1-15 collared mad dog
時は少し巻き戻る。
マコトはKATANA社からの指名依頼を受け、輸送船で台湾島へと向かっていた。
その輸送船上、MMCVを固定するトレーラーに乗せられた27のコックピットで、マコトは機体のチェックを行っていた。
「ラナ、ブースターのパラメーターが変わっているけど何かした?」
バイザーに表示されるHUDに目を通していたマコトが思わず、といった様子で声を上げた。機体諸元のパラメーターの中、メインブースターの出力と予想されるクイックブースト、最高速力の値が明らかに以前の数値よりも上昇している。
『ええ、前回の交戦を踏まえて出力を調整しました。推力が5%ほど上昇しています』
「その割にはジェネレーターへの要求量も減っているみたいだけど」
続けて目に入ってくるのはジェネレーターの効率の値。当たり前のことだが、同一のパーツで出力を上昇させるのであれば、当然それに釣られて増加するはずの要求エネルギー量がなぜか以前よりも低下している。
『そこはコックピット内の慣性制御用の電力を大幅にカットしました』
「え?俺の事殺したいの?」
なぜか自慢げなラナの声に、マコトは思わずびっくりした声を上げる。
クイックブーストが搭載されるようになった2世代型のMMCVのコックピットは、パイロットの命を自身が産み出す慣性から守るために、ある程度その進行方向へと姿勢を制御し、衝撃を殺すための油圧と機械式の回転式ダンパー機構が搭載されている。まるで卵の黄身のように見えるそれは、yolk-systemと名付けられているが、パイロットからは殺し切れない慣性を皮肉ってhard-boiled等と呼ばれている。
どうやらその機構がラナにより、殺されているらしい。
暫くの間があった後、ラナの声が再びコックピットに響き渡る。
『……いいえ、あなたはもう随分と適応していますので問題ないと判断しました』
「適応?……ああ、ああ。そういう事」
『ええ。そう判断しました』
通信が切られたコックピットの中で、マコトはラナの声を聞きながら一つ溜息を吐く。
『喜ばしい事ですよ』
「そうかい?」
『ええ、全く。あなたは私の子供ですから』
「子供ねぇ」
マコトは気のない返事をしながら淡々と機体チェックを再開した。ロス達が時間をかけて整備を続けた27にハード的な不備は全く見られなかった。
『ではミッションを連絡します。台湾島、台北北東にあるUNION施設の中枢にある研究施設の破壊です。防衛部隊の排除後、速やかに施設へ侵入、開発中のMMCVの破壊を確実に行って下さい。その後は指定された電源設備を破壊、脱出してください』
ラナの声がコックピットに響き、モニターに新しいミッションの概要と戦術マップが表示され、赤くハイライトされた目的地点が浮かび上がる。
想定される防衛部隊は第二世代MMCVが5から8機。既に何機かは台南方面へ防衛任務で出撃している想定とのこと。
「……正規の依頼をこなしてから、だな」
『ええ、勿論です。まずは台南地区の小型コロニーを殲滅しましょう。今のあなたには容易いはずです。期待しておりますよ』
「……期待はし過ぎないで欲しいものだね」
『死なせませんよ。私の宝物』
「それは有難い」
『さぁ、行きましょう。狂犬。飼い主にさえ噛みつくあなたが私には必要です』
「まったくもって不名誉な通り名だよ。でもまぁ」
そこでマコトは一度口をつぐむ。そして大きく唇を歪めてから言った。
「こんな体にされたんだ。責任は取って貰わないとね」
ギシリ、と機械のこぶしが音を立てて握りこまれた。
ストックが無くなりました!




