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エンブリオ  作者: あおねこ
ユーラシア大陸での決戦
4/4

1-3-1

 敵性金属生命体「エンブリオ」は鉱物を好んで摂取し自己を増殖、分裂を行いその勢力を拡大することが確認されている。ただし、それだけの情報を得るまでに人類は、長い年月を掛けることになった。無論、多大な人命を含む犠牲も含めて。

 

 人類が与えたその時間は、あの日地球に落下した5つの個体に対して十分な勢力を生み出すことを許してしまった。そして、現在では破壊された人類の文明の跡から十分な情報も与えたことも予測されている。

 

 敵性金属生命体「エンブリオ」は人類が初めて接触した地球外知生体でもあった。



『マコト、地中から高速移動体を確認。恐らく中型ほどの個体と思われます。……データ照合出来ません。新型のエンブリオかもしれません。警戒を』

「地中から?地図では地下通路は?」

『データベースにはありません』

「……まずは情報収集を。行けるなら行く」


 飛び交うレーザーとプラズマ弾をクイックブーストで回避しながら、27は右腕の物理ブレードで少なくなった小型エンブリオをまた1機撃破する。


『新型は自機後方まで地中を進んでいくルートを取っています。挟撃に警戒を』

「……速度が速い。依頼元には地下の確認の必要性を通信しておいてくれ」

『了解しました』


 HUDの戦術マップに更新されたエンブリオの位置が表示される。中型残2、小型残8、地中からの不明中型1。

 残った小型のエンブリオは27を扇状に包囲するよう配置されている。この行動は初期には見られないものだった。


 27は脚部ブースター出力を調整したクイックブーストを連発しながら弧を描く様に加速し、完成しかかっているエンブリオの半包囲から一度大きく離脱をする。MMCVの背部装甲は前面に比べるとかなり薄く、ブースターなどの機能部品も存在しているため背部への直撃は戦場では致命傷となる。今までの交戦記録からエンブリオはそうした特性を学習したものと考えられた。ただ、その包囲戦術は未だ稚拙であり、多くの遠距離攻撃主体のMMCVは僚機との連携と、その行動を逆手に取る事で優位を取ることが出来ていた。


「学習ってのは全く厄介なもんだねぇ……!!」

『ラナもバリバリと学習していますよ』

「本当に厄介だ……!!」


 27にとっては距離とは詰めるものであり、広がっていく距離は負債そのものである。物理ブレードによる格闘戦が主力のため、接近し撃破した後に生まれる隙をつくレーザー射撃からいち早く離脱し、次の獲物に接近を繰り返すしかない。ある程度の距離を取り合うエンブリオの包囲陣形に、マコトは徐々に手を焼くようになっていた。

 27の回避行動により距離が開いたエンブリオは反撃に転じ、一斉掃射を行った。盾にした廃ビルがプラズマ弾で蒸発し、追い打ちをかけるレーザーをクイックブーストでやり過ごすのと同時に、クイックブースト発動前の27がいた道路のやや後方を下から突き破り新型のエンブリオが飛び出した。その距離約200メートル。


「人……型……!?」


 造形こそ前衛芸術の様に、見たものによって評価が分かれそうではあるが、頭部には僅かな凸型の膨らみが載せられ、二本の腕と二本の脚を持つその新型は、明らかに第二世代型MMCVを、人型を模して造られていた。

 そして、その右腕にはライフルを模したのだろうか、筒状の何かが、人で言う所の前腕外側に融合して装着されていた。今まで確認されている中型のプラズマ弾を投射する機構とは全く違うものだった。

 その銃口が27に向き。


『直撃予測』


 マコトは悪態をつくのを堪えながらクイックブーストでその場を離れようとしたが、一瞬早く新型エンブリオの銃口から空気を切り裂く音を立てながら「何か」が吐き出され、27のコアパーツを直撃した。明らかに中型エンブリオから放たれるプラズマ弾の速度を2倍以上上回っている初速だった。

 幸いコアに深く、大きな傷跡を残しながらも装甲は貫通せずに跳弾した「何か」は、空に向かい消えていくが、残された衝撃で大きく姿勢を崩す。

 

「実弾!?」


 オートバランサーがレッドアラートを吐き出すのをHUDの端で確認する。


『バランサー復帰まで2秒。クイックブースト使用不可』


 新型エンブリオの銃口はまだ27に向けられている。

 マコトは後方に弾かれるように吹き飛ばされた姿勢を無理矢理制御し、右肩の追加装甲をその銃口に向けながら今まで使っていなかった左腕武装のライフルをFCSの二次ロックを待たずに乱射する。

 

 同時に新型エンブリオの銃口からも再度銃弾と思われる「何か」が発射された。

 

 二射目で決めるつもりだったのか、新型エンブリオが放ったそれは必殺の気配を纏っていた。

 だが、乱射したライフルが与えた衝撃か、悪あがきの姿勢制御が幸運の女神に指先を触れさせたのか、今までとは違う攻撃手段に新型エンブリオが慣熟してなかったためなのか。

 理由は不明ではあったが、幸運にも27は発射された「何か」を追加装甲で受け止め、再度コアへの直撃という最悪の事態「だけ」は回避することに成功した。


 増加装甲に直撃した「何か」は、コアと比べると厚みが違うとはいえ同様の強度を持つ装甲を食い破り、その直線上にある右腕の肩まで到達すると残されたその運動エネルギーをぶちまけた。


 コアとの接続部に近いため、装甲が先端に比べると厚く設計されてたことが功を奏したのか。激しい衝撃を受けながらも、右腕を損失するまでとは至らなかった。とは言え、右腕へのジェネレーターからの電力供給及び機械的接続は破壊され大破の判定。はじけ飛ぶように後退した27と新型エンブリオとの距離は更に開き、HUDにアラートが幾つか追加される。


『右腕大破』

「左ハンガーからブレード用意!ライフルパージ!」

『完了』

「ああこれ帰ったら絶対ロスに怒られるなぁ!!」

『左腕武装パージ及びブレード装備完了。バランサー復帰まであと3秒。中型からのプラズマ弾直撃予測』

「火力支援の要求!!仕切り直すまでの時間が欲しい!!」

『火力支援要求完了しました。マコト、今までありがとうございました』

「うちの戦術AI諦めるの早くなぁい!?」


 戦術AIオペレーターのあっさりとした発言にマコトはコックピット内で大声で叫んだ。

武装はパージするもの

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