1-3-2 what i feel
マコトは毒づきながら左腕に装着された物理ブレードを地面に突き刺し、機体のバランスを一瞬だけ取り戻すと戦闘システムをフルマニュアルに変更。システム的にロックされていたクイックブーストを発動させた。
『今意地悪しましたね!?』
「今そんなこと言ってる場合!?」
――バランサーが機能していない場合、クイックブーストによる加速は只の自殺と変わりありません。
そう技術者から念を押すように言われていたのは何時のことだったか。
27はジェネレーター容量が許す限りクイックブーストを連発し、まるで人の手に追われる蝿の様に不規則な三次元軌道を画いて大きくその場から離脱。遠くから放たれたプラズマ弾を回避することは出来たものの、ジェネレーターの残量がレッドゾーンに入るとその制御を失い、一番高い廃ビルに激突し盛大な粉塵を上げる。
『脳の負荷が高まっています。補助脳の起動は?』
「まだ必要ない」
――脳以外が完全に機械化された貴様らのその身体はMMCVの操縦のみにその意義を持っている。強化手術とはそういうものだ。人間の兵士という運用は求められない。只の部品としての性能を発揮せよ。前に進んでただ殺せ。
マコトの脳裏に何時かの言葉が蘇る。
(冗談じゃない)
そんなことを言っていた教官の最期を思い出しながら、マコトは27の姿勢を制御するべく操作を続ける。
『火力支援開始。46センチ砲着弾まで110秒。退避ポイントをハイライトします。まぁマニュアル操作も出来ちゃうマコトにはラナのサポートは必要ないのかもしれませんが』
「意外と根に持ってる?戦場だよここ?……戦闘システムオートモードに変更」
『やっぱりマコトにはラナが必要なんですね。ええ、分かってますよ』
「そのうぜぇやり取り何処で覚えてくるの?」
『ママからですが?好きなんですよね?こういうの?』
「あのクソ野郎」
やり取りの間に再度プラズマ弾が飛来するが、半分ほど回復したジェネレーター容量を確認してからクイックブーストを一度発動、ビルの側面を破りながら27は空中へ脱出。少し遅れて着弾したプラズマ弾がビルのフロア数階分を丸ごと蒸発させ、自重を支えられなくなったビルは倒壊してゆく。
『新型が移動を開始しました。射撃来ます』
「今度は当てさせない。射線を切るようルート選定」
『了解しました』
新型への攻撃を完全に諦めた27は迫りくる46センチ砲での火力支援に巻き込まれないよう、クイックブーストを交えてエンブリオから大きく距離を開ける。途中、退避ポイントまでの経路にいた中型エンブリオからのプラズマ弾を回避、その近くにいた小型エンブリオを左腕の物理ブレードで切り裂くと新型からの射撃が襲い掛かる。
弾丸は2棟の廃ビルを簡単に貫いた後、27を大きく外して通り過ぎる。
『新型は近距離以外での射撃精度はそれほど高くは無いようです。距離を取って動き続けましょう』
「この状況で仕留めるには骨が折れそうだね」
マコトはそう言いながら27を表示されている退避ルートに向かわせる。46センチ砲弾着までには十分な時間の余裕がある。
『弾着まで後30秒』
「さぁ、もう少し頑張ってみようか。頼りにしているよラナ」
『勿論任せて下さい、マコト』
「まぁ、もし生きて帰れてもその後が大変そうだけどね……」
『それについてラナは戦力にはなれません。ロスヴァイセにしっかりと怒られて下さい』
激しくなる攻撃を回避しながらマコトは溜息を一つ吐いた。
現状では最高の打撃力を持つ46センチ砲の火力支援とは言え、ある程度の近距離に着弾しなければ小型はまだしも、中型以上のエンブリオを大破させるには至らない。引き起こされる爆炎は、特に熱に強い金属生命体と判明しているエンブリオにとってはそれほどの被害を与えることは出来ないことも判明している。自力で大気圏に突入してきたことからも明らかだった。
エンブリオを破壊するなら単純に運動エネルギーという力が必要だ。散会しているエンブリオ全てにどの程度の有効打を与えられるかは疑問だったが、体勢を立て直す位の時間はまず間違いなく得られることだろう。
『新型とロスヴァイセ、どちらが手ごわいでしょう』
「……それは不適切な発言です。ログから消去」
『なるほど。学習しました』
「こんなこと話している場合じゃないんだけど」
『全くですね。では真面目に戦闘してください。どうぞ』
「うちの戦術AI可愛げがない」
無駄口を叩いてはいるがマコトに余裕があるわけでは無い。何時もと同じ、生きるか死ぬか。
独立傭兵の使われ方に慣れているだけだ。
『弾着、5秒前』
「弾着後、再突撃を行う。アンカー及びパイル使用、対衝撃体勢準備」
『了解しました。ここまで来たら生き残りましょう』
27のコアからアンカーが射出、地面に深く突き刺さる。直後に脚部を折り曲げたあと、ワイヤーを強力に巻き上げ機体をロックする。同時に脚部からのパイルも地面に突き刺さった。回避手段を失ったこの瞬間が狙われないようあとは祈るだけだ。
幸い、僅かな間が空いて交戦地点からやや離れた場所に46センチ砲が弾着、大きな爆炎と強大な爆風を伴いながら付近一帯に破壊を撒き散らす。
『レーダー障害発生、発熱によるジェネレーター出力低下。脚部ブースター一部破損、メインブースター出力10%低下』
「衝撃波をやり過ごしたらアンカー回収、パイル収納」
『障害消失、残存エンブリオ新型1中型1小型6』
「意外と巻き込めたな。攻勢に出る。補助脳起動、戦闘機動開始」
『……新型中破確認、領域から離脱していきます』
「完全撤退まで補足継続」
『了解』
爆風に大きく機体を揺らされながら27はアンカーを回収、背部のメインブースターの出力を上昇させるが、ジェネレーター出力の低下からか時折むせ込むように明滅していた。
『エンブリオからの攻勢再開』
ラナの声には答えず27は脚部のパイルを収納しクイックブーストを連発、一番近い小型エンブリオへと強襲。
爆風で転倒しているその小型エンブリオはレーザーを乱射するが、補助脳のアシストによりクリアになった思考と視界で27は円弧の軌道でそれを回避、背部から物理ブレードを突き刺し離脱。
レーザーが降り注ぎ、プラズマ弾がその穴を縫うように飛来するが27は通常機動でプラズマ弾だけはしっかりと回避、幾条かのレーザーには被弾をするも次のエンブリオへの強襲のためにクイックブーストを再度連発していく。
『新型戦闘領域から離脱』
「新型はレーダー範囲外まで補足継続、残りは殲滅する」
補助脳の使用により高まった脳圧と脳の温度を下げるために冷却装置が稼働したマコトの目は結膜は赤く濁り、両耳の穴からは冷却材である透明な液体が流れだし、ヘルメットの僅かな隙間を伝いパイロットスーツを汚し始める。
「01」
マコトのつぶやきと共に、補助脳は予め組み立てられた通りに機体を操作、変則的な立体軌道を取りながらエンブリオを切り裂いて行く。
「04」
ジェネレーターのレッドゾーンギリギリまでを使う機動を参照。現状に合わせたプログラム調整のために脳圧は急激に高まり、両耳からの冷却材が流れ続ける。そうしてパイロットスーツを伝う冷却材は何時しかコックピットの床を汚していた。
機体からはアラートが途切れない。
ブレードを振るうたびにエンブリオはその数を減らしてゆく。
『ジェネレーター、ブースター限界間近……。周囲に動体反応なし。エンブリオ殲滅完了』
「00」
マコトはそう呟くと大きく息を吐く。プログラムがリセットされる。
『助かりましたね』
「補助脳起動解除。……流石に死ぬかと思った」
『何故新型が離脱したのかは気になりますが』
「……今はとりあえず無事に帰ることだけを考えよう。難しいことを考えるのは企業の仕事だ。こっちは修理費だけ考えておけばいいさ」
そのやり取りの後、マコトは艦隊へ依頼完了の通信を行った。
46センチ砲はロマンがあることだけ知っている




