1-8 joker
旧中国領でのミッションから約1カ月が経過したころ、マコトに一件の指定ミッションが送られてきた。
内容は前回旧中国領でほぼ殲滅したと思われるエンブリオのコロニーを、逆侵攻の橋頭保とするための作戦行動に参加するという物だった。
拠点化を行う為の部隊は既に現地に上陸をしているが、散発的に発生するエンブリオとの遭遇戦により被害が少なからず発生しているため、同部隊の防衛等をしてほしいとのことだった。
ミッションの期間は最低でも28日とそれなりに長丁場となっているため、企業の補給部隊も定期的に本土からやって来るようだが、細かい調整までは望めないだろう。そのためメカニックチームの同行も推奨されているようだった。
因みに、28日以降はそれなりの額で追加報酬が払われるとのことだった。
『どう考えてもマコトの機体は防衛任務に向いていないとは思いますがね。等、の部分の比重が多そうですね』
「俺もそう思うけどね。向こうに来させるのが目的で、現地到着後は良いように使われるだけな気がするよ。この前の新型の相手をさせられることも頭に入れておかないといけないね」
『ええ。ラナもそう思います。ですがガレージのレンタル費用と機体の維持費及びステロイドの購入費用を考えると、そろそろ稼がなければなりませんね』
「だよねぇ。多分足元を見られているんだろうね」
『前回の新型パーツの分しっかりと働けということでしょう』
「本当にただより高い物はないよね」
27のコックピット内でマシンチェックをしていたマコトはHUDに表示されているミッション情報に目を向けていくと、珍しい一文を発見する。
「合同ミッションなの?俺と?」
ミッションの付帯情報には合同で当たることとなっているパイロットとその機体のデーターが表示されていた。
『UNIONのデータベースによると、eclair-ASIAの所属のパイロット、メイ・メリー。機体は4脚中量級MMCV、ANTELOPE。大口径のスナイパーライフルが主兵装で追加レーダーを両肩に増設しています。主に戦場では戦域の情報を収集し更新するなど司令塔として活躍しているようですが、今回のミッションでは拠点作成のための広域地域情報を収集することが主目的とのことです』
「フム。前衛で肩を並べることにならないのならまだやりようはあるかも」
『マコトの戦闘機動は当たり前である撃ち合い中心の機体にはただの邪魔でしかありませんからね。因みにこちらに臨まれている役割は遊撃です。つまり鉄砲玉ですね』
「……まぁそうなんだけどさ。言い方ぁ」
『ブレードを主兵装としているのがおかしいのです』
マコトは言い返したい気持ちを飲み込みコックピットから抜け出すと、ロスを探すことにした。
幸いロスは直ぐに見つかり、指定ミッションについて話したところ、医務室でメディカルチェックを受けながら方針を決めることとなった。
マコトは何時ものベッドに横になり、ロスはターミナルの前に向かいメディカルチェックの準備を進めてゆく。
「機体の方はもう少し調整を詰めたいところだけど、それなりには仕上がっていると思うよ。それで、期間の方はどうなってる?」
『期間は最低でも28日。エンブリオとの遭遇戦が高確率で想定されるため、メカニックの同行を推奨されています』
LANに接続をしたのか、スピーカーからラナの声が医務室に聞こえてくる。
「俺としてはどう考えても危ないからラナ達は残ってほしいんだけど……」
マコトがそう言いかけるとロスから冷ややかな声が被せられる。
「何を馬鹿なことを言っているんだ。一回の戦闘で片腕を吹き飛ばしてくるようなヤツのキメラMMCVを企業のメカニックがどうにかできると思っているのか?もし本当にそう思っているならこれからたっぷりとキメラMMCVの調整の大変さについて語ってやるが聞いてみたいか?それと戦闘一回当たりのブースターの焼損率や両椀関節部の破損率について教えてやるとでもしようか。なに、メディカルチェックはしっかりとやってやるから時間は気にすることはないぞ。ああ、勿論メディカルチェックもどうにか出来ると思っているんだよな?知らない他人にステロイドの調整を任せられるなら大した度胸だと誉めてやろう。これから私が頭をうっかり落としてしまわないよう祈っておいてくれ」
ラナはターミナルのモニターを操作しながらマコトを一瞥もせずに底冷えするような声で淡々とそう言った後、首だけを回して笑顔をマコトに向けた。
『マコト、ごめんなさいをしましょう。せいいのあるごめんなさいをすればゆるしてくれるはずです』
わざわざ秘匿通信を使ったラナが怯えたような声でマコトだけに話しかける。その間も微動だにせず笑顔を向け続けるロスから目を離せないまま、マコトは引きつった笑顔で首を縦に何度も振った。
「んん?どうしたんだマコト。そんなに怯えた顔をして。まだ何もやっていないじゃないか」
「あ、あー。やっぱりラナにも着いて来て頂けますと心強いなぁ、なんて」
「そうだなぁ。そんな危険地帯に行くなんて、か弱い私には荷が重すぎるよう思えるのだがね」
『しんがたいじょうのこわさをかんじています』
ラナの秘匿通信に俺もだよとマコトは叫びたかったが、瞬きすらしないロスの笑顔から目を背けることもできないまま、曖昧な笑みを浮かべることしか出来なかった。
暫くの間、そうして二人は笑顔を向け合っていたが、ロスは一つ溜息を吐いてやや拗ねたような表情で顔を背けた。
「……まぁ、お前の言いたいことも分かってはいるよ。私たちの事を心配してくれていることもな。ただなぁ、私たちもこんな仕事をしているんだ。何があっても覚悟はしているよ」
ロスはそう言うと一つ咳ばらいをした後、少し間を開けて口を開く。
「……ティーンの様な真似をして悪かった。別に困らせたいわけじゃ無いんだ。……だから出来れば連れて行ってくれ。……ああそうさ。勝手に知らない奴らにベタベタと触られてほしくないのだよ。機体も、勿論お前もな。ただの我がままだと分かってはいるんだがね!」
そう言うと少しばつが悪そうに俯いたロスの横にマコトは近づくと、その肩にゆっくりと手を置いた。
「……こちらこそごめんロス。今回のミッションでの拠点は既に建てられているとのことだけど、旧中国領はエンブリオが支配する領域だ。新型の動向も未だに不明だし、絶対に安全とは言い切れないよ。勿論、簡単にはやらせないけど。頼んでいいのかい?」
「……ああ。勿論だ。構わない」
「じゃあお願いするよ。ミッションは受諾してメカニックの同行も伝えておくよ」
「じゃあメディカルチェックも早めに終わらせないとね。横になってくれ。早速始めてしまおう。持ち込む物資についてはこちらでまとめ次第データ化しておこう。任せてくれるか?」
「こちらこそお願いするよ」
「ああ。任せてくれたまえ」
何時もの表情に戻ったロスを見てマコトは小さく息をつくとベッドに体を横たえた。
『成程。これがツンデレという奴ですね』
ラナからの秘匿通信をマコトは聞かなかったことにして目を閉じた。
だから、ターミナルのモニターに浮かんだ『マコトってちょろいんですね』という文字にマコトは気付くことは無く、ラナが指でその文字を消去する操作を見ることも無かった。
チョロい系主人公




