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マコトとそのメカニックたちが旧中国領侵攻の橋頭保作成予定に到着してから既に3週間、21日が経過していた。
到着初日からエンブリオの強襲が始まり、既にその後4回の襲撃が見られた。いずれも、メイ・メリーが陣頭指揮を執り拠点の防衛に成功している。
ただ、度重なる襲撃による部隊の人的、物的消耗も発生しており、常に緊張を強いられる部隊は消耗戦の様相を呈していた。
『現在の部隊損耗率は僅か5%以内とは優秀ではないか、メイ・メリー』
「――っ、ありがとうございます。ですが、エンブリオの度重なる襲撃により部隊内の士気は徐々に低下しつつあります。装備品はともかく、人的資材の補充をお願いいたします。追加の2世代型の手配も是非ご検討を」
『ああ。勿論分かっているとも。既に物資と後方支援員を乗せた部隊を編成している。あと二日ほどで到着予定である。』
「ありがとうございます。2世代型については?」
『申し訳ないが現在はいずれの地域についても当社の2世代型の戦力を抽出することは出来ない。それなりの高い金を払っている狂犬をうまく使いつぶしてくれたまえ』
「――っ」
馬鹿野郎。そいつの所為で胃に穴が開きそうになってるんだよ。
メイ・メリーは心の中で悪態を吐く。
「分かりました。現状の戦力で出来る限りのことは行います」
『あれは我々の首輪こそついていないが中々に優秀だろう?そろそろ君もあれの使い方を理解したことと思っている。期待にしっかりと応えてくれたまえよ』
「――了解しました」
メイの脳裏に浮かぶのは、赤い目をして首だけを吊るされたMMCVのパイロット。
あいつは凡そ身体の95%が機械化されていた。
正直なところ、人間を捨てきったあのパイロットに憐憫と恐怖を感じている。
『それと、エンブリオの動きに報告があると言っていたな』
「はい。襲撃のたびにその規模が徐々に大きくなっています。襲撃における部隊数や編制等。今はまだ大型は現れていませんが、まるでこちらの戦力を試しているかのように感じています」
『……ふむ。威力偵察と言ったところかね』
「その通りです。正直なところそう考えるのが無難でしょう。まるで品定めをされ、弄ばれているようで不快です。今までの襲撃に使用された戦力を一度の襲撃にまとめてぶつけられた場合、恐らく部隊は全滅しかねません。そしてそれは恐らく可能でしょう」
『……エンブリオの戦略が稚拙であり、戦力の集中が行えていないのではないかね?』
「その可能性も勿論あるでしょう」
『ああ、気分を悪くしないでくれたまえよ?君の報告を受けながらもそう考えなければならないのが私の仕事だ。本部へ持ち帰り判断しよう』
「分かっております。有難う御座います」
『……ああ。ところで新型は現れたかね?』
「データーベースに追加された実弾を使用するというエンブリオについては、報告書の通り現在遭遇はしておりません」
『そうかね。別の部隊が新型に全滅させられたという報告も上がってきている。十分に注意してくれたまえ』
「了解いたしました」
『ではこれで定時報告を終了する。頑張ってくれたまえ』
通信を切った後、メイ・メリーは床に唾を吐き捨てた。
マコトは27のコックピットの中で、HUDに表示される地図情報を眺めながら警戒任務に当たっていた。ポイントD-4にある拠点から北方向にある、ポイントD-3地点の防衛ラインが担当だった。
エンブリオの襲撃は今までで5回。その規模は徐々に大きくなり、前回は小型は48体、中型は12体とほぼ中規模コロニー判定に足を突っ込みそうなほどの戦力となっていた。
それでも戦艦からの援護やメイ・メリーが率いる防衛部隊の奮戦で、何とか撃退することが出来ていたのは、ひとえに彼らが優秀であるのだろう。定期的な輸送船からの人的、物的支援も痒いところに手が届く印象を感じられた。ロス達メカニックもある程度満足できる環境らしい。
「とは言え、ねぇ……。これ、企業の本気じゃないよな」
マコトは送信機能をミュートしながらつぶやいた。
『ええ。マコトの考えに同意します』
ミュートがオンになったことで周りに聞かれる心配がなくなったのだろう、ラナがマコトに話しかける。
「だよなぁ。確かに拠点化は進んではいる。防衛部隊の数も増えては来ている。でも肝心の2世代型が足りてない」
『KATANA社所属の2世代型は少なくとも4機確認できていますが、残りの3機はアメリカ大陸での作戦に従事しているようです』
「はぁー。激戦区にねぇ」
『その他の他社のMMCVも多数参加していますが、戦線は膠着しているようです』
「へー」
『とは言え。企業であれば新人2世代型の余剰戦力はあるでしょうに。何故投入しないのか理解出来ません』
「うん。ごもっともなんだけど人間ってやつはどんな状況でもお互いの足の引っ張り合いをするからねぇ」
『他企業への牽制ですね。この地球がほぼ詰んでるの理解してないんでしょうか』
「さぁねぁ。それでも止められないのが権力の甘い力ってやつなのかもね」
『それで滅んでしまっては元も子もないでしょうに』
「滅ぶという意味の定義の仕方なのだろうね。お偉いさんたちの」
『不便なものですね。人間は。自己の複製が出来ないことは本当に不便です』
「それが出来るならもう人間の定義を超えているよ。少なくとも今のところは。未来のことは知らないけどね」
『その未来が残っていればそんな定義も出来るのかもしれませんね。さてそろそろ報告の時間となりますよ』
「サボりすぎるとメイに怒られるね。仕方ない。しっかりと働くとしよう」
『お気をつけて』
マコトは送信機能を復帰させるとHUDの情報に目を向けた。
中間管理職は胃を痛めるもの(2回目)




