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漆黒の夜はロリメンヘラとダンスを

カウントダウン 3


「てめえ!ぶつかっといて詫びなしか?コラァ」


目の前には『北斗の拳』の雑魚キャラみたいな顔したモヒカン野郎が喚いている。

久しぶりの一人の時間なんだけどなー。

今日はキースに代わり、俺が買い出しに出ていた。ついでに装備品を見てこいとの通達あり。

なんにせよ、せっかくの一人の時間だ!ワクワクしながら歩いて三分でこの有様。トラブル体質しゅごいのー、とか言ってる場合じゃないか。さっさと謝るか、はぁ。

「わるかったな、アービガルド奴隷館の使いでな、急いでるんだ」

「あ、アービガルド奴隷館だと?う、嘘つくんじゃねえ!キースがいねえじゃねえか」

うるせえなモヒカン。

「キースが都合悪くてね。代理さ。わかったか?わかったなら通してくれ」

「ま、まちやがれ!どうせ嘘だ!ぶっ殺す!」

あ?ふ、ふざけんな!こんな聖飢魔IIに勝てるわけないやろがい!に、逃げないと。

俺はやぶれかぶれにモヒカンを突き飛ばす。

ドン!!!

「ぅぎゃあああー〜〜・・」

ドカァアン!!

まるでボールのように壁に飛んでいくモヒカン。

あ、忘れてた。わし、まあまあ強くなったんやった。

ザワザワと周りから注目を浴びている。

あかん!逃げるべし!

俺は消えるような速度でその場から逃げ出した。

はあはあ、おっ!武器屋発見。

バタン!

「いらっしゃいにゃ!今日は何の装備をご要望にゃ?」

お、おお!初めての猫耳だ。獣人は奴隷館で見飽きているが、猫耳はレアらしく見たことなかったんだよなー。ショートカットの可愛い顔をしている。

「ああ、持ち運びやすい短剣を探してるんだ、予算はいくらでも」

「いくらでもにゃ?龍の牙で作ったこれはどうにゃ?それともバーゲンハイル製の……」

二時間後。

「だ、だめにゃあ、もう限界にゃああああ」

ーバタン

ふぅ、何故か最高級の展示品の短剣を格安で譲ってもらったぞ。ラッキーだな。

さて、そろそろ帰るか!ん?

俺が武器屋を出て帰り道を歩いていると、一層賑やかな店を発見した。

「おっ?そこのかっこいいお兄さーん!一杯飲んでいかない?おいしいおつまみもたくさんあるよー」

――あ?うるせえな。帰るんだよ!

二時間後。

「ひゃひゃひゃ!おめーら、今日は全部俺の奢りだ!店の酒飲み尽くせ!」



――きゃくさん!おきゃくさん!もう閉店ですよ!

うるさいなあ、眠いんだよーって、やばい!

ガバ!


「いま何時?お姉さん」

「もう夜の十二時です。大丈夫ですか?」

やっばい!日付け変わる前に帰ってこないとぶっ殺すって言われたんだった!あかん、あかーん!

当然、めちゃめちゃ怒られた。ちょっと漏らしちまったのは内緒な、ふぅ。



「圭介、暫く外出禁止だからな」

「はい、すいません」



この後、めちゃくちゃセックスした(笑)。

これがアービガルドでの最後の楽しかった記憶だ。

こっちに来て初めて楽しいと思えた。

これが続くなら悪くないよな?

うん、悪くない。

そう、もう二度と戻れない幸せな夢の日。



翌日。


アービガルド奴隷館はディズガイア王国の特級召喚士 ガーネットの強襲により崩壊する。

惨状の後は酷い有様だった。

夥しい数の奴隷の死体。

燃え盛る屋敷。

地獄が一面に広がっていた。

アービガルド調査機関のアービガルド奴隷館襲撃事件最終報告の最後の一文はこう記されている。

生存者ゼロ


カウントダウン 2


「あは!あははは!これがアービガルド最強レベルの召喚士?全然弱いじゃん!つまんない!」

目の前にはたくさんの動かぬ骸。

恐らくは奴隷館の戦争奴隷たちだろう。

絶命しているのは一目でわかる。なんでかって?

全ての死体の首から上がないからだろ。


「あは!あははは」


その上でダンスを踊る可憐な少女がいる。

年の頃は十歳くらいか?

金髪ロングのツインテール。

愛らしいという表現がぴったりのつぶらな瞳。

右目には眼帯。

目の前の悪夢の名前。


「最強の召喚士 リヴァイアサンのガーネット」


1時間前ー


静かな夜だ。

珍しくメリーと別々に寝ることになり、一人の時間だ。

しかし、戦争か、嫌すぎるぜ。確かに今の俺はメリーやクリスといった化け物連中にかち合わなきゃ死なない程度には強いとは思う。

だが俺はそんな殺伐なのは嫌なんだ。

殺すとか殺されるとか無縁の世界の人間なんだ。

……泣いてまうわ!人生ハードすぎるだろ、くそったれ!モテない奴らは口を揃えて言う。「お前の人生が羨ましい」「あんな美人とやれるなら死んでもいいだの」「顔がそんなに良けりゃ苦労しないだろ」だの。ふざけんじゃねえよ。対価がこれじゃ割りにあわねえぜ!

あっ、泣く、泣いちゃうー。

しっかし、なんだかんだで慣れるもんだ。このイカれた世界に来て四ヵ月くらいか?

異常な事態に適応できるのは俺は俺で異常だからだわなー、はぁ。

イラつくぜ、キースんとこでもいくかな。



ズガアアアアアアアア!!




突然の爆音、な、な、なんだぁ?

バタン!


「椿!無事か?」


「はやっ!キース、何があったんだ?」


「わからない。とにかくメリー様と合流する、ついてこい椿!」


走る走る、広大な屋敷の廊下を走る。所々から火が立ち上り、窓から見える奴隷収容所は跡形もなく崩れていた。さっきの音はあれか?


――ちくしょう!まだ開戦してないんじゃないんかよ!?ま、まさかクリス王女か?いや、戦争前に馬鹿な真似するわけがない!


「キース!ディズガイアなのか?」


「恐らく!とんでもない水の魔力を感じた!考えたくはないがガーネットかもしれん!最高戦力が開戦前に突撃してくるとは思えんが」


なんだかんだでメリーの部屋に着く。


「メリー!」


ドアを蹴破るように開ける。

なっ!? なんだこりゃ?

メリーの部屋はもぬけの殻になっている。壁にはどでかい穴が空いている。

穴から下を見るとそこには。


「メリーー!!」


たくさんの骸と、壁にもたれ掛かって動かないメリー、そして小さな少女がいた。


「メリー!メリー、大丈夫か?おい!」


「く、くそったれが。に、逃げろ圭介」


メリーは生きている。血だらけで息も絶え絶えだが。


「キース!メリーは生きてる、一緒に逃げよう」


しかしキースは少女と正対したきり動かない、いや、動けないのか?


「椿、だめだ、逃げられない、こいつは違いすぎる」


「あは!あなた知ってる、奴隷館の懐刀、キース・デジーでしょ?そっちのお兄さんはー!!」


「な、なんだ?」


少女が俺を見て目を見開く。


「お兄さん、凄いね?あたしと一緒だ?混じってきてる。でもまだ混じり始めだね。ふふ、おもしろーい」


また、混じってるかよ。純正ジャパニーズなめんなガキ!


「あんた、ガーネットかい?」


「そうよ、ディズガイアのガーネット・フロー。リヴァイアサンと言った方がわかりやすい?次はあたしからしつもーん!お兄さん、何の召喚従を使役してるの?」


「しゃべるな!椿!――がっ」


吹き飛ぶキース。外壁に叩きつけられる。


「キース!!」


「死んでないわ、手加減してるから♡で?どうなのお兄さん」


あのキースが一撃かよ?!反撃スイッチオフ!俺は犬です。マイマスター!


「ロキ、邪神ロキだ。発現したのは少し前だ」


「!ロキ!すっごいじゃんお兄さん!あたしお兄さん気に入ったわ!」


おっ?助かる?この流れ乗るしかない。


「ガーネット!俺はどうなってもいい!なんなら攫っても構わない!だからこれ以上ふたりには――」


「今日は味見のつもりだったけど、盛り上がってきたし、皆殺しにしちゃお♡」


あっかーーーーん!


カウントダウン 1


あかんあかんあかんでしかし!メリーやキースが敵わなかった奴にワシが勝てるわけないやん?考えろ!考えろ!考え……

「じゃ!やろっか!お兄ちゃん」

少女、ガーネットがにっこり笑う。

「ま、まてよ!ガーネット!俺はまだ戦いに慣れていないんだ、到底お前を満足させられな――うわっ」

高速のスピードで俺との間合いを詰めるガーネット。

電光石火の踏み込みであっという間に懐へ入る。同時に飛んでくる中段蹴り。

咄嗟にガードしようと腕を腹へ。

バギッ!

「がぁ!」

衝撃が身体中を貫く。ガード後吹き飛ばされる俺。痛みを感じ腕を見る。ありえない方向に向いている右手を。

「ぐぅううぅ、いてぇんだよ、くそったれが」

「あれ?お兄ちゃん、そんなもの?ロキだしなよー」

「だ、出せって言われたって簡単に出来るかよ!まだ修行中なんだよ」

そう、俺は固有魔法を発現させられてないんだ。神速スレイプニルの習得もまだ途中だ。

途端にガーネットの顔が無表情に変わる。俺への興味をなくしていくように。

「なーんだ。使いこなせないんじゃ意味ないじゃん。うーん。まっ!いっか!使えるようになるまで待つのもだるいし、バイバイしよっか?お兄ちゃん」

ガーネットが右手を上げると、上空に鋭い水の槍が浮かぶ。


「これね、水龍神の槍っていう技なんだ!その辺の金属なんて紙みたいに貫いちゃうの!あたし、固有魔法滅多に出さないんだよー!良かったら自慢してね、あの世で」


フッと静かな動作で手を下すガーネット。

唸りを上げ、俺に迫る水の槍。

全てがスローモーションに見える。

体は動かないのか、動けないのか。金縛りのようだ。

あれは死だ。俺の死。

全部終わるのか、これで。

覚悟を決めて目を閉じる。今まで好き勝手に生きてきた。変な運命に巻き込まれたけど、それも終わりだ。



さよなら。メリー、キース



ブシュウゥゥ!!


……

衝撃が来ない。

もう死んだのか?俺。でも痛みを感じないぞ?

不審に思い目をそっと開ける。そこには。

俺の前で手を広げ仁王立ちしているキースがいた。


「キース!!お、おまえなにしてんだよ!」


キースは槍に腹を貫かれ、腸が溢れている。


「ぶ、無事か?つ……ばき。ま、魔力で強引に軌道を変えたから、どうなる……か」


呟くと同時に倒れるキースを慌てて受け止める。


「な、なにやってんだよ!キース!ばかやろう!ばかやろうが!」


俺は吹き出る血を止めようと手で傷を抑える。くそが!とまれ!とまれよ!


「つ……ば……き。メリー様を……連れて逃げろ」


「うるせえ!喋んな!喋ったら殺すぞ!黙ってろ!」

ああ、血が、腸が、どうしたらいいんだよ!!!

「メリー!!キースが!キースが死んじまう!」

メリーを見る。どうやら意識を失っているようだ。

「くそ!くそ!おい!ロキ!なんか治す魔法ないのかよ!おい!ふざけんなよ!答えろ!」

当然、何も起きない。これは現実なのだ。

目に見えて呼吸が浅くなるキース。

生気を失っていく。

「キース!おい!キース!!」


「つ、ばき、いや……圭介。どうか……生きて……」


最後に浮かべた笑顔は。

結婚を俺に迫る時と同じ、少し寂しげで美しい顔だった。

「……キース」

死んだ、キースが死んだ。俺のせいで死んだ。

「お兄ちゃん。やっすい三文芝居終わったあ?一応待ってあげたんだよ?ねえ?えらい?ガーネットちゃんえらい?」

別にキースを愛してたわけじゃない。死にたくないから適当に相手してただけだ。


「お兄ちゃん、次はお兄ちゃんだよー?」


馬鹿な女だ。遊ばれてるのも知らないで、何が愛してるだ。家族だ。救いようがない。疲れるぜ。


「あは!あはは!泣いてるんだ?お兄ちゃん!さみしくないよー!キースお姉ちゃんとはすぐ会えるから!」


キース、おまえが命をかけて守ったのはただのクズだ。まったくの無駄だぜ。俺に、俺なんかに何の価値がある?おまえが命を投げ出す価値なんざどこにある?わかんねえよ、キース。




あたしの前には亡骸を抱き、泣き続ける哀れな男がいる。

邪神ロキの召喚士とか言うから期待したのにさ?ちぇ!

まあ、いいや、さっさと終わらせて帰ろっと。まったく、殿下もアービガルド如きに何をびびってるんだか?あたしがいれば負けるわけないのに!


「じゃあね!お兄ちゃん。余興にしては楽しかったよ!バイバイ」


あたしは再度死の槍を彼に向けて放つ。いつもと同じ結末だ。


いつもと同じ結末のはずだった。


カウントダウン 0


ドン!!!


「え?」


水龍神の槍が突然消えた。

いや、蒸発した?


「な、なに?」


いつの間にか先程の男は立ち上がり、あたしを見ている。

悪魔のような無表情さで。


その身は黒い炎で包まれていた。

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