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オーバードライブ計画  作者: lil jyo
第2幕 ホシデン
16/50

第16章 「徴されし闘士(Drafted for the Trial)」

――鍵門区画へ続くスロープの手前。

 **灰廷(Ash Court)**の槍が横に出た。**民兵(Militia)**が三名、赤い裾をひるがえして道を塞ぐ。


「Access Corridorの通行は一時停止。外来者と護衛は灰廷管理下に入れ」

 先頭の槍吏が板札を掲げる。大審闘準備の臨時徴用令だ。


「徴用って、今?」

「火の国は舞台を先に作る」トレイが苦く笑う。

 Kenが一歩進み、軍章を示す。「民兵・Ken。彼らは灰廷通行証を持つ。監督は俺が」

「承知。――だが本日予選(Heats)を行う。外来者は力と手際を示せ。拒否は逃亡判、即刻処断」

 槍吏の目は冷え、儀礼は整っている。


 UIが震え、強制受注のウィンドウが弾けた。


《強制イベント:灰の予選(Heats of Ash)》

主催:灰廷(Ash Court)/運営:Hoshiden Militia

目的:代役闘資格の判定/外来者および幇代表候補のふるい

規則:リング規則(炎鎖/燠噴射/無効化枠)/Adaptation使用可(※無効化枠では停止)

判定:敗者=死(執行:民兵)

報酬:灰廷通行枠+/証拠提出ウィンドウ延長(勝者のみ)


「死って、大文字なんだ……」

「ここでは常体だ」Kenの声は淡々としていた。「行こう。見て、学べ」


 ***


 広場は半日前よりも厚化粧の舞台に変わっていた。

 黒曜のリング、炎鎖(Flame Chain)が三拍で立ち上がり、おき噴射が床の目地からぷしゅと吠える。

 観客台には灰拳会、紅蓮貿易連、熾天狗がそれぞれの旗を振り、賭け札が飛ぶ。

 高座の背後、灰廷の帳場に死者記録の板が積まれていた。


《観戦席:外来者控所》

《ヒント:無作為抽選で組合せ決定/戦闘中の干渉は処断》


 最初の組が入る。灰拳の若造と、紅蓮の輸送護衛。

 ゴング。

 灰拳は炎鎖の影を踏み損ね、燠に足を焼かれて膝をついた。紅蓮の石突が顎を跳ね上げ――判。

 民兵が静かに近づき、喉へ短い刃。

 拍手、ざわめき、灰が風に舞い、死だけが静かに沈んでいく。


「……ガチでやるのね」

「ここは演出も本物も混ぜない」トレイが低く言う。「全部、現実味で殴ってくる」


 二組目。熾天狗の索敵手と、流れのプレイヤー。

 BuzzCamではなく観測鈴がチリと鳴り、熱気流の歪みが視界を揺らす。

 Adaptationを持たないプレイヤーは炎鎖の起立に二度も引っかかり、三度目の燠で倒れた。

 槍吏が進み、儀礼どおり刃を落とす。血の匂いに香草煙が焚かれ、すぐに観客の熱が飲み込んだ。


 三組目――四組目――。

 勝者はリングの外で乾いた水を飲み、敗者は記録の板に名がひとつ増える。

 灰廷の書記は表情を変えない。

 ヤエ=ヤエは拳を握り、Ember ResistのUIを無意味に見つめた。


「嫌い?」

 Kenが控所の影で、わずかに目を落とす。

「嫌い。――でも、見る。ここの文法だもん」

「見て、覚える。それが礼だ」


 抽選機が回転した。

 黒曜の箱がコトリと止まり、板札が二枚、係の手に渡る。

 書記官が高座で朗々と告げた。


「――次闘。外来者:主人公(Protagonist)。対して、Hoshiden Militia:Ken」


 控所の空気が凍る。

 ヤエ=ヤエは視界の端を二度瞬き、Kenの横顔を見る。

 Kenは一拍だけ目を閉じ、胸の前で灰誓護符をつまんだ。


「Yo……は? 味方でしょ?」

「民兵は灰廷に従う。職務だ」

 Kenは短く吐息をこぼす。「逃げれば二人とも即断。立てば――勝ったほうが残る」


 UIが冷たく更新される。


《対戦組合せ:確定》

対戦:Protagonist vs Ken(Militia)

特記:利害関係者の回避申請は灰廷により棄却

備考:Empress of Fire(Homura-hime)、当闘を観覧予定(臨席時刻は非公開)


「……来るの?」

「主帝が観る予定だと告示が出た。何時とは言わない。急に幕が上がるのが火の作法」

 Kenは視線を落とし、低く足もとに灰紋を描いた。練習ではなく、祈りのように。


「主帝の話、聞きたい。――でも言えないんだよね」

「……禁だ。俺の口からは」

 Kenの喉仏がわずかに動く。「ただ、裁きは公平に見えるように飾られている。裏があるにしても、表は完璧だ」


 係が控所の柵を開ける。

 炎鎖が三拍の上で立った。燠の匂いが強くなる。

 トレイがヤエ=ヤエの肩に手を置いた。


「聞いて。Kenはコントローラー。灰紋制御は環境を整える。君のAdaptationは動線を出す。

 互いに最短で首を取りに行けば――どちらかが死ぬ。

 勝ち筋は二つ。一はKenの灰紋を**“踏み外させる”。二はリングの“規則”を利用して裁きに“裁量”を残さない技術で落とす。

 火は曖昧を嫌う。明確に勝**て」


「Yo、重いアドバイス二行」

「君なら噛める」


 ゴングが遠くで鳴り、前の試合が終わる。

 民兵が敗者の首に布をかけ、刃の影が一度だけ揺れた。

 拍手の波が去り、静けさが舞台に落ちる。


 灰廷の書記官がもう一度、板札を掲げる。

 宣言は儀礼、Skip不可。


「――次闘。外来者:Protagonist。対して、Hoshiden Militia:Ken。

 規則、遵守。敗者は死。観覧――主帝、来臨予定」


 観客のざわめきがひときわ高くなる。

 火口の城門のほうで、赤い旗列が形になり始めた。火炎の御座のしるし――遠い蜃気楼のように揺らぎ、まだ姿はない。


「来る、のね」

「来るかも、だ」Kenが短く言う。「――行こう、主人公」


 UIが残酷に整う。


《闘士登録:Protagonist/Ken》

《Kenは一時的にパーティから離脱(対戦相手)》

《Pain Sim:高》


 ヤエ=ヤエは息を吸い、拳を軽く握った。

「Yo、NY流の礼で行く。礼はする、負けない」


 炎鎖が沈み、燠が静まる一拍。

 入場の太鼓が鳴った。


 ――幕は上がる。第十六章・了。

 次章、Protagonist vs Ken――火の文法のままに、生きて勝て。

 (そして、火帝はまだ“目”に入らない)


—-

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