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オーバードライブ計画  作者: lil jyo
第2幕 ホシデン
13/42

第13章 「下層配電孔(Lower Manifold)」

 ――Hoshiden・火口都市圏、紅蓮貿易連の裏路地。


 壁の配電灯が赤→琥珀→緑と切り替わり、路地奥のシャッターが上へスライドした。

 奥は資材路の時間窓。10分だけ下層配電孔へつながる搬入帯が開く。


「今、開いた。窓は10:00で閉まる。中で騒ぎを起こすと短縮される」

 紅蓮の係が、焼き印の入った搬入証を渡す。「言葉は要らない。通した証拠だけ置いてけ」


「了解。――Go」

 ヤエ=ヤエは搬入証をUIにスキャンし、トレイと並んで短い坂を駆け降りた。


《Main Quest:鍵門(Keystone)を開くもの(進行 1/3)》

目的:下層配電孔で封鎖ログ:層2/3に接触

注意:時間窓 10:00/偽流の発生/熱冷交互の圧縮路


 通路は、熱と冷が目に見える縞になって流れていた。床の膨張継ぎ目に白い霜、壁の配管では赤い光が脈打つ。

 頭上のレールで運搬台がギギと鳴り、たまに灰がさらさら落ちる。


「ショートホップII、二段微修正で縞のきわを踏む。Adaptationは最後」

「回路解析は分岐弁の三相切替。熱へ冷を半拍遅れで混ぜると衝撃が薄まる」


「音ゲー+配管パズル、了解」


 1・2・3・4――縞の境を踏み替え、壁走りで熱帯を短縮、冷帯で息を伸ばす。

 最初の制御盤。青/赤/灰の三相、AND/OR/NOTのゲートが組まれている。


「灰(中性)を軸に、赤へ半拍遅れ、青へ一拍前――逆拍ミキサー」

 ヤエ=ヤエの指が走り、三相が弾むように切り替わった。

 床の衝撃が中辛まで落ちる。


《環境緩和:三相均し(小)》

《時間窓残:8:52》


 角を曲がると、風の通り道。

 通風孔の縁に、黒いフードが一秒だけ滲み、肩のデバイスが赤に点。

 直後、UIの風向表示が反転した。


「偽流。――画面切る」

「耳と頬で風を読む。鎖鳴りの反響が真」


 半拍ためて跳び、二段で斜角を調整。

 通風孔の縁だけを爪先で噛んで抜ける。

 BuzzCamの代わりに、熾天狗の観測鈴が遠くでチリと鳴った。


「見てるね」

「観客は増える。落ちなければ舞台になる」


 配電孔手前の広間。

 中央に、翼のような放熱板を背負った監視機が低く浮遊していた。


《セントリー:Vent Lammergeier Lv.8》

行動:吸い上げ気流/熱刃の呑込/冷霧の吐出

特性:風位相で避け難/偽流支援


「鳥、だけど風洞の悪魔。正面は長居が死」

「Adaptationを最後に。先に弁で風を乱して翼を鈍らせる」


 壁面の三連弁へダッシュ。

 ヤエ=ヤエは回路解析:初段で青→赤→灰を逆拍で切替え、吸い上げに冷を挿す。

 Lammergeierが翼をばたつかせ、浮力が落ちた瞬間――接近。


 頭上から熱刃のうねり。

 Adaptation、起動。


《カウンター:熱刃呑込→斜角すべりで刃圧を床へ沈め、翼根の冷却孔へタップ》

《CD:30.0s》


 踵で冷却孔を弾き、翼が痙攣。

 Lammergeierは冷霧を吐いて反撃するが、三連弁の灰がそれを鈍らせる。

 トレイが短く叫ぶ。「今、下腹!」


 体勢が落ちた一瞬、腹面の点検蓋が開く。

 中に、鍵の座――三相楔の受け口。

 UIが表示を出す。


《アクセスキー:HS-Keystone(第二段) 取得可》

条件:灰(中性)を軸に、熱と冷を逆拍で同時成立/Lammergeierの気流に同調させること


「1(待)・2(熱)・3(待)・4(冷)。灰は通し」

「鳥のはばたきに合わせる。耳で拍」


 ――バサ・(待)・バサ・(待)。

 ヤエ=ヤエとトレイの入力が拍に噛み、楔が座に沈む。

 Lammergeierは羽をたたんで墜ち、床で火花を散らした。


《**アクセスキー:HS-Keystone(第二段)**を取得》

《封鎖ログ:層 2/3 開示》


 視界の奥で、記録が開く。

 ――Sub-Caldera:鍵門周辺区画。

 月紋の影が冷却バランスを崩し、逆流を起こす手順。

 貼り付けられた紙片に、KEの二字と、短い語尾の余白。


《Herald Protocol “KE—”

 1) Keystone均衡に対し冷の遅延を増し、熱を前へ

 2) Excision準備コード投入

 3) ……


承認:Overseer》


「――Overseer、直。月は命令で動く」

 ヤエ=ヤエの喉が渇く。「Zankeiの切除、テンプレがある」


 記録が砂嵐で破断し、最後に指の走書きだけ残る。

 Kestrel、Keystone――二重のKE。

 そして、印の端に細い爪跡。


 広間の上手で金属が鳴った。

 黒いフードが梁に滲み、肩の赤が一度だけ点。


「――均衡は退屈、破壊は華。

 君はどちらが好き?」

 歪んだ声が低く笑い、霧に溶ける。


「どっちでもない。クリアが好き」

 ヤエ=ヤエは中指でUIを弾き、配電孔のコアへ歩く。


 コアの前に端末。層2/3の封鎖ログが焼き付いたままうごめく。

 禁知の鍵が二段、インベントリで揃って光る。


《Main Quest 更新:鍵門(Keystone)を開くもの》

進行:2/3(HS-Keystone第一・第二段 取得)

次目標:鍵門区画への移行(Access Corridor)/封鎖ログ:層 3/3

ヒント:時間窓が縮小。幇関係によって検問の開閉が変動


「戻る? 窓、残り3:10」

「戻る。今は証拠を持ち帰る。裁きは舞台で」

 トレイが頷く。「紅蓮に提出、協力状を上へ上げる。Access Corridorの検問、緩む」


 帰路――。

 偽流が二度、風をひっくり返したが、ヤエ=ヤエは画面を切って耳で抜けた。

 出口で、配電灯が緑→琥珀→赤へ戻る。シャッターが降り始める直前、二人は滑り込みで路地へ飛び出した。


《時間窓:00:12》

《搬入帯:閉鎖》


「セーフ。――Yo、喉が砂利」

「水は高い。味覚は濃い」

「NYでも水は無料なのに……ここは火山税?」


 冗談を一口だけ。

 紅蓮の受付で、二人は協力状を更新し、層2/3ログの写しと、Lammergeierの翼根部片を証拠として提出する。

 端末が承認を返し、Access Corridorの検問に通行枠が付いた。


《通行枠:紅蓮・優先帯》(2回分)

《ヒント:灰拳会と熾天狗に正面で喧嘩を売るな。口より手際で短絡仕事を一つ置け》


「二回分。層3/3と鍵門に足りる」

「途中で誰かが扉を閉めれば足りなくなる。寄り道の喧嘩は無し」


 通りに出ると、火の風が低く唸った。

 夜空に赤い吐息、遠くに裁きの広場の観客台が組まれていく音。

 そこへ黒い影が路地の端で止まり、肩の赤を点にして消えた。


「見てる。近くなってる」

「舞台に引き寄せられるのは観客のさが。――次はAccess Corridor。層3/3だ」


 ヤエ=ヤエは二本の鍵の光を確かめ、UIの次目標をマークする。

 ショートホップIIが風の角をつまみ、足取りが軽くなる。

 痛覚は残っている。だが、その残響が道筋の輪郭を濃くしてくれる。


 ――下層配電孔・突破。

 次章、Access Corridorで封鎖ログ:層3/3に触れ、HS-Keystoneを揃える。

 言葉より証拠、証拠より手際。そして舞台へ。


—-

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