もしも地球にブラックホールができたら
第一章:兆候と噂
東京・海洋研究機構・地下観測室。蛍光灯が薄暗く照らす中、神代博士はモニターの数字を凝視していた。
わずかな重力の歪み。偶然では説明できない兆候。
神代:「これは…説明がつかない」
助手:「まさか…ブラックホールの“種”なんて」
神代:「いや、まだ仮説の域だ。だが、この歪みは偶然じゃない」
岐阜の観測所でも異常波が検出される。技官はつぶやく。
技官:「地球の内部で、何かが潰れている…」
その情報はすぐにSNSや掲示板に飛び火した。
「太平洋に黒い点!?やばいのかこれ」
「これ、マジでブラックホールじゃね?」
「政府は隠してるだろwww」
2ちゃんねる
名無しさん:衛星画像見た奴いる?黒い点あるぞ
名無しさん:うわ…光も吸い込まれてるwww
名無しさん:怖すぎワロタ。準備せなあかんやん
千葉の住宅街、慎一の家族はテレビに釘付けになった。
病気持ちの父・正一はベッドで横たわり、画面の黒い渦を見つめる。
香織は手を握り、悠人は画面の渦を指さした。
香織:「本当に…くるの?」
正一:「俺は…もう行けん。ここで見るしかない」
悠人:「お父さん、あれ…?」
慎一:「大丈夫だ、みんなで一緒にいる」
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第二章:不安の拡大
黒点は日ごとに大きくなる。ニュースは毎日「安全」と言いつつも、映像は不安を煽った。
SNSでは避難の呼びかけやパニックの投稿が増える。
「東京湾まで行くかも」
「避難ルートどうするんだ?」
「スーパー行ったら水もパンもほぼ売り切れ」
2ちゃんねる
名無しさん:みんな車に荷物積んでるぞ
名無しさん:俺んとこは老人がいて動けん
名無しさん:SNSで情報集めろ、これ以外助けない
名無しさん:もう逃げる意味ないんじゃね?
慎一の家族は避難しない決断をする。
父・正一の体調を考慮し、テレビを見ながら状況を確認するしかない。
香織:「本当に…ここで大丈夫かな」
正一:「大丈夫だ。テレビで見ていよう。最後まで一緒に」
悠人:「ぼくも行かない」
窓の外、昼なのに空は黄ばんでいる。
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第三章:避難の段階
道路には長蛇の車列。避難者は携帯を握り、SNSで情報を追う。
「渋滞ヤバい。全然動かん」
「コンビニ寄ったら水もパンも売り切れ」
「親父が病気で動けない…どうすりゃいいんだ」
2ちゃんねる
名無しさん:マジで止まってるwww
名無しさん:子供連れてる奴どうすんだよ
名無しさん:もう逃げる意味ないな
慎一の家族は避難せず、家でテレビを見ながら最期を待つ。
香織:「悠人…怖くない?」
悠人:「怖くない…お母さんとお父さんがいるから」
正一は微笑み、手を握るだけだった。
第四章:避難の渋滞と絶望
昼間なのに、太陽光は赤黒く変色し、街全体が薄暗いオレンジ色に包まれている。
道路は車でびっしり。アクセルを踏んでも数メートルしか進まない。
車内の空気は熱と湿気で重く、人々の恐怖の息がこもっている。
窓越しに見える景色は、まるで世界が液状化したかのように歪み、黒い渦の影が海から迫ってくる。
地面の振動が徐々に増し、車内で立ちすくむ人々はその度に肩を震わせる。
「渋滞止まった…窓から外を見ると人も車も動かない」
「空が赤く歪む…何かが吸い込まれてる」
「ガソリン残量少ない。水もパンももうない…助けて」
2ちゃんねる
名無しさん:高速道路完全停止www
名無しさん:老人と子供連れどうすんだよ
名無しさん:SNSで情報集めるしかない。生き残る方法はそれだけ
名無しさん:もう逃げる意味ないかも
車の中では、泣き声をこらえる親子、携帯を握りしめる青年、絶望で無言の老人が映る。
振動が建物や橋梁を通して伝わり、遠くの崩れる音やガラスの軋む音がかすかに聞こえる。
とある一家
千葉の家。慎一一家はテレビの速報を見つめる。
正一はベッドに横たわり、微かに震える手で画面を押さえる。
香織は悠人の肩に手を置き、悠人は父の手を握り返す。
香織:「もう…来るの?」
正一:「ここで最後まで見る。逃げられん」
悠人:「怖くない…お母さんとお父さんがいるから」
慎一は家族の手をぎゅっと握り返した。
テレビに映る渋滞の車列、赤黒く歪む空、光を吸い込む街。
家族の心臓が鼓動と共に早鐘を打ち、呼吸も乱れる。
第五章:ブラックホール接近・最期の瞬間
空は赤黒く揺れ、渦が迫るたびに光がねじれ、地平線の建物は歪み、海面は引き裂かれる。
風のないはずの夜空に、低く唸る振動音と遠くで割れるような音が響く。
街全体が黒い渦に引き寄せられ、光と影が狂ったように動く。
避難者たちは車内で手を握り合い、SNSや掲示板で最後の声を送り合う。
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「光が消えた…建物も車も全部吸い込まれてる」
「声も音も聞こえない…でもここにいる」
「最後まで家族と一緒にいられる…それだけが救い」
2ちゃんねる
名無しさん:空が渦に飲まれた…声も出せない
名無しさん:子供と抱き合って待つしかない
名無しさん:道路も家も海も、全部消えた
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慎一は香織と悠人を抱き寄せ、正一の手を握る。
振動が強まり、建物の壁や窓ガラスが震え、微かなひび割れが光を反射する。
空気は重く、硫黄のような匂いが混ざり、皮膚に張り付く感触がある。
赤黒い渦が家を覆い、光も音も吸い込まれる。
家具の影が歪み、壁が沈むように見える。
慎一は声を絞り出した。
慎一:「一緒だ…最後まで」
香織:「一緒なら怖くない」
悠人:「ぼくも怖くない」
家族の手が最後の力を振り絞る。振動と轟音が最大になり、世界は完全に黒い渦に飲み込まれる。
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「全てが消えた…でも家族と一緒にいる」
「最後の光景、永遠に心に残る」
2ちゃんねる
名無しさん:渦に吸い込まれる感覚…言葉にならない
名無しさん:最後まで子供と手を握った
渋滞で立ち尽くした車列も、街も、沿岸の人々も、すべて黒い渦に飲み込まれ、光も音も消えた。
静寂だけが残る。
第六章:最後の交信ログ
ISS(国際宇宙ステーション)から地球を見下ろす窓。
かつて青く輝いた地球は、赤黒い渦に完全に覆われ、光の痕跡すら失われつつあった。
窓ガラスには振動による微かな波紋が走り、宇宙船内に低くうなる空気のような音が響く。
通信機のLEDが点滅し、最後の交信ログが次々と記録される。
ISSキャプテン(音声):「地球…視認不能。渦が光を吸い込み続けています」
管制室(地球):「記録を確保…市民避難はほぼ不可能です」
科学顧問・神代博士:「計算はもう意味を持たない…全ては保存するしかない」
モニターには渦の近景映像が映り、地表が黒い渦に引き裂かれ、建物が波打つように歪む。
科学者たちの表情は蒼白。誰も声を出せず、ただスクリーンに映る消滅の光景を見つめる。
SNS・掲示板の最後の投稿
「光も音も消えた…でも、ここにいる」
「家族と一緒に最後を迎えられたことが唯一の救い」
2ちゃんねる
名無しさん:空が渦に飲まれた…声も出ない
名無しさん:最後まで手を握り合った
名無しさん:道路も家も海も、全て消えた
ISSの観測者は、赤黒い渦に吸い込まれる都市の残像を見つめ、通信で残されたSNS・掲示板データを最後まで記録する。
第七章:エピローグ ― 宇宙ステーション
ISSから見下ろす地球軌道には、赤黒い渦だけが残る。
地球全体は吸い込まれ、かつての青い海も緑の大地も、もはや形を留めていない。
宇宙船内では微かな振動が残るだけ。
モニターには最後に記録された地球の映像、交信ログ、SNS・掲示板の投稿が点滅する。
それらは永遠に宇宙に保存される。
第八章:ラスト・ナレーション
「かつて青く輝いた星も、その周囲に生きた者たちも、すべて赤黒い渦に飲み込まれた。もしかしたら宇宙のどこかに、我々のように文明を築いた生命が存在したのかもしれない。しかし、今こうして消えてしまったなら、その文明も、存在も、すべては無となり、誰にも語り継ぐことはできない。だが、彼らの記録、恐怖、愛、思考だけは、宇宙にかすかに残り、永遠に刻まれる」
静寂だけが宇宙に残る。遠くの星々が淡く瞬き、赤黒い渦に飲まれた地球の記憶を静かに映して物語は幕を閉じる。