1-12 I'm scary
マコトは依頼期間を満了し、ロス達メカニック数名と北海道にある拠点へと帰還していた。到着に合わせて待機していた人員は27を移動用トレーラーでハンガー内へ搬送、損傷した各パーツの修理、交換が始まっている。
マコトはと言えば、義体から首だけを外された状態でロスに持ち運ばれながら医務室へと直行させられていた。
幸いなことにあの新型との交戦の後にエンブリオからの増援は無く、肩透かしを防衛部隊は食らうことになった。その後も暫く襲撃は無く、新型との交戦による機体のダメージが思ったより深刻であったことも今回の帰還の要因の一つかもしれなかった。
マコトが思っていたよりもあっさりと、使い潰されることも無く依頼達成の連絡が企業から入り、タイミングを計ったかのように後任の2世代型MMCV3機が入れ違いで防衛に就くこととなった。
その時のほっとしたような表情で胃のあたりに手をやったメイ・メリーの事を思い出し、マコトは医務室で吊るされたまま微かに笑みを浮かべた。あの苦労性の指揮官はまだ頑張っているのだろうか?
「何を笑っているんだ」
「……いや、漸く帰って来れたなって思ってさ」
「……ふん」
ターミナルの上で手を動かしながらそれを横目で見ていたロスが小さく鼻を鳴らす。
「確かに新型エンブリオの完全撃破はお前が初めてらしいな。他の部隊は撃退までが精一杯だったようだ。掛け値なしに勲章ものだよ、お前は」
「そう?みんなも物理ブレード持って格闘戦すれば良いのに」
「お前みたいな変態は一人で十分だ。メカニックが過労死する」
「変態……」
ロスの言葉にマコトは首から上だけの格好だったが、雨でずぶぬれになった野良犬の様な雰囲気を一瞬にして醸し出し、視線を床に落とししゅんとした。
それを見たロスは慌てて咳ばらいをするとターミナルから手を離し、マコトの方を向くとその両腕を胸の前で組む。
「まぁ、その、なんだ。……格好良かったぞ。だからそんな顔をするな。私が悪いみたいじゃないか」
そういった後ロスは直ぐにターミナルへ向き直り、ターミナルの操作を再開する。少し遅れてマコトが視線を上げた時に見えたのは少しだけ紅潮したロスの横顔だけだった。
「仕事の話に戻ろう。新型撃破の特別報酬の事もあり大分資金にも余裕が出来たところだ。ステロイドは少し多めに購入しておくとして、何か機体の方で揃えておくべきことはあるか?」
「んー。ラナがUSASSの肩グレネードを欲しがっていたけど」
ロスの質問にマコトが思い出したように口を開くとターミナルの画面が勝手に動き始め、USASSのオンラインショップに繋がり、重肩グレネードUS-HVM79-03のページが表示される。
「バラストになるしやっぱり要らないかな」
続く言葉でターミナルには大きな文字で放送禁止用語がポップアップするが、ロスは静かにそれを消去する。
「一段落したらメカニックたちにボーナスとついでに休暇を。壊しちゃったライフルの同型を手配しておいてほしい」
「……なんとまぁ有難い雇用主だ。だが、ある程度の人員は残させてもらうぞ。その者たちには多少ボーナスに色を付けて欲しいが良いか?」
「構わないよ。で、ロスはどうするんだい?久しぶりに休暇でも楽しんできたらどう?」
「あぁ?」
「ボーナスに期待してね」
「期待させてもらう」
そのやり取りの後、ロスは暫くターミナルの情報に目を通していたがあるデータに目を通すと、その瞳を鋭く細め絶句した。
ターミナルには埋め込まれた外部記憶装置に据え付けられているセンサーからの医療情報で、脳の炎症反応が酷く大きな値となっている事が告げられている。常人であれば死に至るほどのその異常な数値は、既にどこかが壊死を起こしていることを暗に示していた。
「――っ」
マコトの脳が壊れ、そして当たり前に死んで行く。
その事実を目の当たりにしたロスは口を開き、何時ものように軽口を叩こうとして声が出ないことに気が付いた。そして、いつの間にか自分の体が小さく震えていることにも気が付いた。
首だけを吊るされたマコトは、不思議そうに口を開き何も言わないロスをただ見つめている。
ターミナルに置かれた指先に思わず力が入り、5つの極彩色の歪な円を生み出したモニターに再びポップアップが表示され、ロスは思わず視線を誘導される。
『順調です。問題ありません』
その文字にロスは一度大きく息を吸い込むが、体の震えは止まらなかった。
「お前も少し休むと良い」
それだけを告げると奥歯をきつく噛みしめることしか出来なかった。
戦場より日常パートで死にそうな主人公可哀そう




