メリー・スクライドの独白
「俺が忘れさせてやるよ、忘れられないなら一緒に地獄に落ちてやる」
――あのセリフが始まりだった。
雨が窓を叩く音がうるさくて目が覚める。
隣には、いつも通り圭介が眠っている。
……あたしの神「椿圭介」。
こいつはわかっていないだろう
あたしを永久の絶望から救い出したことに。
地獄の底で泣き喚いていたあたしを見つけた男。
初めて圭介を見た時、不思議な感情が湧きおこった。一見女と見間違うほどの美しい顔に、無自覚だろうが凶悪な内包魔力。
ビッグに抑え付けられ喚いている様は滑稽なのに、何故か目を奪われた。
そしてこいつはあたしの悪夢を呼び覚ました。
気付かないようにしていたあたしの本心。
屑な父への愛。
その呪縛から逃れるきっかけをくれた男。
圭介が来て四ヵ月。
あたしは恋の奴隷に落ちた。
圭介が何かすれば気になり、圭介と話せば心拍数が上がり、圭介と体を交えれば幸せに包まれた。
あたしはイカれた人間だ。
感情のままに殺し、奪い、全てを壊してきた。
だから、これは罰だ。あたしはもう圭介なしで生きられない。
圭介の素性をキースが調べたことがある。
何もわからなかった。それで良かった。
何者でもいいのだ。
もし、こいつが何処かの隠密であたしが殺されても構わないとさえ思った。
雨がうるさい。圭介の顔を見ていたが、不意に圭介が微睡みから目を覚ます。あたしは静かに圭介の顔を撫でる。
「……どうしたんだ?メリー。寝ないのか?」
「圭介、あたしが恐いか?イカれてるあたしが恐いか?」
「なんだよ、いきなり?」
圭介は美しい顔が不機嫌に歪む。あたしの好きな表情。
「別に。圭介があたしを恐がろうと、あたしはあんたを離さない。わかったか?」
「ふっ、あはは」
「な、なにがおかしい!あたしから離れたら殺してやる!本気だぞ、圭介」
「メリー、そういう感情の時は『殺す』じゃなくて……『愛してる』って言うんだよ」
「愛?あたしには愛がわからない。愛ってなんだ?愛されたことがないから理解できないんだ。父親を殺した時も何の感情も浮かばなかった。あたしは壊れてる、あたしはいつかあんたも無感情に壊すかもしれない」
「そんな不安なら、何故俺に奴隷呪をかけない?簡単だろ?そうすれば一生おまえを裏切らない」
「わからない、それは何度も考えた。何故かする気になれなかった。ただ胸が痛いんだ」
「メリー、それってさ、何も複雑じゃない。その胸の痛みが愛なんだ」
「……これが愛?」
「そうさ。愛は痛くて苦しくて辛いんだ。相手が大事な程にな」
「だけどこんなの辛いじゃないか?失う恐怖が消えないんだ!不安なんだ!けい――」
突然のキス。
「言ったろ?一緒に地獄に落ちてやるって」
その時の彼の笑顔を一生忘れない。
あたしは神を信じない。
神はあたしを救ってくれなかった。
祈っても、縋っても助けてくれなかった。
あたしを救ったのは圭介だ。
くそったれな神じゃない。
彼こそがあたしの希望であり、全てなのだ。
あたしは神を信じない。
神がもし圭介を奪おうとするなら
あたしは悪魔になって彼を守る。




