあるらしいって聞いたことがあるわ。聖女様にも『基本の形』があるのかしら?

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