第14章 「火の裁き(Trial by Combat)」
――Access Corridorへ向かう途中、通りの空気が急に熱を増した。
鉄骨のやぐらがガシャコンと組み上がり、円形の広場に赤い布が張られていく。観客台、賭け札、救護台、そして中央には焼けた黒曜石のリング。
「工事のスピード、NYの地下鉄も見習って」
「Hoshidenは“舞台”の作り方が速い。――告知が来る」
塔の側面に火口紋のホログラム。銅鑼がドンと鳴り、街中に中継が飛んだ。
《公示:火の裁き(Trial by Combat)》
・証言は軽い、証拠は重い、最終は手際(闘)
・審理は灰廷(Ash Court)が執行/観客は証人
・勝者の主張を公権が採択、敗者は科を受く
・特記:三日後、**大審闘(Grand Trial)**を予定。主宰:火帝代理(主帝の臨席は後日告知)
「Trial by combat……来た。でも“主帝”の臨席は後日。――彼女はまだ出ない」
「章で言えば、もう少し先」
リング縁にルール板が立つ。UIも追随してきた。
《リング仕様》
・床:導電パネル+燠噴射の不規則発火
・周縁:炎鎖(Flame Chain)が周期3拍で起立/接触で焼灼
・上空:熱気流と灰による視界歪み
・無効化枠:適応(Adaptation)停止区画あり
「痛覚シミュ、強そう。Skipは?」
「ない。裁きは見せ物で、教材」
観客がどっと押し寄せ、灰拳会と紅蓮貿易連の旗が睨み合う。
灰廷の書記官が、焼き印の入った板を掲げた。「――道路占有権についての争い。証拠の提出は?」
紅蓮側は**帳面**を持つが、炎鎖の外。灰拳側は「偽物だ」と叫ぶ。
トレイが小声で言う。「Access Corridorの検問、緩むにはここで紅蓮に貸しを作るのが早い。証拠搬入がサイドで来る」
案の定、UIが震えた。
《サイド:証拠走り(Evidence Runner)》
目的:炎鎖の起立周期を読み、紅蓮の帳面を灰廷書記台へ 無傷搬入
条件:観客に危害なし/リング規則遵守
報酬:灰廷通行証(Corridor Writ)/紅蓮の好感度↑
「走る。――舞台、借りるよ」
「Adaptationは炎鎖の立ちと燠噴射の同時に。片方だけなら自力で切れる」
ヤエ=ヤエは帳面を抱え、炎鎖の波を読む。1・2・3(起立)/1・2・3(沈下)――逆拍で足を入れる。
燠がぷしゅっと噴く。熱は刺す。
無効化枠に踏み込めば適応が消える。そこは飛ばない。
「今――ホップ、スリッド、二段!」
ショートホップIIで縁に軽く乗り、斜角で火を流す。
観客から**「おぉ」の波。灰拳の野次が飛ぶが、灰廷の槍が静かに制**する。
半ばで、偽流(Fake Current)のノイズが差し込んだ。
黒いフードが観客の影に一秒だけ滲み、肩のデバイスが赤を点にする。
風向UIが反転、燠噴射の警告が遅延。
「画面切る。頬と匂い」
ヤエ=ヤエはUIを遮断し、焦げの匂いと風の鳴りで拍を取る。
1(待)・2(置)・3(抜)――炎鎖の影だけを踏み、帳面を胸で守った。
書記台へ飛び上がり、帳面を置く。焼き印の端末がピッと鳴り、証拠がログに吸い込まれた。
《サイド:証拠走り クリア!》
《報酬:Corridor Writ(灰廷通行証)/紅蓮好感度↑》
《特記:偽流介入の痕跡を検出→参考証拠として添付》
灰廷の槍吏が頷く。「――証拠、届いた。続けたまえ」
リングに鐘。
灰拳会の代表が拳を構え、紅蓮の護衛が短槍を回す。
炎鎖が起立、燠が噴き、熱気流が視界を歪める。
「今のは前菜。本番は殴り」
「観客は暴力に拍手するけど、裁きはプロセスも見る。――証拠を先に置いた君の勝ち筋」
闘いは三拍の節で進む。灰拳が炎鎖に押し込まれ、紅蓮が燠を踏み切って返す。
最後は紅蓮が槍の石突で灰拳の膝を払い、倒れた先に炎鎖が沈み――焼灼だけは避けられた。
《判:紅蓮》
《採択:道路占有権(期間限定)/通行枠の配分》
灰廷の書記官が高座から宣言する。観客は札を交換し、罵声と笑いが混ざった熱が広場を満たした。
「Corridor Writ、使える?」
「Access Corridorの検問に通す。二回の優先枠は残しておく」
UIが新たに光る。
《Main Quest:鍵門(Keystone)を開くもの(進行 2/3)》
次目標:Access Corridorで封鎖ログ:層3/3に接触
持参:Corridor Writ/紅蓮協力状/HS-Key 第一・第二
警告:大審闘準備に伴う区域閉鎖が発生(48:00以内)
「48時間で閉鎖。大審闘、三日後――舞台、でかいのが来る」
「君が真正面に入るのはまだ先。――17章で**“主帝”が降**りる」
ヤエ=ヤエはリングの縁に目を落とした。
燠の隙間に、薄い金属片――月紋と三本線のタグが焦げて挟まっている。
偽流を起こした誰かが落としたものだ。
《証拠:焼損タグ(Herald Sub-Sign?)》
《評価:中/灰廷提出で参考に採用》
「拾って提出。言葉より証拠」
「君は火の文法に慣れてきた」
広場の壁に、もう一枚大きな掲示が映る。
大審闘(Grand Trial)の要項だ。
《三日後・正午 大審闘》
議題:冷気脈の逆流・偽装署名・幇間の破壊工作
立会:灰廷/各幇代表/火帝代理(主帝の裁断は最終日に持ち越す可能性あり)
証拠提出:前日夜まで/戦闘申請:当日朝
注:外来者の陳述は証拠提示と代役闘が要件
「外来者……私。証拠は集める。代役闘は――Guide?」
「僕はガイド。でも、リングに降りる時は隣に立つよ」
「頼もしい」
灰廷に焼損タグを提出し終えると、Access Corridorの検問が緑に変わった。
Corridor Writを翳すと、槍吏が無言で道を開ける。
「層3/3、取りに行く。時間は48、窓は二回。――走る」
「走って、見せて、証拠を置く。火の国はそれで道が開く」
ふたりが広場を離れる時、観客の影の高所で、黒いフードが一度だけ手を上げた。
肩の赤が点にして消える。
鈴がチリと鳴り、熾天狗の観測が尾を引いた。
――Trial by Combat:導入。
次章、Access Corridorの深層で封鎖ログ:層3/3に触れ、HS-Keystoneを揃える。
大審闘まで48。言葉より証拠、証拠より手際――舞台を整えろ。
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