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脳タリンマイダーリン

朝の日差しが眩しい。久しぶりに深い眠りについた気がする。

 目を覚ますと、隣には当たり前のように女がいる。

 ん? 耳が少し長い気がする。気のせいかな?

 女が寝返りをうつ。

「う……ん……」

 その美しすぎる顔を見た俺は青ざめた。

 ――夢じゃなかったんかい、ワレ。


「キース! 今日から圭介をあんたの部下につける。仕事のイロハを教えてやんな」

「御意」

「圭介。あ、あんたは毎日仕事が終わったらあたしに報告にくること! わかったかい?」

「お、おう」

 顔を赤くしながらチラチラ俺を見るご主人様をみて思う。デレるの早くね? まあいいけど、とりあえず危機は脱したかな?

 やっぱり昨日の抱きながらパパだよ攻撃はやりすぎだったなー、過呼吸起こしながら感じてたもんな。

 まあ、このメンヘラメリーはいつでも俺を殺せる力と立場があることを忘れてはならないよな。扱いには細心の注意が必要だよな。


 俺はいま洋館の庭を掃除している。隣で無感情に作業をする優男をみる。

 ……ムム、まあまあイケメンじゃねえか。まあ俺の三枚落ちではあるが。

「キース!……キースって呼んでいいんだよな?」

「ああ」

「いや、なんかさメリーとは付き合い長いのか?」

「メリー様が来た時、私は彼女の面倒を見ていた。何者をも受け付けない瞳をしていた。彼女はあっという間に強くなり、いまやこの奴隷館のトップに上り詰めた」

「しかし昨日おまえがきてからのメリー様の変わりように驚いている。何があったかは聞くまい。それよりメリー様の変化は好ましいように思う。何より今朝入荷した男の奴隷を殺さなかった。椿、感謝する」

「自分のため100パーだけど、まあいいや。でもキースも男じゃん? キースは大丈夫なんだな、メリーは」

「私は女だ。ちん○ついていない」

「あ、そう。ちん○とか普通に言う感じね」

 やっぱりこの世界は変だ。だが死にたくはない。まずはこの世界の安全を確保することに全力だすしかないな、ふぅ。

 キースについて回り一通り仕事をこなす。

 仕事はただの人身売買と侮るなかれ、なかなかに近代的な中身だ。人間や獣人、動物、魔物に至るまで多種多様な商品を扱う。仕入値と売価のバランスを取り利益を出す。扱ってるのが生き物だということに吐きそうになるが、商品であることを割り切らなくてはならない。はあ、もういや。

 奴隷なんて隙みて逃げりゃ終わりじゃん。なんでこの商売成立してんの?

 素朴な疑問をメリーに投げかけたことがある。何故かメリーは裸で息が荒い時にな(笑)。

 奴隷にはある呪いをかける。行動を極端に制限する呪いらしい。主人に反抗的な行動が出来ないよう魂に刻み込むそうだ。

 じゃあ、俺がその呪いを覚えてみんなにかければ王様じゃん! とか言うとメリーは呆れたように話し始めた。呪術師は特殊な職業らしく誰でもなれるわけじゃないらしい。呪術師自身にも多数の制約があるそうだ。そりゃそうか。



 そんなこんなで俺がこの世界に来てから一〇日が過ぎた。束の間の平穏をぶち壊すようにあの事件が起きたんだ。

 くそみたいな大雨の日だった。

 いつものようにメリーの部屋を訪ねたんだ。

 ドアを開けた瞬間、むせ返るような血の匂いがした。

 悪い予感一〇〇パー。中からはクチャクチャと音がする。

「メリー!」

 勇気を振り絞りドアを開けると、ぐちゃぐちゃで原型を留めていない男の死体があった。メリーは一心不乱に動かない死体を殴り続けている。笑いながら――

「メリー! おい! なにしてる? 死んでるだろ!」

 血まみれの彼女はやっと俺に気付き微笑む。恐ろしいほどの美しい顔で。

「圭介。今日はもうあがりか? 早いじゃないか。これは今日入った奴隷なんだ。あたしの父親だった。あたしには圭介がいるからいらないなって思って、ちん○握りつぶしたあと遊んでたんだよ。圭介もやる?」

「いや、俺は……いい……」

「そう? じゃあ風呂だ! 一緒に入ろう! キース! ゴミ片付けておいて」

「あ、ああ」

 表面上冷静に保つ。取り乱せば殺されると本能が叫ぶ。

 ここ数日の平穏で麻痺していた感覚。

 これは恐怖だ。

 地獄の釜は開いたままだった。

 俺はいま地獄にいるのだ。


「すごいよ! 圭介!! もっと! もっとして」

 俺の上で喘ぐメリーを無感情に見つめる。

 俺は何も考えずに腰を振る。振り続ける。

 何も考えたくない。

 メリーを恐れる気持ちと愛しい気持ちが混ざり合い、感情が爆発しそうになる。

 その感情から逃げるように今日も彼女を抱く。

 ――あぁ、なんでこんなことになっちまったんだ。


――三ヶ月後


「椿、奴隷の仕入れに行く。留守を頼むぞ」

 昼飯後の休憩中にキースが声をかけてきた。

「おう、キース、帰りにあれ買ってきてくれよ! あれ、えーと、ロイジェンダーのステーキ!」

「ふっ、椿はロイジェンダーが好きだな。わかったよ」

 最近はむっつりキースとも軽口で会話出来るようにもなった。ちなみにロイジェンダーとはこちらの世界特有の動物の名前だ。牛に近い味がして気に入っている。

 今日は週に一度の奴隷セリの日だ。奴隷売買にはいくつかルールが存在する。街に一軒しか営業許可が下りないことや、専属の呪術師がいること、そして貴族連中に太いパイプがあること等々たくさんだ。もちろんだが、我らがご主人様はそんなことはやってない。

 全ての業務をキースがこなしてるわけだ。

 ご主人様のお仕事はというと――

「てめえらぁ! 誰に向かって臭え口開いてんだ! くそが! くそったれが! ちん○だせ! 潰してやっからチン○だせって言ってんだよ!」

 主に調教、暴力、縄張り争い等々――

 はぁ、掃除しよ。

――その夜

 風呂上がりいつものようにメリーの部屋に行く。ドアノブを回そうとした時、メリーとキースの声が室内から聞こえ、動きを止める。

「ずいぶん仕入れ量が減ってるな、キース」

「はい。どうやらディズガイアの連中が戦争に向けた準備を始めたようです。セリに出る奴隷の数が例月の半分程になってます」

「ちっ、戦争奴隷か」

「それよりも直近の問題がごさいます」

「なんだ?」

「奴隷解放派のアービガルド第三王女が奴隷制度撤廃に本腰を入れるそうです」

「くそったれのアバズレ女が! どれだけあたしらを利用した口で喋りやがる?!」

「奴隷推進派の貴族も急速に取り込まれてるそうです。このままではアービガルド奴隷館は遠からず……」

「……策は?」

「ございます。第三王女の側近に我らに息の掛かった者を潜伏させます」

「……で?」

「王女の動きを報告させ、貴族取込みを妨害。願わくば弱みを握り脅します」

「そんなうまくいくかよ」

「適任が一人」

 ガチャー

「おわっ!」

 急にドアが開き、耳をドアに当てて盗み聞きしてた俺はみっともなく室内に倒れこむ。

 顔を上げるとキースの冷めた目が俺を貫く。

「椿 圭介を潜入させます」

「だ、だめだ! 圭介はここから出さない」

「しかし、第三王女は見目麗しい人間を好みます。対人能力、イレギュラーに対しての適応能力、我らへの忠誠心。考えるほど適任です」

「却下だ! 下がれキース」

「御意」

――

 いつものように激しく絡み合った後、メリーは珍しく甘えるようにじゃれついてきた。

「圭介」「ん?」

「おまえはあたしの物だ」「ああ」

「あたしはどうしたらいい?」

「メリーはどうしたいんだ?」

「あたしはおまえと離れたくない」

「俺もだよ、メリー」

「だが、この奴隷館はあたしの宝物だ」

「知ってる」

「……一ヶ月、一ヶ月で終わらせて帰ってこい」

「了解、ボス」

 き、き、き、キター! キター! アタックチャンス! 逃亡アタックチャー〜ンス!

 今まで猫被ってきた甲斐があったぜ! くそったれが! メリーのことは好きではあるが、さすがにメンヘラレベルがカンストしてる。ミスを犯していつ殺されるかわからない恐怖は勘弁だ。

 しかも潜入先が王女様の側近だあ? 上等! 逃亡先のパイプ作りには最適やないかーい。適当な女こまして潜伏先を確保やでー。

「浮気したら殺すぞ、わかってるよな?」

「バ、バカ当たり前だろ。愛してるメリー」

 今夜の俺は機嫌がいい。高速ドリルクン○に逆松葉崩○までくりだしちまったぜ。ふぅ。



「新しい側近ですって? 推薦者は? バラン伯爵? 強いの? はあ? 戦えない? じゃあ外交は? はあ? 特には? はあ? はああ?」

 イラつくわー、クソビッチが! てめえいいとこの嬢ちゃんだか知らんけど調子のんなや! あーん? コラ。

「クリス王女。確かに私は戦えないし、外交に強いカードがあるわけでもありません。しかしながら、王女様に有益な情報を多数持っております」

「ほう、言うじゃない? その情報は何?」

「アービガルド奴隷館の秘密について」

 瞬間、クリス王女の纏う空気が変わった。


「その者を拘束せよ!」


 あ、あれー?

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