獏 Ⅲ
残酷な描写があります。
気分を害する表現もありますの注意してください。
獏Ⅲ 瑞樹
もう何回目のお見合いの席だろう。
相手の娘はいずれも着飾って隙もないからおもしろくない。
ただ退屈な時間だ。
親戚のおばさんの紹介でいつもの場所だ。
そんな態度が見え見えなため、おばさんににらまれてしまった。
お見合い成立100組目を目指し真剣だからたまらない。
暇でしょうと言われ無理やり出席させらたのだ。
神妙に相手を待つ。
え、あの顔はまさか?
話をすれば案の定、高校の後輩だった。
でも彼女まだ、高校生のはず?
お決まりの紹介。
話をしたらなんと姉の見合いを横取りしてきたという。
もう笑うしかなかった。
普段の堅苦しい席が一転して先輩・後輩の普通の席に変った。
高校時代は結構悪ですごしていたので怖がって声も掛けられなかったという。
実社会に出て現実の厳しさに態度を改めて一年。
ようやく、みんなに認められ始めたところだ。
仕事が面白いので本来は見合いなどしたくなかった。
だが、彼女なら話は別だ。
卒業間近に入部してきた彼女。
可愛い娘だと思っても2年年下では声をかけるタイミングもないまま追い出しコンパだった。
その席で声をかけられた記憶もあるが同級生との話に夢中だった気もする。
まさか、卒業後お見合いで出会うとは思わなかった。
その後、結婚を前提に付き合うことになった。
そんなデートの場で見かけた占い師。
将来を占ってもらおうと席についた。
もっともらしいことを言うだけの結果だ。
可もなし不可もなしの結果に笑ってその場を離れた。
公園を話をしながら散歩していつのまにかいい雰囲気に。
そのうち、彼女がぼそりと洩らした。
ストーカーにつきまとわれているという。
本人ではなく姉さんが付きまとわれているというのだ。
警察に報告しても具体的に被害があるわけではないので気のせいではと言われてしまった。
事実警察が張り込んでも犯人が見当たらないようだ。
瑞樹は彼女に大丈夫だよと言ってその場を別れた。
その晩、彼女から携帯に電話が入る。
話をしても聞こえるのは荒い息の音だけ。
なにが起きてるのか知りたくて電話を耳に当てる。
しっかり聞き取れないが男がわめいていた。
そして、悲鳴。
しぶきの上がる音。
あわてて彼女の家に向かう。
気が急くので黄信号を進入する。
そこには信号の変わり目で見切りスタートしたトラックがいた。
かわす間もなくトラックの横に突っ込む。
目の前に迫るトラックのデッキ。
思わず目を瞑った。
衝撃に備えて体に力をいれる。
いつまでも衝撃が来ない。
目を開けると占い師が目の前にいる。
驚くことは彼女もなぜか身構えている。
笑うように話をする占い師。
「お二人の相性は最高のようですね」
2人同時に夢を見ていたようだ。
代金を払い席を立つ。
彼女は真っ青な顔で夢の話をした。
別れた後、アパートに入るところで背後からナイフをつきつけられた。
現実にナイフで傷を付けられたという。
そのまま部屋に侵入して縛られてしまう。
姉が帰って来たところで犯人が姉を襲ったというのだ。
隙を見て携帯電話で瑞樹に連絡を入れようとした。
しかし、話をする前に見つかって斬られたというのだ。
遠くで姉が悲鳴をあげていたところまでしか覚えてないという。
そこまで、聞いた瑞樹は思わず占い師を振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
最初から何も無かったように見えた。
彼女からさらに詳しく事情を聞く。
犯人が最初にどこにナイフを当てたのかなどだ。
そして、背中に雑誌を仕込み用心する。
彼女の帰りを少し離れたところで観察する。
夢と同じで犯人は彼女の背中にナイフを突きつけた。
瑞樹は迷わず持っていた棍棒でナイフを叩き落した。
高校時代の剣道は伊達じゃない。
逃げようとした犯人の足を払って倒した。
ナイフを飛ばされ犯人は完全に逃げ腰だった。
その後、簡単に取り押さえることが出来た。
彼女の背中の雑誌は半分までナイフが食い込んでいた。
もし警戒して雑誌を入れていなければ刺されていたことを思うと冷や汗だった。
いやそもそも、本当に夢だったのかと疑っていた。
警察に犯人を引き渡したところに姉が帰ってきた。
犯人の顔を見た姉の軽蔑に満ちた顔。
やはり、知り合いだった。
交際を断ったのだがしつこく言い寄ってきた男だという。
妹の背中の雑誌を見て恐怖の目を開いていた。
警察もそれを見て犯人を連行していった。
その後、犯人は精神鑑定で保護観察処分となった。
彼女と瑞樹はその後彼女の卒業を待って結婚ということになった。
いまでも、あの夢は本当に夢だったのかと疑う瑞樹だった。