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エンブリオ  作者: あおねこ
ユーラシア大陸での決戦
7/22

1-5 you say how low

 エンブリオの落下から免れた国の一つに日本という国があった。産出資源に乏しく、国内の需要の多くを輸入に頼っていたが、世界規模での非常事態により正常な自国内での経済活動が行えなくなっていた。

 だが、幸いにもその国民性の為か暴動やクーデターなどは発生せず、ギリギリのところで国家としての体制を保っていたことがUNIONの目に留まった。

 非常態勢時にも大人しい国民性や、エンブリオの落下前における外交姿勢などを顧みると、自らの国を失った政治家たちは一時的な避難先として、あるいは寄生先として与し易いと考えたのかもしれない。


 だが彼らは非常事態が故に忘れていたのか、甘く見ていたのか。その小さな島国は大昔には自国内で戦に明け暮れ、20世紀では世界を相手に牙を剥き、恐るべき独自性を持ち、異文化や異なる技術を知らぬ間に己がものとする、やや特殊な国であったことを。


 UNIONから、残る世界からの物的支援を受けた日本は国家存亡の危機を正しく理解し、それを打破するために、戦時体制国家としてあるべき活動を始めた。



 マコトが所有するハンガー内では27の整備作業が急ピッチで行われていた。

 地上部とハンガー内を繋ぐトンネルは、大型コンテナを積載している大型のトラックが並び、荷捌きをするスタッフが大粒の汗を額に浮かばせている。 

 トンネルの先のハンガー内ではコアパーツ装甲板交換のため、27は天井の剥き出しの鉄骨から懸架吊りされ、その周りではつなぎ姿のメカニックたちが慌ただしく作業用クレーンなどを操作していた。

 その中で一人のメカニックが、タブレット型ターミナルでの接続テストを行っていたロスに声を掛ける。


「主任、届いたパーツの確認お願いします」

「ああ、分かった」


 主任と呼ばれたロスは作業の手を止め、手のひらほどの小型ターミナルを持っているトラックの運転手のもとに歩いて行く。

 機械油に塗れたロスの顔には疲れが濃く表れていた。


「現品の情報をそちらに送りました。内容の確認後こちらに受領の確認を」

「分かった。そこの高級椅子にでも座って少し待ってくれ」


 ロスのターミナルに運ばれた物のリストが大量に転送される。それを見たロスはFSCが梱包されている1メートルほどの高さの小型のコンテナを指差した後、荷下ろし用のクレーンでトラックから降ろされた大型コンテナに貼られた伝票を確認してゆく。積み上げられていた大型コンテナの確認はタラップを上がり一つずつ目視し確認を行う。単純な作業ではあるが、中身は人一人の人生が文字通り買えてしまうほど高価なMMCVのパーツ類だ。以前ちょっとした「悪戯」を行ったメカニックがその補填に「ナニカサレタ」と言う噂もあながち噓ではあるまい。

 確認を行う間にもトラックから降ろされ大型コンテナが増えてゆく光景にロスは内心溜息を吐いた。


 30分ほどの格闘の末、確認を終えたロスは運転手に受領の手続きを済ませると、荷捌きが終わり一息ついていたスタッフに、捌き終わった大型コンテナをハンガー内に運ぶよう伝える。そのスタッフは肩をすくめた後に良い笑顔で中指をおっ立て、ロスも良い笑顔で中指を立て返した。

(新型の内装一式か。J-GE03/00op?知らんぞこんな型番のジェネレーターは。発売前の第三世代型か。ブースターは高出力型のタイプか。J-BO03/00op?これも知らんな。……調整に時間が掛かりそうだ)


 受け取ったパーツの詳細を確認しながらロスは27の前に戻ると、砂と埃塗れのグローブを気にすることなく俯き加減で片手で顔を抑えた。それを見た、酷く汚れたつなぎ姿のメカニックの男が通り過ぎざまに声を掛ける。

 

「どうしたんですか主任。鼻くそでも取りたいならスパナでも持ってきましょうか?」


 このガレージでそれなりに長く働いている男はニヤニヤとしながらロスのターミナルを覗き込むとその表情を一瞬にして凍らせ、その場から立ち去ろうとするがその肩をしっかりとロスに掴まれてしまう。その握力はゴリラかと思うほどだった。

 ロスは顔を上げながら機械油と埃塗れになったその端正な顔を醜悪に歪め、ゆっくりと口を開いた。


「……良いところに来たな。乙女の秘密を覗き込むお前の好きな大人の玩具が沢山届いたぞ。今夜は寝かさんからそのつもりでいろよ」

「よかったな色男!主任は顔だけならサイコーだぜ!一晩中眺められるな!」

「腰が抜けるまで頑張れよ!短小野郎!」

「そのこきたねぇスパナをよーく磨いとけ!」


 それを聞いていた周りのメカニックたちは手を止めると安全圏内に居ると思ったのだろう、口々に二人を囃し立てる。


「……え?マジ?」


 リストの内容をチラ見した限りでもトラブル無しで一週間ほどの作業工程となるだろう。そう判断できる程度には男は優秀だった。


「あと数人確保しておけ。人選は任せる」

「「「……」」」


 口角を上げたロスは3人のメカニックに目を向けながらそう言うと男の肩から手を離し、マコトが吊るされている医務室へと歩いて去ってゆく。

 残された男は暫くの間その場で固まっていたが首だけをぐるりと動かし、安全圏内にいた(つもりだった)他のメカニック達へ向け満面の笑みを受かべ、力強くサムズアップした。 


「やったぜクソッタレ!そこのお前ら愛してる!今夜は寝かさねぇぜ!乱交と行こうじゃねぇか!!」

「「「死ね!!!」」」


 ハンガーに男たちの声が響き渡った。 

ACのメカニックってどうなってるんだろう

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