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【拡散希望】  作者: 飴矢


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1日目

【拡散希望】■■市内の女子高校生が行方不明

 1☆月1G日の夕方頃を最後に行方が分かりません。

 ■■県立■北高校三年■郷■■

 しんrK15$(cm 痩せ型で制服に■■■■色のカーディガン   連絡先はこちら


 ◇――◇――◇――◇――◇

  

 スマートフォンのアラームが鳴っている。大丈夫、スヌーズにしているから、後三回までに起きれば遅刻しない。

 薄っすらと目を開ければ枕元には白い流行りのキャラクターのぬいぐるみ。壁側には雑に掛けたせいで、ハンガーからずれ落ちそうなオーバーサイズのカーディガン。

 いつもの……そう、いつもの朝。


 二度目のアラームで何とか起きて、まずは洗顔。目を覚まさないと。そして朝食……と思ったのに、お母さんがいない。お父さんはもう家を出ているのだろうけど。

「お母さん?」

 両親の寝室に向かうと閉め切ったカーテンで薄暗く、返事はない。

「どうしたの?」

 お母さんは、薄暗い部屋の中スマートフォンを眺めている。それで照らされた顔は別人のようで、これ以上近付くことを躊躇う。


 おかしい。何かがおかしい。これは本当に私のお母さんなのだろうか?

「ねぇ……返事、してよ」

 何の反応もないお母さんに混乱する。

 リビングからはテレビの音がする。何で?さっきまで誰もいなかった。


 恐る恐るリビングを覗くと……お父さんがいた。

「お父さん!お母さんが変なんだけど!」

 お父さんもまた、テーブルに置いた真っ暗な画面のスマートフォンを眺めている。

 テレビの音は聞こえていないのだろうか?いや、それよりもなぜ仕事に行ったはずのお父さんがまだ家にいるのだろうか?


 訳が分からない。ここを……家から出ないと。部屋着では外に出られないから、震える足のまま自室に向かって制服を着る。鞄にはもうテキトーに突っ込む。モバイルバッテリーとかぬいぐるみとか。最後にカーディガンを羽織って家を出る。

 外の景色は相変わらずで、甘い金木犀の香りに幾分かほっとする。

 変わらない町並みはまだ朝のしんとした冷たさがあって、慣れ親しんでいるのにどこか心細い。


 いつもの時間より二つは早い電車になりそうだけど、とりあえず学校へ行こう。

 駅までの道すがらも時間が違うといつもと違う制服の子も多い。出勤時間でもあるからスーツ姿の人も多い。

 改札にぬいぐるみと一体になったパスケースをかざして通り抜けると、少し落ち着いた。

 後ろでは会社員の人が改札のところでもたついている。……だっさ、チャージしとかないからだよ。


 いつもより少しだけ空いた車内で、座れはしないものの扉付近にもたれ掛かる。

 スマートフォンを取り出したところで、他校の子の話し声が聞こえる。

「ねぇ、この辺で行方不明になった子がいるんだってー」

「見た見た!沢北高の子ってなってたよね?」

 うちの高校じゃん……。

「この辺でそんなことあるなんて思わなかった」と話す彼女たちに内心同意しながら、検索をかけてみる。


「沢北高 行方不明」


「……え?」

 カーブに差し掛かったのか、電車が揺れた。

 手摺りを掴もうとしたら、手摺りはそのまま手が通り抜けて……手から滑り落ちるスマートフォン。バランスを崩して転ぶ私。

 転がった床に表示された画面は

 

 ❖──❖──❖──❖──❖

 

【拡散希望】■■市内の女子高校生が行方不明

 1☆月1G日の夕方頃を最後に行方が分かりません。

 ■■県立■北高校三年■郷■■

 しんrK16$(cm 痩せ型で制服に■■■■色のカーディガン   連絡先はこちら


 ❖──❖──❖──❖──❖

 

 おかしな文字化けをした、SNSの画面。

 添付された画像は、私の写真だった。親が持っている一番新しいであろう体育祭での姿。背格好が分かるようにだろうか……入学式での全身写真もある。


 何で?!やめて!


 さっき手摺りを、自分の手が通り抜けたこと。

 反応のなかったどこか不気味な両親。意味が、繋がっていく。


 呆然としたまま近くの人に踏まれる私のスマートフォンを見つめる。

 すっかり、靴の下にあるそれに手を伸ばす。硬質な質感は、さっきまで使っていたからか体温が移りほのかに温かい。

 画面に傷一つ入っていない。踏まれていたのに、何事もなく手元に戻ってきたそれ。


 私は行方不明じゃない。私はもう、死んでいるんだ。

 画面に映し出された私は、親から撮るよとスマートフォンを向けられたせいもあり恥ずかしげに笑っている。何も知らないかのように。見慣れた自分の顔なのに、自分じゃないみたいだ。

 行方不明となったのは、私が覚えている昨日の日付。

 ただ、画面に表示された今日の日付は……あれから七日が経っている。


 私は――私は、これからどうすればいい?


 ただただ呆然としたまま、惰性で高校の最寄駅で降りる。


 ❖──❖──❖──❖──❖

「地元ではないけれど拡散します。早く娘さんが見つかりますように……」

「P活でもしてるんじゃないの?こういう大人しそうなのに限ってやってる」

「何か事件や事故に巻き込まれたのではないでしょうか?心配ですね」

 ❖──❖──❖──❖──❖

 

 新しいコメントが、増えていく。

 引用回数も、増えていく。


 やめて。私を見ないで。

 

 何で?何でこんなふうに広められないといけないの?私が何か悪いことをした?

 高校へはもう行く気も失せて、駅のベンチでただぼんやりと画面を見つめる。

 お腹も空かないし、喉も渇かない。

 充電が切れてもモバイルバッテリーに接続する気も起きなくて、ただ糸が切れたかのように座るだけ。


 16時40分。

 頭への強い衝撃とともに視界は暗転した。



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