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オーバードライブ計画  作者: lil jyo
第2幕 ホシデン
15/42

第15章 「灰廷の門番(Ken)」

――Access Corridor の検問口。


 黒曜石のゲートに、火口紋と灰廷(Ash Court)の印章。槍吏が二名、奥には赤い裾を持つ民兵(Hoshiden Militia)の詰所。

 ヤエ=ヤエがCorridor Writ(灰廷通行証)を掲げると、受付の端末がピッと鳴った。


「紅蓮協力状、Writ確認。……付き添いが要るな」

 低い声で出てきたのは、二十歳前後の青年――短く刈った黒髪、灰の汚れが残る軍上衣。

 胸章には火口と槍の刻印、その下に名前タグ。


 KENケン


「Ken。Hoshiden Militia所属。Access Corridorは今、大審闘準備で物騒だ。――護衛、つける」

「料金は?」

「無料。ただし条件がひとつ」

 Kenはリング状の床を顎で示した。灰色のタイルが三列、おき噴射のノズルが散る。

灰礼アッシュ・エチケット――ここを三拍子で渡る。炎鎖の影を踏み、燠は斜角で流す。手際を見せてくれ」


「試験、ね。Yo、やるしか」

 ヤエ=ヤエはショートホップIIを確認し、風UIを遮断。

「耳と頬で読む。1・2・3――Now」


 影(1)、置(2)、抜(3)。

 影だけを踏み、燠は踵の捻りで床へ逃がす。

 最後に炎鎖の起立へ半拍のウィンクを差し込み――ゴール。


「……合格」

 Kenは口元をわずかに緩め、端末を操作した。

「護衛許可を付与。――それともう一つ、君に選択肢を与える」


 ヤエ=ヤエの視界に、新しいウィンドウがポンと開いた。


《新規プレイアブル解放》

Kenケン/Hoshiden Militia

Tier:Aコントローラー

Tech Skill:灰紋制御(Ash Sigil Control)

 ・地表に灰紋を刻み、熱・冷・風の位相を短時間整流(半径小)

 ・燠噴射/炎鎖のタイミングを可視化(味方限定ヒント)

CD:22s

Background Quest:「灰脈の印」(未解放)

加入条件:護衛任務クリア/Militia評価:中立以上

→ 加入可? Yes/No


「Yo……A-tier。強」

「喧伝は嫌いだが、仕事はする」Kenは肩をすくめた。「火の国を通るなら、灰礼と裁きの流儀を知る必要がある」


 ヤエ=ヤエはYesをタップ。

 Kenの名がParty欄に追加され、灰紋の小さなマークがUIに常駐する。


《Ken が仲間になった!》

《パーティ・シナジー:環境予告ヒント(微)/熱冷ダメージの初段を軽減(小)》


「歓迎、Ken」

「Guide」とトレイが手を差し出す。「The Guide、トレイ。彼女は――」

主人公プロタゴニスト」Kenは短く頷く。「噂になってる。雷帝の都市でゲームズを勝ち、灰廷で証拠を運んだ外来者」


「噂速すぎ。NYのゴシップ列車より速い」

「火は噂でも燃える。だから灰廷は手際と証拠で熱を鎮める」


 歩き出しながら、Kenが簡潔に語る。

「火の裁き(Trial by Combat)は最終審理。証言は軽い、証拠は重い、最後は手際(闘)。

 判が出た後、敗者は死。――**主帝(Homura-hime)のみことのり**だ」


「必ず?」

「例外はない。勝者が赦しを乞うても、勅が覆らない限り刃は止まらない」

 Kenの声は平板だが、言葉の端に火の硬さがあった。


「……残酷って思う?」

 ヤエ=ヤエが問うと、Kenは短く沈黙し、灰の風を一度吸って吐いた。

「火は曖昧を嫌う。決着を外に持ち出さないための流儀だ。……俺がどう思うかを言うのは任務外」

「主帝については?」

 Kenの喉がわずかに動く。

「……語るのは禁だ。灰誓はいせいを立てている」

 胸の内ポケットから、小さな焼印護符を見せる。火口紋と細い爪跡のような傷。

「見たことを語らない。語れば焼く――それが灰誓」


「了解。無理に聞かない」

 ヤエ=ヤエは肩をすくめ、UIでMainを開く。「層3/3、Access Corridorの奥だよね」


「ああ。封鎖ログは鍵門(Keystone)の真上、灰廷の監督区画を抜けた先。――行く前に」

 Kenは床に指で印を刻む。灰が円を描き、紋が淡く点った。

「灰紋制御。三拍だけ風と熱を均す。燠は二拍遅れで噴く。影を踏め」


「助かる。Adaptationの温存が効く」

「君の技は見た。頼りにしている」


 ***


 Access Corridor・深層。

 床のタイルに灰紋が混じり、壁の配管に三相の脈。燠噴射のノズルが不規則に点滅。

 検問所では灰廷の書記と民兵が帳面を突き合わせ、大審闘の物品搬入が滞りなく進むか監督していた。


「Writを」

 Kenが差し出すと、槍吏が道を開ける。

「時間帯が短縮されている。偽流の報が入っている。――注意して進め」


《エリア効果:偽流(発生率↑)/燠噴射の遅延がランダム》

《同行効果:Kenの灰紋により予告ヒント(微)表示》


「Yo、便利。ゆるいチート感」

「火はチートを嫌う。これは礼式だ」


 曲がり角で、黒い影がちらり。

 肩の小型デバイスが赤を点――風UIが逆転した。


「偽流。画面切る」

 ヤエ=ヤエが耳で風を読む間、Kenが灰紋を二重に重ねる。

 床に薄い矢印のヒントが流れ、燠の噴く拍がうっすら数字で出る。


「1(待)・2(影)・3(抜)……Now」

 三人の動線が噛み、燠を斜角で床へ逃がす。

 Lammergeierの残骸めいた小型セントリーが二機、吸い上げで絡もうとするが――。


「灰紋!」

 Kenの印が足元で灯り、風位相が一瞬だけたいになる。

 ヤエ=ヤエはその平にAdaptationを合わせ、二段でコアをタップ。


《カウンター成功/CD:30.0s》


 深層端末に到達。

 黒曜のコンソールが三相楔の座を露出し、UIが点滅した。


《封鎖ログ:層 3/3 に接続可》

条件:HS-Keystone 第一・第二を挿入/第三段は現場同期で生成

補助:灰廷監督鍵(Kenが代理可)


「Ken」

「ああ。監督鍵、挿す」


 Kenが出した灰廷鍵を左座に、ヤエ=ヤエが第一・第二を右座に。

 三座が逆拍で点灯し、層3/3が開く――はず、だった。


 カチ。

 上部の通風孔で、赤が一度だけ点。

 次の瞬間、コンソールの風向指示が反転し、燠が予定外に噴いた。


「妨害!」

「灰紋二重――間を作る!」

 Kenが印を重ねる。二拍だけ整流が生まれ、燠の芯がずれる。

 ヤエ=ヤエはAdaptationを叩き、白線で三座の逆拍を再同期――挿入。


《**アクセスキー:HS-Keystone(第三段)**を生成》

《HS-Keystone 完成(3/3)》

《鍵門区画へのアクセス権を取得》


 視界の裏で、最後の記録が点滅する。

 ――鍵門室。Keystoneのリング。

 月紋の影がExcisionの最終コードを入力する直前、画面が切れ、細い爪跡だけが残る。


「……切られてる。最後の瞬間が抜けた」

「大審闘までに鍵門に入れば、現場で残りが見える」

 Kenは頷く。「通行枠、一回分残ってるな。今行けば前日の証拠提出に間に合う」


 ヤエ=ヤエのUIが震え、新目標が光る。


《Main Quest:鍵門(Keystone)を開くもの(完了直前)》

目的:鍵門区画へ侵入し、現場記録を確保/偽流発信源を識別

期限:大審闘 前日夜まで

報酬:経験値/現場証拠/灰廷提出ボーナス


 そこで――Kenが一歩、二人の前に出た。

「一つ、忠告。Trialについて、もう少し。

 負けた者は死ぬ。勅だ。泣いても叫んでも、観客の拍手で音は消える。

 勝ちを証拠で補い、手際で押し切る。……君にそれができるなら、俺は隣で槍を振る」


 言葉は硬いのに、目の奥は熱い。

 ヤエ=ヤエは笑って、拳で軽く胸を叩いた。

「できる。――だって、クリアが好きだから」


 黒いフードが通路の高所で一秒だけ揺れ、赤を点にして消える。

 熾天狗の鈴がチリと鳴り、観客がまた増えた気配。


「行こう、鍵門へ」

「走って、見せて、置く。火の文法だ」

 Kenの灰紋が足下で灯り、風と熱が三拍だけ整う。

 ショートホップIIが角を掴み、三人は鍵門区画へのスロープを駆け下りた。


 ――Access Corridor・突破/HS-Keystone 揃い。

 次章、鍵門へ侵入、現場証拠を確保し、大審闘の卓に叩きつける。

 言葉より証拠、証拠より手際。そして――生き残れ。


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