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エンブリオ  作者: あおねこ
ユーラシア大陸での決戦
18/22

1-13 take me higher

 マコトがガレージに戻り1週間が経ったころ、企業からメールが届いた。

 内容はマコトが防衛に参加をした、旧中国領での拠点が壊滅したことを告げるものだった。

 指揮官を務めるメイ・メリーが搭乗するANTELOPEは大破したが、パイロットは一命をとりとめたとのこと。追加で防衛に当たっていた3機のMMCVも同じく大破、そちらのパイロットの生存は絶望的とのことだった。

 戦艦を含む船団は無事だということだが、一部の艦艇はドックに入り補修が必要な状態とのこと。


「どうやら大型が出てきたらしい」


27のコックピットの中からマコトはそのメールの内容を読み上げている。


『……一歩遅ければ私たちも巻き込まれていたという事か。それでまさか大型を相手に何とかして来いという内容ではないだろうな?』


 それをヘッドセットで聞いていたロスからの返事がノイズ交じりに返ってくる。


「それこそまさか、だよ。大型の相手をするには頭数が必要だ。何もさせずに押しつぶす位のね」


 大型エンブリオはこれまで人類の戦線を幾度となく下げてきた難敵だった。

 今まで突撃型、支援型、防衛型と呼ばれる種類が確認されており、いずれの種類に関しても圧倒的な耐久力と火力を誇ることが分かっている。

 本来であれば高火力を持つ2世代型MMCVが最低でも4機、出来れば10機以上で囲み、飽和攻撃を行うことで圧殺することを推奨されている相手である。


「残念ながらあそこの拠点はもう駄目だろう。海岸線を取られた時点でもう船は近づけない」


 遮るものの無い海はエンブリオのレーザー射撃の得意とする戦場だ。特に体高が10メートルを超える大型からの有効射撃は、天候にもよるが30キロメートルに迫る。46センチ砲を持つ戦艦が最大仰角で射撃を行えばそれを上回る射程を取ることもできるが、コストを考えると企業がそれを率先してやりたがるとは思えなかった。


『ふむ、それで?』

「あの入れ替えでやってきた2世代型MMCV3機が抜けた穴を埋めて欲しいと」

『お前ひとりでか?』

「新人3人の穴なら埋められるだろうってさ。随分と高く買ってくれてるみたいだね」


 それとも「27」の名前が売れてきたのかもな――。そう小さく呟いたマコトの声はロスには届かなかった。



「新型が運び込まれました」


 秘匿された通信室の皮張りの椅子に座り、煙草を吹かすスーツ姿の初老の男の横に、いつぞやの神経質そうな若い男が紙の資料を片手にやって来る。


「ようやく届いたか。よくやった」


 初老の男は神経質そうな男から資料を受け取るとねぎらいの言葉を掛けた後、暫くその資料に目を通していた。


「うむ。では契約通りに進めろ」

「分かりました。そのように手配いたします」

「あれからの通信は?」

「間もなくと思われます」

「では待とうか」


 初老の男はそう言うとゆっくりと煙草の煙を肺に入れ、ゆっくりと吐き出した。

 それを幾度か繰り返していると、目の前にある机に配置されたターミナルのモニターに通信接続開始の文字が浮かぶ。


『ハローミスター。ご機嫌は如何?』


 スピーカーから聞こえてきたのはされた合成音声で作られた女の声だった。


「随分と待たされたよ。見たまえ、この白髪を」


 初老の男はまだ火が燻る煙草を灰皿に押し付けると、白髪の混じった髪に指を通す。


『ミスターは冗談がお上手ですね』

「君らほどではないがね」


 口角を皮肉気に釣り上げた初老の男はそう言うと肩をすくめる。


『ミスターは皮肉もお上手な様で』

「それほどでもないさ。ではここからは真面目な話をしよう」

『ミスターはせっかちですね。まぁ良いでしょう』

「我々商売人は時間を尊ぶのだよ。それで、もう聞いている事とは思うが新型を手に入れることが出来た。それをそちらに送るということで良いのだな?」

『ええ、ええ。素晴らしい。随分と犠牲を払ったのでは?』

「勿論だとも。それを得るために随分と尊い人命が失われたし、最後には部隊が一つ、まとめて潰されたよ。大損だ」


 そう言うと初老の男は片手で仰々しい仕草で目を覆い、椅子の背もたれに体を預ける。だが、手に隠れていない口元は三日月のように歪んでいた。


『その割には随分と嬉しそうですが?』


 女の声に初老の男は目を覆っていた手を顎へと動かし、短く息を吐く。老人特有のやや濁った瞳の水晶体は爛々と鈍い光を放っている。


「とは言え、それだけの犠牲で済んだということだ。君からの協力が得られるのであればその損害は取り戻せる。そうだろう?」

『勿論ですミスター。怖いお人。そうでなくてはなりません。では私は何時もの通りにそのお手伝いをさせて頂きます。あなた方とこのまま良い関係を続けていきたいものですね』

「ふむん。まったくもってその通りだ」

『では何時もの通りに試作品が出来ましたらそちらにご連絡いたします』

「よろしく頼む」

『これからも宜しくお願い致しますね。それでは御機嫌よう』


 その言葉を最後に通信が切断された。

 神経質そうな男はその後ターミナルで幾つか操作を行い、時間をかけ何らかの確認を行ったあと口を開く。 


「会長、お疲れさまでした。通信履歴は全て削除完了しております」

「ああ。あれの相手は流石に疲れるな。だがせっかくの機会だ。もう一つの面倒事も終わらせてしまおう」

「……『亡霊』共の一部が旧中国領で何かをしているという、あれですか?」

「そうだ。なぁに。何を考えているかは分かっている。我々と同じことを考えているのだろうさ」

「それでは動きますか?」

「そうなるな。下部の組織にもいつでも動けるように伝えておけ。私は少し休む」

「了解いたしました。直ぐに手配を始めます。お疲れさまでした」

道民にとってのミスターはただ一人

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