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悪魔を憐れむ唄

「は! あははは! やっと本気〜? じらしてくれちゃってさあ! 悪いんだ、お兄ちゃん」


湧き上がる覚えのない感情を抑えながら、ガーネットは呟く。


「ロキなんて時代遅れの召喚従がいまさら――」


ズガアアアアア


「ッッ! いきなり? 余裕ないじゃん」


爆音と共に、圭介の体が黒い閃光となって飛び出す。

空気が焼ける。足元の石畳が爆ぜ、瓦礫が雨のように降る。

黒い炎を纏った拳が、音速を超えてガーネットの頬をかすめた。


「速っ……!? 見えない!」


ガーネットが咄嗟に水の膜を展開。

しかし、拳が触れた瞬間、その水壁ごと空間が歪む。


ドンッ!!


圧縮された衝撃波が周囲の建物を吹き飛ばす。

ガーネットの体が後方へ弾き飛ばされた。

空中で体勢を立て直すと同時に、怒気を孕んだ瞳で圭介を見据える。


「まるで獣じゃん……本当に人間?!」


地を蹴る音が二度響く。

次の瞬間、圭介は視界から消えていた。


「どこ――ッ!?」


後方。

風を裂く音とともに、圭介の掌底が背中を狙う。

その瞬間、ガーネットは反射的に詠唱を省いた。


「アクア・シールド!」


水の盾が炸裂。だが、衝突と同時に砕け散る。

彼女の防御を貫き、黒い残光が頬を掠めた。


「クソッ……本気出す!」


腕を広げると、無数の水の刃が渦を巻く。

そのすべてが圭介を狙い、一斉に放たれた。

ヒュン! ヒュン! ヒュン!

だが、圭介は動かない。

ただ、静かに左手を前に突き出す。


――カチリ。


黒い炎が螺旋を描き、次の瞬間、世界が爆ぜた。


ドォォン!!

轟音。

炎と水がぶつかり合い、夜空を裂くような閃光が走る。

その衝撃で、建物の屋根が波のように吹き飛んだ。

ガーネットが必死に耐えながら、炎の中の男を睨む。

そこに立つ圭介は、もはや人間の形をしているとは思えなかった。

黒い炎の翼が背から伸び、瞳は紅蓮に染まっている。

静かに一歩踏み出すたび、地面が焼け落ちた。


「な、なんなのよあれ……!? 魔力の密度が……化け物……!」


恐怖が、喉を締めつける。

体が震える。思考が追いつかない。

“戦いの最中に恐怖を覚える”――それがどれほど屈辱的なことか、彼女自身が一番理解していた。


「クソッ! アクアハンマーッ!!」


水の鉄槌が唸りを上げ、炎を貫く。

しかし、圭介は避けない。

拳で、それを打ち砕いた。

「なっ!? 嘘でしょ!?」

空気が弾け、爆音とともにガーネットの体が吹き飛ぶ。

地面を転がり、砂煙の中で立ち上がると、彼女の唇が震えていた。


「……なんで……こいつ、このヤロウ!!!」


「こんの〜!! アクアハンマー!」


ガーネットが無詠唱で繰り出した水の鉄槌が圭介を吹き飛ばす。距離ができると、すかさず最大火力の詠唱に入る。


「いまだ! いましかない! あれを終わらせなくては! あたしが壊される!」


「水の精霊リヴァイアサン! 平伏せ大地よ! 全ての魂を無に還せ! ヴィーナス、リオン、サビーダ――」


「ダイダルウェイーッッ!」


「止まれ! ガーネット!」


突然、詠唱が中断される。現れたのは、真っ白なローブに身を包んだ中年の男だった。


「な、なによ! いまいいとこだったのよ! ヴァイス!」


「ガーネット、こんな街中で極大魔法を放てばどうなるか予想はつくだろう? 殿下はアービガルドの統治を目的とされている。統べるべき地を失くしてどうするつもりだ?」


「それに、あれに効くとも思えん」


ガーネットが対峙していた青年を見る。


「……あ、あれは」


圭介の周りには無数の光の槍が浮かんでいる。


「神槍グングニル?!しかも同時に何本も発現させてんのよ」


「どうやら、藪をつついて鬼を出したな。何にせよ、引き際だ」


「な!? わ、わかったわよ」


圭介の無感情な顔を見るヴァイス。美しい彫刻のようだ。余計に恐怖を呼び起こす。


「少年、無礼な登場を詫びよう。我の名はヴァイス。ディズガイア帝国の筆頭召喚士だ」


無言で佇む圭介を見るヴァイス。


「開戦前に襲撃したことはディズガイアを代表して詫びよう。ここはこれで抑えてくれ」


そう言って、液体の入った瓶を圭介に投げる。

無言で受け取る圭介。


「国宝『エリクサー』。どんな傷も例外なく治す。その娘、まだ仮死状態だ。あるいはまだ間に合うかもしれん」


――間に合う? 治る? キース! その言葉を聞き、我に返る。さっきまでの現象が霧散する。

俺は急いでキースに駆け寄る。息をしていない。


「おい! どうすんだ? 飲ませるのか!? かけるのか!?」


振り返ると、誰もいなかった。


「くそったれ! 説明してから帰りやがれ! ばかやろうが!」


スッ。

狼狽している俺から瓶を取り上げたのは、メリーだった。

「どけ、圭介」

「あ、ああ。エリクサーとかいう薬らしい! 治るんだよな? メリー」

「本物ならな」

躊躇せず自ら薬を口に含むメリー。体が光り輝く。

「どうやらビンゴだ」

残りを口に含み、口移しでキースに飲ませるメリー。キースの体が光り輝き、欠損箇所が復元していく。

「あ、あああ……」

目の前の奇跡に言葉を失う。脈を確かめるメリー。

「心臓が動き出した。もう大丈夫だ。大量に血を失っているからすぐには起きないだろうがな」

「ま、まじか? よ、よかった……」

心底ホッとする。同時に涙が溢れる。それを見てメリーが俺をそっと抱きしめる。

「悪かったな。あぶない目に合わせた」

いつもの匂いに安心する。

「いや、いいんだ。みんな生きてるし」

「ああ、だが派手にやられたな。あたしの城をよくも」

メリーが怒りで顔を歪める。奴隷館はメリーの宝物だ。その怒りたるや想像を絶する。

「圭介、頼みがある」

「ん? なんだ?」

「奴隷館がなくなった今、この国にいてもしょうがない。どうせ戦争が終われば再度奴隷法が撤廃されるだろう。なら、この混乱に乗じて別の国に亡命する。もちろんガーネットのガキにはケジメをつけてやるが」

いつも感情的なメリーの、冷静な分析に驚く。


「わ、わかった。頼みって何だよ?」


「第三王女クリスの首を取ってきてくれ」



「はい? 何言ってんの?」


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