表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバードライブ計画  作者: lil jyo
第2幕 ホシデン
19/50

第19章 「灰脈の印(Ken: Background)」

 ――灰脈祠の扉が内へ沈み、冷えた空気が肺を洗った。

 外の御狩宣デスワラントの喧騒が、石の壁で薄皮みたいに遠くなる。


「二時間でここも露見する。先に片づけたい仕事がある」

 Kenは胸の内ポケットから灰誓護符を取り出した。火口紋の端に、細い爪痕のような裂け。

「護符が割れたままじゃ、民兵の追跡紋に引っかかる。灰脈の印を刻み直す」


 UIが震えた。


《Background Quest:灰脈の印(Ken) 》

目的:灰脈殿(Vein Shrine)で灰誓護符を再刻し、追跡紋を無効化

手順:灰幕儀(Ash Veil Rite)を完遂/三相(熱・冷・灰)の位相を整流

報酬:KenのTech Skill進化/パーティ隠蔽バフ/偽流抵抗↑

制限:御狩宣の追跡強化下(時限)


「隠蔽バフ、欲しい。Yo、今の私ら、赤点滅しまくりだから」

「俺が払う。……付いてきて」


 ***


 祠の下、灯のない回廊。

 床下で冷脈が低く唸り、壁面に古い灰紋が彫り込まれている。

 観測鈴の音が上でチリと鳴り、御狩宣の網が狭まる気配。


「Ken、灰誓ってさ……何で立てたの?」

 トレイが背を押さえながら問う。

「個人の好悪を外へ出さないためだ。火は熱で歪む。裁きに私情を混ぜない鎖が必要になる」

 Kenは言葉を選び、短く続ける。「……昔、姉が裁きに敗れた。俺は槍を持ちながら何も言わなかった。言えば燃えるからだ。――だからこそ、証拠で殴る術だけは磨いた」


「……ごめん、聞いた」

「言うのは任務外だ。だが、君らは俺の任務だ」

 Kenは前を向き、石段の最後を降りた。


 回廊が開け、地下の小堂に出る。

 円形の床に三相の盤――赤(熱)/青(冷)/灰(中性)。中央に古びた祭壇、上に灰誓護符を置く皿。


「回路解析は君。俺は灰紋で風味を整える。Guideは拍を合わせろ」

「任せろ」


 祭壇が低く起動し、盤の三色が薄光を帯びる。

 壁の溝からおきの温が滲み、天井の霜が落ちる。


《儀式開始:灰幕儀(Ash Veil Rite)》

条件:赤→灰→青を逆拍で同期/外乱(偽流)に合わせ補正

注意:Pain Sim(中)/失敗時、追跡紋が強化される恐れ


「偽流、来るよ」

 ヤエは風UIを切り、頬で気流を拾う。

 白線が指に落ち、回路解析:初段のNOT/AND/ORが鍵盤みたいに並ぶ。


「1(待)・2(赤)・3(待)・4(灰)/1(待)・2(青)――Now」

 ヤエの指が逆拍で鍵を打ち、Kenの灰紋が床に灯る。

 三相が合う瞬間、祭壇が低く鳴った。


 ――カン。

 空気が揺れ、偽流のノイズが横から差し込む。

 風向が反転、青が遅れ、赤が先走**る。


「画面切る。耳!」

 トレイが拍を刻む。「1・2・3・4……ズレを半拍に圧縮」

 ヤエはORに短絡を作り、ANDの遅延を灰で中和。

 Kenの指が印を重ね、床の熱が一度落**ちる。


《補正:偽流偏位→灰軸補正(小)》

《進行率:66%》


「最後、灰を軸のまま赤青を同時」

「同時はYo、嫌い」

「好き嫌いは後。今、同時」


 赤と青がかぶさる。

 Adaptationが白線を二重に描き、斜角で衝突を逃がす手順が出る。

 ヤエは息を止め、鍵を落とした。


《儀式完了:灰幕儀》

《灰誓護符:再刻》

《副産物:追跡紋—遮蔽(中)/偽流耐性(小)》


 祭壇の皿で護符が鈍く光り、裂け目が埋まっていく。

 UIに新規が走る。


《KenのTech Skillが進化!》

灰紋制御・弐(Ash Sigil Control II)

・灰幕(Veil):半径中の隠蔽領域を3拍生成(露出トラッキング低下)

・偽流検知:風位相の反転を予告(微)

・燠鎖予告:炎鎖/燠噴射の位相を数式でヒント表示

CD:28s

《パーティバフ:灰幕共鳴ステルス/掃討隊の索敵を減退(短時間)》


「ナイス進化。Yo、ステルスは正義」

「礼を言うのは俺の方だ」

 Kenは護符を握り、ほんの少し肩を落とした。「追跡紋が切れた。しばらくは匂いが薄い」


 ヤエは祭壇の側面に刻まれた小さな名前列に目を止めた。

 灰に刻まれた文字は、熱で少し溶けて歪んでいる。


「誰?」

「民兵が儀式で名前を置く。――失った誰かの代わりに」

 Kenの指が、一つの名前で止まった。

 言葉は続かない。灰幕が静かに広がる。


 ***


 祠から上へ戻る途中、石壁のひびから赤が滲む。

 御狩宣の包囲が縮む音。観測鈴が連続で鳴った。


「灰幕、起動」

 Kenが床へ印を刻む。灰が細かい粒になって立ち、三人を薄膜で包む。

 足音、槍の触れ合う金、通報台の起動音――全部が半歩遠**くなる。


「Now、抜ける。配電孔・残路へ」

 トレイが先へ走り、ヤエは息を整えた。

(死ぬの、嫌だ。――でも、止まれない)


 石段を駆け上がると、蕎麦屋の裏口で赤い影がよぎった。

 市民が通報端末を握り、こちらを指さす――が、灰幕に目が滑る。

 端末は空を指して赤を点滅、民兵が別の路地へ走っていった。


「効いてる」

「三拍。次が来る前に移動」


 ***


 段丘の陰路を伝い、Access Corridorの脇に出る。

 検問は赤、炎鎖の簡易柵が二重。

 Kenが灰紋を二重に重ね、トレイが配電盤の蓋を開ける。


「灰幕→二拍、燠遅延→一拍。君は逆拍で飛べ」

「Yo、了解――」


 ヤエがショートホップに入ろうとした瞬間、空が赤く閃いた。

 火口紋のホログラムが街全体に投影され、銅鑼が二度、三度と鳴る。

 御座は見えない。だが、声だけが澄んで降りた。


「――公示」

 火帝の声。

「外来者、名をYae-Yae Jenkins。灰廷の礼式を妨げ、伝統を穢し、処断を拒む。

 Hoshidenに対する敵である」


《炎告(City-wide Broadcast)》

議題:外来者の敵性認定/御狩宣の範囲拡張

名指し:Yae-Yae Jenkins(Protagonist)

共犯:民兵離反者 Ken/外来ガイド Trey

市令:庇護・通報遅延・黙認は同罪/即時処断

報奨:階級点↑/火紋加護(暫定)/金銭

(※大審闘は予定どおり挙行)


 通りのざわめきが一段深く変わる。旗が翻り、鈴が激しく打たれる。

 幇の目が赤く光り、子供まで端末を握る。


「Yo……、フルネームで刺してくるの、エグい」

「これで市が敵になる。灰幕は延長する。君は走れ」

 Kenの声は静かで熱い。「名前は奪えない。君が自分で持っていけ」


 ヤエ=ヤエは奥歯を噛み、拳で胸を叩いた。

「持ってく。――敵でも主人公でも、私は私だ」


 灰幕が再び立つ。

 炎鎖の影が三拍で沈む。

 ショートホップIIが角を掴み、三人は検問の網を斜角で抜けた。


 背後で放送が終わり、火の都が狩りの息を吸い込む。

 鍵門は下に、証拠は今に。

 そして名前は――彼女のまま、燃えずに残った。


 ――Ken: Background クリア/逃走続行。

 次章、配電孔の残路を潜り、鍵門の現場を押さえる。

 敵と宣告されようとも――手際で道を開け。


—-

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ