1-6 mad engineer
第1世代MMCV。UNIONを中心に開発及び設計された対エンブリオ用兵器は、有り体に言えば失敗作だった。戦車のキャタピラ部を6本の脚部に置き換えた小型戦車であるそれは、速力や走破性に乏しく、搭載出来る火器やその管制システム等の重量の制限も厳しく、通称「棺桶」と呼ばれていた。
そのため、ある程度の試作機が生産されたのち、戦場での故障や未帰還率が高いため有人での稼働は直ちに中止、当時はまだ未熟な戦術AIにより完全自動操縦化のうえ損耗率の高い戦地での弾除けとして運用される運びとなった。まるでその存在を生み出すこと自体が目的だったと語られるように。
その直後、1.5世代型と言われる4脚型のMMCVがロールアウトする。明らかに開発時間が短すぎるそれは、始め第一世代による悪評から兵士の嘲笑を以って迎えられたが、既存の兵器群とは一線を画すエンジン出力や新素材を使用された特殊複合装甲による異常なまでの軽量化と耐久性、目玉であるブースター機構におけるジェットエンジンを利用した(短時間ではあるものの)3次元機動を行えることにより、一躍戦場での主力兵器として迎え入れられた。
その後程なく、砲塔部を人型に置き換えた今では1.9世代型と呼ばれる4脚型人型多目的戦闘車両が産み出された。当時、配備数こそ少ないものの、激戦区では二本の腕部を持つその異形は求められる戦略に応じ柔軟に使用する火器を変更し、柔軟性をもつある程度の万能兵器及び工作用重機として揺るがない地位を確立した。人間と同じような腕部を持つことで簡単な作業を直感的に行えると言うことも、大きかったのだろう。
何故、その様な技術が突然現れたのかを考える余裕など人類には持ち合わせていなかった。
そして、それを魔改造した日本は現行の2世代型MMCVと呼ばれる、2脚型人型戦闘車両を産み出し、各地で必死に抵抗作戦を行う同胞に様々な畏怖を持たれつつも受け入れられ、急速に世界へと広がって行った。
医務室の扉が開き、薄汚れたつなぎ姿のロスが無言で室内に入ってくる。その瞳孔は開ききっており、乱れた髪や機械油塗れの顔が美人を台無しにしていた。
そして天井から吊るされているマコトの首を機械油塗れの両手で掴むと自分の顔にゆっくりと近づける。それに気付いたマコトが目を開いた時にはロスの顔が視界いっぱいに広がっていた。
「マコト、表出ろ」
「えっ?」
ロスは無言で吊るされたマコトの首をベッドに固定されている体に装着すると、手早くターミナルを操作しメンテナンスモードを解除する。
「なに?なに?どうしたの?」
「内装関係のパーツを交換したからテストするぞ。さっさと起きたら27に乗れ」
「えええ……」
「勝手に換装させて貰ったがカタログスペック上はほぼ完全上位互換だ。後は細かいところの調整を行いたい」
「……ロス、寝てないよね。先に休んだら?」
「時間が惜しい。先に行ってるぞ」
「……あぁもう」
話も聞かず医務室を出ていくロスを眺めながら、マコトは体を固定するベルトをゆっくりと外し始めた。
マコトのハンガーからMMCV輸送用トレーラーで2時間ほどの場所にある演習場で、マコトは27のコックピット内で一通りのセットアップを行った後、新型パーツの諸元を確認していた。新型ジェネレーターは容量こそやや少ないものの、出力が1.2倍ほどに上昇していて扱いやすい。ブースターは効率よりも出力を重視した設計をされており、クイックブーストは中量MMCVでの使用を前提としているが、マッハ1を超える想定とされていた。
現存のパーツ群と比較をしても、単純に上位互換と言える内容だった。
また、大破した右腕は同型の物に交換されている。
「流石新型パーツ。これ、後で料金請求されないよね?大丈夫?俺そんなに余裕ないからね?」
『それは問題ない。前回の新型エンブリオの情報提供におけるボーナスだ。使用感のフィードバックは行う予定だがな』
「ならいいんだけど」
『マコトはお金が無いのですね。可哀そう』
「ラナ、うるさい」
『ラナもデータ収集に協力してくれ。頼むぞ』
『了解ですロスヴァイセ』
「じゃあ27、起動するね」
『戦闘モード起動』
「戦闘機動開始」
ラナの声の後27のメインブースターに火が灯り青い焔が吐き出される。10メートルほどの高さまで機体が上昇した後クイックブーストを発動、ゆっくりとその感触を確かめていたが、マコトの意識が徐々に集中し始め、連続クイックブーストを含む3次元軌道を開始する。
「……かなりピーキーな感じになってるね」
『ジェネレーター容量が以前よりもやや低下している都合上クイックブーストの連続使用は調整が必要かもしれんな。ブースターの総合出力を少し落とすことも出来るがどうする?』
「そうなると前のブースターでも良いってなるから、この出力の高さを何とか生かしたいね」
マコトはそう言うとクイックブーストを繋げられるようにジェネレーター容量を確認しながら、様々なタイミングでの連続クイックブーストを行っていく。何度もそれを試していく内に徐々に滑らかな繋ぎ方が出来上がっていく。
『……流石だな』
演習場から離れた場所で27の情報をモニタリングしているロスが思わず声を上げる。
マコトの細かい出力調整でみるみる内にクイックブーストの繋ぎまでの時間が短くなり、その機動が鋭くなっていく。モニタリングしているデータは即座にラナへフィードバックされ、リアルタイムでバランサーなどの機体制御へと最適化されてゆく。
『まぁ、私のマコトですからね』
「ラナのじゃないです」
自慢気な声でラナが発言し、あきれたような声でマコトが訂正する。
『では私が貰っておくか』
「ロスも冗談に張り合わなくてもいいから……」
ジェネレーター出力が上がったことで間断なくクイックブーストが発動出来るようになり、ある程度の完成の目を見た為か、ロスの声色も若干明るくなっていた。
「調整はこれくらいで十分だと思う。癖はあるけど良い機体に仕上げてくれてありがとう」
『メカニックとしては嬉しい言葉だな。作業所に転がっている奴らにもぜひ声を掛けてくれ』
「勿論そうするよ」
『……後は新型ブースターに搭載されたオーバーブーストという機能があるが試してみるか?』
そのロスの言葉にマコトは暫くの間、苦戦を強いられることとなった。
ジェネレーターとブースターのリミッターを一部解除して推進力に注ぎ込むその機能は、控えめに言っても自殺行為と言っても差し支えなかった。
ほぼ常時クイックブーストを吹かした状態同然での操作を要求されるため、最後は補助脳を起動させることをロスに渋々認めさせることである程度の戦術に組み込むことに成功したが、その内容は「とっても凄くなった吶喊」だった。
「これ、パイロットの安全は完全に考えられていないよね……」
『あー……。報告しておくとしよう』
「……でも、これは切り札になるね。格闘戦しか出来ないからさ。距離を詰める手段が増えたのは純粋に有難いよ。使いこなせるまでは暫く掛かりそうだけど」
『少しでも使いやすくなるようにこの後調整を行っておく。使わなくても良いのが一番だがな……。ラナがいるから何とか使えるレベルの失敗作かもしれんからな』
『それはもうラナのサポートにお任せ下さい』
「ロス達もこの後少し休んでね。寝てないんでしょ?」
『……ああ。そうだな。これを詰めるのは頭を少し休めてからにしたい。その時はラナもテストに協力してくれ』
『わかりましたロス。LAN内にデータを移動し待機しておきます』
『頼んだ』
「まずはちゃんと休んでよ?」
『わかっている。スタッフにも多少休憩が必要だからな』
「僕も少し休ませて貰うよ」
『ああ。そうしてくれ。休憩後に補助脳の調整も行うからな』
「そうだったね……」
『では戻るぞ。まだもう少しだけ仕事が残っている』
OBも大事




