1-17 Fly
台南地区に発生したエンブリオの小型コロニーは27によりあっさりと壊滅させられた。ラナが言う通り「容易い」仕事であった。
「……俺の体はどうなってるの?」
『あなたは既にこちら側ですよ。マコト』
マコトの意識は研ぎ澄まされていた。低出力ではあるものの、まるで常時補助脳を起動しているかのように体感時間が間延びしていた。その症状に覚えがなく、マコトは薄ら寒さを感じている。
「一応人間のつもりなんだけど」
『そんなものは直ぐに辞めてしまいましょう』
エンブリオコロニーの殲滅後、防衛部隊との交戦を行ったが、素人相手とは言え7機の第二世代型MMCVを大破させた挙句に、ほぼ無傷での完勝。マコトはそこではっきりと自覚した。自分の何かがおかしくなり、何かが致命的に壊れかけている。
HUDにハイライトされたミッションの目的地までの距離はあと僅か。山岳地帯に隠された防衛兵器群からの攻撃を回避しながら、出力の上がったジェネレーターに物を言わせてオーバーブーストで矢のように空を駆け抜けていると、明らかな人工物が視界に入る。
『警告。領域内でMMCVの起動を確認しました。これは』
ラナの警告とほぼ同時にMMCVが建物の壁を破壊しながら現れたかと思うと、砂煙の中から青いレーザー光が数条瞬いた。
小型エンブリオからのレーザー攻撃に酷似しているが、口径がやや大きくなり収束しているそれは、27のコアに直撃した途端に熱暴走を表すレッドアラートが表示される。
『ジェネレーター出力大幅に低下、ブースターオートカット、墜落します』
「今のはなんだ!?大型でも来たのか!?」
27の姿勢が一瞬にして崩れ、電力不足のため非常灯が照らし出すコックピットの中でマコトは叫び声をあげる。
『ラジエーターに出力を抽出中……補助ブースターの制御再開します』
「激突死は流石にしたくないね!」
脚部のサブブースターから弱弱しく赤い焔が揺らめき始め、若干ではあるが墜落のスピードが弱まるが、眼前に迫る山肌との相対速度においては焼け石に水といったところだった。
『ジェネレーター出力30%ほど回復。メインブースター出力上昇、高度上昇させます』
ラナの声と共にパイロットの事を無視した、慣性とは逆方向への推進力が産み出されると同時に、速度が大幅に殺され、失っていく高度も急速に回復してゆく。山肌と激突するかは進路次第という所だ。
「どこに行けばいい!?」
『進路を送ります』
マコトの頸椎から伸びるケーブルへと、ラナから情報が注ぎ込まれる。
視界に示された進路に向かいマコトは27を無理矢理に操作するが、ついに尾根にそびえる木に27の左脚部が接触、大きくバランスを崩してしまう。
『そのままの進行方向で構いません』
何本かの木を破砕しながら落下してゆく27は地面に接触するよりも早く、大きな湖へ着水し盛大な水しぶきを上げる。
「確かに山肌に直接激突よりかはマシかもしれないけど……!!MMCVの防水ってどうなの!?」
『中途半端ですね』
「すっごい嫌な返答来たな!?」
とは言え、湖水は平面であり高低差は存在しないため、両脚部の半分ほどを沈めながらも、上昇し始めたジェネレーターからの出力がメインブースターに注ぎ込まれ、無事に湖畔へとたどり着く。
「ああ、本当に死ぬかと思った」
『ラナの事を褒めても良いですよ』
「誉めるだけならタダだしまぁ……」
マコトはそう言いながらモニターの戦術マップに目をやると、目的地点よりかなり逸脱した場所へと不時着をしたようだった。レッドアラートは未だ継続中だが、機体の熱暴走自体は収まっていた。
『脚部及びサブブースター、コアパーツの自己診断終了。戦闘継続可能です』
「……それは有難い事で」
溜息を一つ吐いた後、マコトは軽く27の動作テストを行いながら思案する。
「……さっきの奴は何だと思う?大型ではないことは確かだとして」
『恐らくはUNIONの開発した新型MMCVでしょう。カメラの映像を分析していますが、確認できる範囲では該当するパーツ類が見当たりません』
「厄介なのが出て来たなぁ。そもそもレーザー兵器とか、SFの世界の武装じゃないか?」
『エンブリオは正しくSF寄りの存在ですよ』
「……そうなんだけどさ。MMCVからレーザー撃たれるとか考えたことも無かったよ」
『倒せますか?』
「どうにかするしかないだろう?」
『射撃戦では圧倒的に不利ですね』
「そうだ。どうやって接近するかだが……。突撃するしかないよなぁ」
『毎回それですね。戦術立案のし甲斐がありません』
「分かってるから言わないで……」
マコトはレッドアラートが消えたモニターを確認した後、マコトは27を尾根の方へと向けた。
突撃!突撃!突撃!




