椿の花は首から落ちる
よろしくお願いします。
「! なんで!? なんでわたしじゃだめなの?……わたしじゃ瑞樹さんの代わりになれない?」
目の前でぼろぼろ泣く彼女を見て、俺は思った。
――あかん、強烈うん○したい。
俺の名前は椿 圭介。
いま、俺の前にはこの世の終わりの如く号泣しまくりの女性がいる。雨の中、二四歳にもなる女が恥も外聞もなく泣きじゃくる姿は、ある意味滑稽で笑いそうになる。
いや、こいつは、こういう女達は、そんな劇場型のシチュエーションが好きなのだ。この雨も、男に遊ばれて振られるのも、人目を気にせず泣きまくる自分も、自分を飾る最上の舞台装置なのさ。明日には菓子食いながらTinderにログインしてるだろう。
はあ……うんこも漏れそうだし、そろそろ終わらせるか。
「みき……ごめんな。悪いのは俺だよ」
俺は自慢の美形フェイスを悲痛な形にセットし、少しだけ涙を潤ませながら彼女を見つめている。
もっとも内心では……――あーあ、みきちゃん、泣きすぎてメイク崩れてるよ。かわいい顔が台無しだよ。つーか、いま何時かなー。さっきホテル出たのが二三時だからもうすぐてっぺんまわるじゃん!
勘弁してよみきちゃん、オレ明日はやいんだよー、つかうん○したいわ。やっぱさっきしてから出りゃ良かった!
でもさー、ラブホのトイレって壁薄いんだよ! この世紀のイケメン男子、神が創りたもうた最後の奇跡、椿 圭介様にとって、うん○の音を他人に聞かれるようなことがあってはならんのだ。
「……ぅう……けいすけぇ……いきなり別れようなんて酷いよ!さっきまであんなに優しかったのに!愛してるって言ったよね?何度も!なんどもなんどもっ!!」
空気詠み人知らずのみきちゃんの声で我にかえる。
ふぅ、パターンB発動。
「みき、俺さ、ずっと不安だったんだ。おまえをあいつの代わりにしてるんじゃないかって。この幸せは嘘なんじゃないかって」
「おまえと過ごしてると楽しいよ、幸せだよ、でも違うんだ。どこかであいつとおまえを重ねてるんだ。結局俺はいつまでもあいつを忘れられないんだ!瑞樹を忘れられないんだよ!」
「……でも瑞樹さんはもういないんでしょ?圭介を置いて死んじゃったんでしょ!」
「そんなことわかってんだよ!!」
「圭介、私が支えるから、圭介のためならなんでも出来るよ。だから別れるなんて――」
「みき!……離れるしかないんだ。お互いが前に進むために」
――なんじゃそりゃ(笑)。自分でわろてまうわ支離滅裂超理論。
「圭介……」
みきが涙を流しながらも俺をみつめる。
ふむ、あと一息。
「離れて冷静に二人の関係を見つめ直したいんだ。時間が経って、それでもまだお互いを大事に想っていたら……またみきに告白するよ、今度は瑞樹の代わりじゃなく、みき自身にさ」
「……圭介」
「いけよ、みき。おまえの後ろ姿、見えなくなるまで見てるからさ」
「……ばーか、知らないよ?わたしすぐまたかっこいい彼氏つくるよ?逃した魚は大きいよ?……ほんとに……しらなぃんだからね」
突然みきが抱きついてきて、触れるだけの軽いキスをしてきた。別れのチスゲト(笑)。
「バイバイ、圭介」
「バイバイ、みき」
振り向き彼女が歩き出す。その足取りは弱々しくも、しっかりとした女の強さを感じさせるものだった。
彼女が曲がり角を曲がって完全に見えなくなったところで、一言呟く。
「みき、瑞樹って誰やねん」
――俺はクズだ。
俺にとって女は暇つぶしのゲームソフトみたいなもんだ。ハードル高い女程攻略したくなる。クリアしたら飽きて捨てる。
自分でも何でこんなことしてんのかわけわからん。昔からそうなんだが、女に本気になれない。だけど女は好きだ。それは愛だ。真実でなくても愛だ。
適当に働き、適当に遊び、適当に生きてやるさ。
それは、俺にとってありふれた一日のはずだった。
起きて、働いて、セックスして、寝る。見慣れたルーティーン、変わらない日常。
グサッ。ブリッ。
「は?」
俺の腹からナイフが生えてる。衝撃でうん○漏れる。
目の前にはパーカーのフードを目深に被った女が立っている。
「圭介が悪いんだよ……唯が一番って言ったよね?唯、圭介のためになんでもしてあげたよね?お金だってたくさんあげたじゃない!わたしさ、圭介が浮気してもいつかわたしのとこに帰ってくるって――」
……うだうだしゃべるメンヘラ女の声はもう聞こえない。ああ、まあ自業自得だわな。
一応綺麗に別れてるつもりだったんだけどなー。まあいいよ。しかし納得いかないのはこの美しい俺様がうん○を漏らしながら死ぬという事実だ。
――神よ!頼む、せめてうん○ふかせてくれ!
暗転




